【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。
今回の担当:岩野弘明氏
■第38回「プロモーションの拡散力を高める秘訣」
「レッドオーシャンだー」、と言われながらもリリースされるアプリの数はそんなに減らず、売れてるゲームは売上維持のためにガンガンプロモーションをうつ。いまや開発費も高騰しリスクも日増しに高まる一方。普通にゲームを作っていたのではなかなかヒットを出せない…どころか大爆死と隣り合わせな今日この頃となりました。
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そんな中ヒットを出すには、ゲームそのもののおもしろさを高めるのが大前提ですが、そこに関しては過去の記事でいろいろ触れているので、今日は売り方について書いてみたいと思います。
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そんな中ヒットを出すには、ゲームそのもののおもしろさを高めるのが大前提ですが、そこに関しては過去の記事でいろいろ触れているので、今日は売り方について書いてみたいと思います。
■リリース前後のプロモーションは超重要
運営が必要なタイプのスマホゲームにおいては、時期によってプロモーションの仕方が変わってきます。ざっくりわけると、
①リリース数か月前:雑誌やweb記事、twitterなどでの情報出し
②リリース直前:①に加えて事前登録など
③リリース直後:バナーなどの広告(期待値によってはここでCMを仕掛けたりも)
④リリース2~3ヶ月:プロジェクトによって③で全力だしたり控えめにしたりまちまちなので、規模が小さくなることもあればここから大きくなったりすることもある
⑤リリース半年後以降:ここまでの状況によって変わる。期待値が高ければさらに大規模に。そうでもなければ最低限の規模
みたいな感じでしょうか。
1~2年くらい前までは①の必要性があまりないとされていたように見えましたし、とにかく③で開幕予算ブッパみたいに見えるゲームもありました。
で、これからはというと③はもちろんですが、①や②の重要性が非常に高くなると思っています。あと、④⑤の仕掛けの判断は早めにした方がいいでしょう。
現状、とにかく厄介なのが「他のゲームに埋もれてしまう」ということです。特にリリース直後は一番注目が集まる時期なので、そこを逃すと挽回するのは難しいです。それだけゲームの数が多いし、売れてるゲームはその分ガンガンお金をかけてきますので。よって①~③の重要性が高くなります。
ただ、バカ正直に埋もれないようにがんばると、プロモーション費用がもりもり膨らんでいきます。それはある程度仕方がないのですが、予算にも限りがあります。
そこで、効果的なプロモーションを打つ必要があります。
■情報の「拡散力」を高める
プロモーションを打つ目的は認知してもらうことにあります。そのためにCMを打ったりバナー広告をだしたりするわけですが、周りも同じことをしているので普通にやっていたら埋もれます。
埋もれないようにするためには打ったプロモーションを一次的に受け取る層に、次の層へとつなげてもらう必要があります。つまり、そのプロモーションを見た人に「このゲーム面白そうだよ」と周りの人に拡散してもらう、ということが重要になります。これができれば、バナーやCM枠、プロモーション予算の限界を超えて認知が広がります。
じゃあどうすればその拡散力が高まるのか。
a.一次的にプロモーションを受ける層(メインターゲット)の母数を増やす
b.思わず周りに言いたくなるネタを仕込む
c.流行ってる感をだす
※「ゲームのおもしろさ・仕組み」も要素のひとつですが、プロモーションにフォーカスするのでここでは省きます。
aについてはただの掛け算で、拡散してくれる可能性のある層が多い方が拡散規模が大きくなります。重要なのは、その母数をどう増やすかです。特に新規IPの場合はファンが0人からのスタートとなるわけですから、これをどう増やすかは試案のしどころですが、ここで重要なのが①と②のプロモーションです。興味を持ってくれる人のハートをつかんでおくことができれば、その人たちが自ら情報を拡散してくれる可能性が高まります。
ただ、ちょっと前まではそもそも①のプロモーションをかけているゲームが少なく、仮に記事なんかを出したりしても継続的な情報出しができておらずあまり意味をなしていなかった(私自身の反省点だったりもします)。②に関しても同様で、せっかく事前登録に合わせてあの手この手を用いて登録者数を増やしても、リリースする頃には忘れられたり興味が続かなかったりというケースもあったのではないでしょうか。
そんな中①②の期間に「継続的な情報出し」と「拡散のきっかけ」を投入し続けて、拡散元の人たち、すなわちファンを多く作り上げていったタイトルがあります。それが『あんさんぶるスターズ』です。リリース前にもかかわらず公式twitterのフォロワーは6万人を超えていたかと思います。どのようにして増やしていったかは『あんスタ』の公式twitterの履歴を追えばある程度わかるので割愛しますが、そこまでaの母数を増やせれば拡散力はグッと高まります。
■「つっこみどころ」を用意する
ファンの母数を増やしても、彼らが思わず拡散したいと思うネタや仕掛けを提供しないことには始まりません。ちょっと前まで盛んに行われていた「フライングゲットガチャ」なんかも拡散施策の一つですが、これはウザがる人もいますから拡散されてもその次の層に広がっていかないかもしれません(『乖離性MA』でもフライングゲットガチャを実施しましたがウザすぎがられすぎて逆にまとめサイトに取り上げられたことがありました。結果的に認知は広まったかもしれませんが、もろ刃の剣ですね)。しかも最近はシリアルコードの仕組みを使えないので今後は使えないでしょう。
ここでより強くお伝えしたいことは、拡散の動機がフライングゲットガチャ的な「お得さ」ではなく、思わず他人に知ってほしくなるネタっぽさ、言いかえっれば「つっこみどころ」であった方がいいということです。
人は誰しも自分のおもしろいと思ったことを周りに知ってほしい、認めて欲しいと思うところがあります。思わずつっこまずにはいられないような事って、twitterでつぶやきたくなったりしませんか? それにこっちの方が、拡散された情報を受けた人が次につなげてくれやすいです。純粋にその情報自体におもしろさがありますから。
実はこの「つっこみどころ」については、私がプロモーション施策を考える際に一番重要視している部分で、特に何でも受け入れられる空気を持っている『ミリオンアーサー』のようなコンテンツでは強く含んでいる要素です。例えば、サッカーの代表戦でキャラ絵の看板を出すとか、めちゃめちゃ振り切った内容の「弱酸性MA」のアニメを放映するとか。
やり方は様々ですが、この「つっこみどころ」を用意しておくだけで、ファンだけでなくその先にいる人にも拡散をしてもらえる可能性が高まります。つまり、投じたお金以上のプロモーション効果を期待できるわけです。
また、こういった仕掛けはファンの中での盛り上がりを高めることができ、cの「流行ってる感」にもつながります。この流行ってる感が高いと、近くのファンの熱量にあてられ「なんかすごい熱量で盛り上がってるから自分もやってみようかな」という形で商品を手に取るところにつながったりします。
既にファンである、あるいはファンだった人間も「こんなに盛り上がってるんだからずっと続いてくれるはず。安心して楽しめる」「まだ盛り上がってるのか。復帰してみようかな」と考えてくれたりするかもしれません。
なお、「流行ってる感」と書くと、流行ってないものを流行っているように見せかけているように見えるかもしれませんが、そうではなく、既に流行っている、あるいは流行りつつある状況を、より見えやすくする、という意味合いです。ちなみに、CMなんかは流行ってる感を打ち出すのに良い手段だったりもしますね。
この流行っている感についてはまだ言葉足らずというか説明不足感が否めないのですが、またどこかのタイミングで触れてみたいと思います。
…と、そんな感じで、思わず人に伝えたくなるような「つっこみどころ」という要素を、プロモーションに意識的に組み込んでみてはどうでしょうか? というお話でした。 ではでは今日はこの辺で!
P.S.
「落第騎士の英雄譚」の10話と12話、バトルの演出・展開が熱かったですねー!特に熱かった特定の箇所だけ何度も見直してしまいました。笑 演出ももちろんよかったのですが、元の設定やシナリオ展開なんかも相まってのおもしろさだったので、原作の内容とアニメスタッフがかっちりかみ合ったんでしょうね。ゲームのアニメ化にあたっても、是非ああいうかみ合う感じにもっていきたいものです。
■著者 : 岩野弘明
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部) プロデューサー。『乖離性ミリオンアーサー』を筆頭に、同シリーズ全体のプロデュースを担う。
岩野氏のツイッター:https://twitter.com/Iwano_Hiroaki
■安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー
■第37回「ヒット作に必ず入ってくる“三つの条件”」 (安藤)
■第36回「WEBアニメ「弱酸性ミリオンアーサー」を作ってみた結果」 (岩野)
■第35回「起業してわかった、おいしいサラリーマンの仕事の仕方」 (安藤)
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■第33回「ヒットしたければ半径10メートルから飛び出せ!」 (安藤)
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■第31回「プロデューサーとディレクターの違いについて良く聞かれるので明快に答えてみた」 (安藤)
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■第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)
■第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)
■第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)
■第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)
■第4回「IPを育てよう」 (岩野)
■第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)
■第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)
■第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)
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会社情報
- 会社名
- 株式会社スクウェア・エニックス
- 設立
- 2008年10月
- 代表者
- 代表取締役社長 桐生 隆司
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)