【セミナー】8年のチャレンジで培った海外進出手法…JETRO、ドリコム、f4samuraiのキーパーソンが語るスマホゲームの海外展開とその成果とは


アデコグループの人材紹介事業ブランドであるSpring転職エージェントは、4月11日、スマートフォンゲームの海外展開をテーマにした講演会を開催した。同講演会はSpringの転職エージェント以外の取り組みでも支援を行いたいという考えにより、f4samurai社と共催された。
 
スマートフォンゲームの海外展開を早い段階から支援してきたJETRO(日本貿易機構)と、その支援のもと海外展開のための様々なさまざまなチャレンジを重ねてきたドリコムとf4samuraiからそれぞれキーパーソンをゲストに招き、JETROの支援の効果的な活用法や、海外展開を行ってきた両社による振り返りと今後の活動について講演された。本稿では、その様子をレポートとしてお届けしていく。

 

■海外展開の応援隊…JETROの活動とは


▲JETRO黒田紗矢香氏
 
まず冒頭に、JETROの新産業開発課デジタルコンテンツ班の黒田紗矢香氏が登壇し、活動内容やゲーム会社の海外展開について講演した。JETROとは日本国内ビジネスの海外展開を支援する独立行政法人。具体的には、海外の各市場情報の調査や提供、海外にてサービス販売を行う際のバイヤーとの商談会を取り仕切りなどの他に、海外拠点の設立支援が主な支援内容になる。
 
 
特にゲームやエンタメ分野だと知的財産の海外展開における保護など、クリエイターや各社法務部門では中々カバーしきれない部分のセミナーも行なっている。ハリウッド映画の契約における実例を基にした契約条項の交渉ケーススタディなどもセミナーにて共有されたこともあったそうだ。
 
また、JETROでは海外に74拠点の事務所があり、その拠点から現地情報の収集を、各地域の各事業者紹介も行なっている。
 
商談会ではゲームを買いたい、作りたいという海外の企業と日本のゲーム会社をつなぎ合わせる役割を担い、過去には東京ゲームショウはもちろんのこと、China Joy(中国・上海)、games com(ドイツ・ケルン)でも開催、サンフランシスコにて昨年3月に開催された展示会Game Connection America(GCA)では10社の日本企業と共に商談会を行なったそうだ。

 
▲各地を代表する主要展示会に出展してきた。
 
アジア地域最大規模のゲームイベントとなるChina Joy。昨年は東京ゲームショウの1.3倍となる34万人以上の来場実績がある。東京ゲームショウの3-4倍の広さになるので、商談を多く抱える企業は会場内の移動を考慮した時間配分も重要と実際の出展者である佐藤氏も語る。

 

ジェトロと共に海外の見本市に出展するメリットとしては、世界各地のバイヤーや開発者と直接会う機会が生まれるのはもちろん、ジャパンパビリオンとして大規模ブース展開をすることでの出展効果の最大化を図れることが挙げられた。
 

▲ジャパンパビリオンの様子。各国のパビリオンはそれぞれ工夫がされているという。
 
パビリオンブースを運営する以外にも、JETROでは現地の専門家と共に各バイヤーの紹介やビジネスマッチングも行なっているので、独自で集客や運営を行うよりも効率的、効果的に商談成果を挙げられるようになる。
 
また、出展者同士の情報交換により他の日本企業の動きもわかることもあり、様々な情報がみつかることがあるそうだ。
 

▲過去にジェトロ事業に参加したドリコム相見氏は9時から18時までの時間にて、
食事時間以外は全て予定を入れて臨むとのこと。
 
他にも海外のIT企業への訪問ツアーが組まれることもあり、過去にはGoogle社などの訪問機会も組まれたこともあったそうだ。
 
 
他にもゲーム展示会に出るメリットについては、敷居が高いと思われがちな海外市場に対する経験値が上がることに加え、日本企業間のネットワークが構築されることが挙げられ、単独では難しいノウハウの積み上げができることもふれられた。
 
今年度もChina Joy 2019への出展が決定している。興味のある方は下記リンクをご参照いただきたい。
「ChinaJoy 2019」ジャパン/ジェトロブース出展企業募集ページ:https://www.jetro.go.jp/events/dnc/a1c7ee46918b6217.html
 
 

■いかに調査と策定を行うか…ドリコム相見氏が語る海外展開のプロセス


▲ドリコム相見伸之介氏
 
ドリコムからは、グローバル推進部部長の相見伸之介氏(以下、相見氏)が登壇。自身の経験に基づき海外展開プロセスについて紹介した。
 
 
まず相見氏から海外のゲーム市場規模が紹介された。日本のゲーム市場は約190億ドルとマーケット規模では、世界3位となる。一方、英語圏の市場規模は日本市場の2倍となる約380億ドルとなり、英語圏での展開が事業上大きなメリットと語った。
 
ただ、国内でのリリース後に海外仕様を開発するというプロセスを経る場合、新たな開発となることから開発費は増加する傾向にある。

この課題への対処方法として、相見氏からは、当初から海外展開を見据えた国内外同一バイナリーでの開発による費用抑制策が紹介された。経験上、同一バイナリーであれば、国内版の1.3倍程度の開発費で済むという。海外市場の市場規模の大きさは魅力的であることから、当初から海外展開を見据えることは一考に値すると相見氏は語る。
 
次に、具体的な海外展開のプロセスが紹介された。1. 「調査」、2. 「方針」、3. 「HR」、4. 「開発」という4つのプロセスを経て海外展開が行われると言う。
 
 
最初のプロセスである「調査」では、JETROの提供するサービスを活用する他、海外ゲームイベントや商談会にてニーズの有無など、海外市場での感触を掴むそうだ。特に商談会では3日間で30社〜40社と面談できるため、その時点で大まかなアライアンス方針の策定もできるというメリットもあると言う。相見氏は商談数の多いゲームイベントとして、GCA、ChinaJoy、G-Starの3つを挙げた。
 
 
次に、第2のステップである「方針」では、「調査」の結果をもとに、配信国やゲームモデルを定めていく。例えば、全世界配信であれば、UI設計はどの市場でも受け入れられやすい設計となり、日本のアニメキャラクターなどIPを扱うゲームの場合は、そのIPが受け入れられやすい市場を定め、現地のパートナー企業を選定する際もIPを扱うことに慣れているという点を重要視するという。
 
 
また、市場によっては独自の課金価格の設定が必要になってくるという。一例を挙げると、東南アジア市場の課金傾向は日本市場とは異なることから、日本市場における課金価格の設定がそのまま適用できず、独自の価格設定が必要になると言う。
 
マーケティング設計も市場ごとに策定を行い、バイナリーごとにどの程度までカルチャライズするかを決定する。デバッグも日本市場では機能デバッグのみとなるが、ローカライズを実施した場合は、実際に端末上で全てが現地の言語で正しく表示されるか、などを確認するLQA(ランゲージ・クオリティ・アシュアランス。言語デバッグ)を行う必要もある。
 
また、このステップでCS(カスタマー・サポート)、CM(コミュニティ・マネジメント)導入の必要性についても検討するという。コミュニティ・マネジメントとはゲーム・マスターをアサインし、ゲーム・コミュニティにおける、ユーザーとのコミュニケーションを管理、活性化する体制を整える施策で、北米市場や韓国市場では比較的取り入れられている施策だという。
 
 
「方針」を経て、第3ステップである「HR」へ進む。このステップでは、開発体制やアライアンス体制の策定を行う。新規開発の場合、基本方針が決まったのちに人員計画を策定した方が良いと言う。
 
アライアンス体制の策定にあたっては、まずこれまでのステップで決定した項目を全て自社で行うか、また行えるのかを考慮する。開発人員を全て自社で集めるとなると、多大なリソースと時間を要し難易度も高くなるため、自社の有するリソース、ケイパビリティに鑑み、社外とのアライアンスのもと開発を行うか、またその場合どの領域をパートナー企業に任せるか、を検討する必要がある。
 
一方で、海外市場でのパブリッシャーをパートナー企業に任せる場合には条件交渉も発生し、その交渉が長引く場合、配信が遅れることによる機会損失が発生するため、迅速な交渉および的確な取り決めが重要だと語る。
 
マーケティングについても、文化の違いに起因する各市場の独自性に対応したマーケティング施策が必要となることから、現地の代理店を活用するかを協議する必要がある。CSとCMについては、市場によりコストとクオリティが異なるため、両方のバランスを見定め、パートナー選定を行うという。
 
 
カルチャライズでは、キャラクターデザインの現地適合化を検討する。例えば、以前の米国市場では、リアル頭身が受け入れられ、アニメ調は受け入れられない、という傾向があり、米国市場での展開にあたってはキャラクターデザインの現地適合化が必要であると考えられていた。ただ最近では現地適合化を行っていないキャラクターデザインのゲームがヒットする事例があることから、現地適合化は必須ではないのでは、と相見氏は語る。

また、キャラクターデザインとあわせ、ゲームシステムやサイクル、マネタイズについても現地適合化を行う。また、メンテナンスに際しての各市場に合わせた時間設定や、EU市場で配信する際のGDPR(EU一般データ保護規則)対策の必要性についても言及した。 

■ドリコム採用情報
新卒採用:https://recruit.drecom.co.jp/
キャリア採用:https://www.drecom.co.jp/career/

 

事前理解が相手への敬意…8年の海外展開で振り返る「商談会を最大限に活用する方法」

 
 
f4samuraiからはCMOの佐藤允紀氏(以下、佐藤氏)が登壇。佐藤氏はこれまでのモバイルゲームの変遷を振り返ると共に、同社での海外展開の実例を紹介した。
 
振り返りでは、2011年から振り返られた。当時はアングリーバードのどの売切りが人気を博しており、国内でもキングダムコンクエストなどがスマートフォンゲームランキングでも上位を位置していた頃となる。当時はまだ、海外でも通信キャリア主導のスマホゲーム市場になると考えられていた頃になり、この時期に佐藤氏はJETROを通じて現地企業とコンタクトをとり始めたという。
 
そして、2012年からはソーシャルゲーム運営手法も確立され、ゲーム運用を再現することの必要性が企業間でも認識され始めた頃と話す。ただ、パートナー企業がコンソール企業中心のため、運用の大変さや苦労が中々理解されない時期でもあったとも振り返った。
 
そして2014年から2015年の頃になると、海外でも国内のゲームがヒットする事例が増えてきたと話す。アニメ作品に対して月額視聴する海外のユーザーが数百万人規模になるのを始め、物価上昇など国外の消費力が上がった時期とも言える。 多様性が広がると同時に、言語や地域でのステレオタイプではなく、それに因らない興味関心を軸にプロモーションするツールなども普及始めた時期だったという。
 
この頃には、Game Developer Conference(GDC)もジョブフェアとしての側面が強くなり、クリエイターの流動性と人材獲得競争が熾烈になった印象を感じたそうだ。
 
 
ここまでの動きはかなりドラスティックな動きだが、その中でも変わらないものも挙げられた。それはユーザーが何に対してお金を使い、何に満足していただいているかを意識する点だという。自分たちのサービスが、ゲームに限らず、ユーザーが他に触れているものと比べて満足できているかどうかを比べられているという点は常に変わらないことだと話した。
 
その観点からf4samuraiでも様々な施策は海外でも行なったと振り返る、台湾限定のユニットキャラの提供、台湾企業のIPや現地出身の絵師とのコラボ、他にはリアルイベントとして、運営とユーザーが直接関わりを持てるイベントを数回にわたって行なったそうだ。
 
 

▲台湾での『オルサガ 』リアルイベントの模様。
 
そして、2017年からは、開発費の高騰が進み、特に中国では、新興開発会社から大手パブリッシャーが多額の資金でゲームをリリース前に買うことが一般的になり、その流れで日本国内のゲームも買われるケースが目立つようになったと振り返る。
 
2018年には、f4samuraiが開発を手がける『マギアレコード』の中国版配信が発表され、中国でのイベント参加も行なったそうだ。
 
こういった経験を踏まえ、佐藤氏は海外の商談会参加はパートナーとのマッチングメリットに加え、さまざまな違いを把握し、学びを得ることが大きいと語った。
 
 
そんな商談会を最大限に活用する術も佐藤氏は語る。まずはJETROが支援するGAME CONNECTIONを挙げ、商談可能な企業や自社サービスの展開時期や各地域へのアプローチ機会を勘案して、他参加する商談会を選ぶと良いのではと話した。
 
つぎにだれと会うべきか。佐藤氏からはできる限り多くの人と会うことが大前提として、1イベントにつき40社以上、1エリアにて5社以上会うことが理想と説いた。
 
また、同業者からの評価が高いという点も見定める箇所であり、財務情報などの数字が確認しづらい間柄では、同業者毎に話していることに整合性があるかをヒアリングして比較することが大事と話す。
 
また、担当者がどういったポジションかも重要視するそうだ。契約をとることがミッションと考える人とサービスとユーザーのことを考え抜ける人では、商談成果が大きく変わると話した。
 
 
そして、各事業者と会うにあたっての準備も必要と語る。商談時間は30分以内になるので、要点を絞った自己紹介文の用意がいる。また、LinkedInなどの活用、その他知人からの紹介は商談会でも駆使すべきとも説いた。事前理解が相手への敬意になるとも称し、相手の経歴やサービスは調べておくことが結果的に費用対成果を上げる為に重要と話した。
 
 
総じて、パートナー選びでは、会社の格よりも実際に働く人やチームが大事と語り、仕事に一生懸命な人やユーザーに日々向き合っている人とパートナーになれるかが重要と話す。 また、海外の商談会にて、志が近しい日本企業の担当者と出会えることがあるのも商談会の副次的なメリットと語り、セミナーを締めくくった。
 
■f4samurai採用情報
新卒採用:https://job.rikunabi.com/2020/company/r242232036/
キャリア採用:https://www.f4samurai.jp/recruit/
株式会社ドリコム
http://www.drecom.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社ドリコム
設立
2001年11月
代表者
代表取締役社長 内藤 裕紀
決算期
3月
直近業績
売上高97億7900万円、営業利益9億300万円、経常利益7億9300万円、最終利益1億400万円(2024年3月期)
上場区分
東証グロース
証券コード
3793
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