【インタビュー】コロナ禍でDX化を推進した「SPAJAM」は競技レベルも大きく向上 越智政人氏と岸原孝昌氏に聞く総括と今後の展望

木村英彦 編集長
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国内最高峰のアプリハッカソンイベント「SPAJAM 2021」が先日、無事終了した。第8回目となる今回は、すべての予選がオンラインで開催し、本選のみオンラインと温泉地(箱根)でのオフラインを組み合わせたハイブリッド開催となった。

コロナ以前は全国各地で予選を開催し、本選も温泉地で行っていたが、今年は文字認識や画像認識などのAPIを活用し、全チームが動作するアプリを完成させるなど、競技レベルの向上が感じられる内容だった。

今回、実行委員長の越智政人氏(写真右)と、一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)専務理事の岸原孝昌氏(写真左)にインタビューを行い、DX化の推進でSPAJAMがどう変わったのか、次回以降の開催形式、今後の課題について話を聞いた。

――:第 8 回のSPAJAMを終えての感想をお願いいたします。

岸原氏:新型コロナの感染拡大を受けて、この2年間、ハッカソンのDX化を進めてきました。2020年はすべてオンラインで開催し、今回については、予選は全てオンラインで、本選のみオンラインとオフラインのハイブリッドでの開催としました。無事開催できてよかったと思っています。

実際にオンラインでハッカソンをやってみると、運営面ではオフラインよりも楽だと感じることが多いですね。去年はすべてオンラインで実施しましたが、アンケートを見ると、リアルよりも満足度が高かったという事実もありました。参加者にとってもメリットが多かったようです。

もちろん、オンラインだと、配信環境など初期設定はリアルよりも大変でしたが、それを乗り越えると普段のハッカソンとあまり変わりはありませんでした。むしろ、参加者にとってはプレゼンテーションの選択肢が広がるので、リアルのハッカソンよりもレベルが上がったと感じることが多かったですね。

逆に、苦心したのは、参加者同士の横のつながりをつくることでしたね。リアルだと、お互いに作っているものが見えますから、刺激しあってプロダクトのレベルが上っていきます。そして何より開発中に困ったことがあれば、気軽に相談することもできます。これをいかに作っていくかを考えていました。

越智氏:このための対策として、SPAJAMではハッカソンの初日夜に中間報告会をやっていますが、オンラインでは少し変更して2部制にしました。1部ではこれまでと同じような形式の中間発表をやって、2部ではお互いに交流できるような時間帯にしました。

第2部の特徴としては、チーム単位で交流することを主眼においたものではなく、チーム内の個人・職種ごとに交流できるような仕組みにしました。例えば、エンジニア同士、デザイナー同士などと情報交換ができるようにしました。

岸原氏:そうですね。ZOOMのブレイクアウト機能を利用して、個人同士の交流を促すようにしました。チーム単位だと、どうしても公式発表のようになるため、抱えている悩みが相談しづらくなってしまいます。結果としてみると、交流が予想したよりも多くできてよかったのではないかと思います。

越智氏:SPAJAMでは第1回からエンゲージメントを重視していました。横のつながりを強めるため、オンラインでは予選の段階から中間発表会や終了後の交流会と交流できる機会を用意して、チームの垣根を超えて個人同士だけでなく、運営サイドやスポンサーと様々な繋がりが生まれるようにしました。

岸原氏:あと、オンライン開催で気になるのは審査ではないかと思います。これも問題になりましたが、オンライン上のスプレッドシートの中で行っていました。リアルの場合は、各人が審査用の紙に記入してホワイトボードに書き出していましたが、審査員が直接スプレッドシート上に点数を付けていくので集計の手間が少なく、審査手順が非常に効率化されました。


――:今年はレベルが凄く高かったですね。さすが本選だと思い、びっくりしました。

岸原氏:実は予選段階からあのレベルだったんです。今回は学生の参加も多かったのですが、あのプレゼン能力はいったいどこで手に入れたのかと不思議になります(笑) これまで学生チームは、タイムスケジュールやタスクマネジメントなどほとんどやったことはなかったでしょうから、いいアイデアがあっても作りきれないことが多かったんです。ここ最近はそんなことはなくなりました。

きちんと動くものを作りきって、あの巧みなプレゼンをみせられると、最近の大学教育では本当に実践的なことをやっているのではないかと感じています。

越智氏:そんな学生のために、SPAJAM道場というハッカソンを用意していました。昨今のコロナの事情もあって今年は開催できていませんが、学生チームがSPAJAM本選のレベルがあがって予選を突破できない状況に対応したものでした。しかし、今年のSPAJAMをみていると、学生チームでも予選のレベルが上がっているので、きちんと突破できるようになっています。

岸原氏:クラウドベンダーさんがAIやOCRなど様々なAPIやツールを提供するようになっており、それらをうまく使いこなして、きちんとしたソリューションを仕上げてきたのは感心しました。


――:そういえば今回、学生はどのくらいの割合だったんでしょうか。

岸原氏:半分以上が学生のいるチームですね。大学院生は、人工知能をたくみに駆使してレベルがすごい高いですね。優秀な学生を社会が潰さないようにしないといけないと思います。優秀な学生が入社しても、いきなりサービスモデルを作らせて上げるところは日本企業では少ないんじゃないでしょうか。

越智氏:昨年くらいから学生のレベルが急激に上がってきたと感じます。SPAJAMのレギュレーションで、過去に本選に出場したチームは、3人まで出場できるけど、2人は新しい人を連れてきてくださいと伝えています。強い5人が来ると毎回同じチームが地方予選を勝ち上がってしまうので、学生も含めて他のチームにチャンスがなくなってしまいます。SPAJAMの参加者を増やして裾野を広げるようにしました。追加メンバーに学生が入れば、経験を積むことができます。

岸原氏:以前ですと、社会人の方がプロダクトとしての完成度が総じて高かったのに対して、学生の方は縛りがない分、独創的なアイデアが多かったんです。市場性についてはともかく、問題設定からロジックを組んで、きちんとソリューションを組み上げてきています。そしてデザインも巧みなプレゼンもあって、我々としても学生たちのレベルの向上は嬉しいかぎりですね。

今まではアプリが完成しなかったチームを励ますようなことが多かったんですが、最近だと審査員も「こんなAPIを使うともっとよくなるよ」「こういう要素を入れるともっと良くなる」などと建設的なアドバイスを送るようになってきています。

越智氏:他のハッカソンはわかりませんが、ここ1~2年で、24時間かけてアプリが動かなかったというチームはほぼなくなりましたね。ハッカソンのレベルも当初からかなり上がりました。

岸原氏:SPAJAMは、審査員のレベルも高いんです。SPAJAM参加者からは他のハッカソンのように訳のわからないコメントを言う人がいなくて、すごく的確なコメントがもらえたというアンケートの回答がありました。

審査員の方々には、最初に24時間という短時間で作ったことをリスペクトし、良いところから褒めた上で、批判するならしてくださいと伝えています。これがないと、どんな良い内容でも悪意と感じてしまう人もいるからです。

また、審査員の方々は、一線で活躍している方ばかりですから、参加者の至らないところが目につくかもしれませんが、審査する際には目線も落としてほしいとも伝えています。趣旨をご理解いただいて、コメントも的確で建設的なものばかりとなっています。

――:今後の開催スタイルに関してなんですが、今のような形を継続されるお考えでしょうか。

越智氏:その点は、これから実行委員会で検討します。オンライン開催の良い面も悪い面も見えてきました。以前のように地方でのオフライン予選を復活させるか。新型コロナの状況次第ですが、きちんと分析して検討していきたいと考えています。

岸原氏:オンラインの良さは、チームメンバー同士の居住地域が離れていても同じチームとして参加できることです。

越智氏:そうですね。例えば、福岡予選をやる場合、そこに行かないとチームを組むことができません。日程も複数ある中から合うものが選択できます。北海道予選に出たいけれども、日程が合わないから諦めるということがありません。

岸原氏:他方で、いままでは大挙して参加してきた専門学校生の出場がオンラインになったことで減っています。以前は学校単位ですごい数の参加申込がありました。学校に備え付けのパソコンを使っていたり、自宅にオンライン開発に対応した環境になっていなかったりと、大きなハードルがあるのかもしれません。専門学校の先生にお話を伺いたいと思っています。


――:学生さんからするとSlackやZOOMに入ることからハードルがあるのかもしれませんね。

岸原氏:ZOOMやSlackは、普段使っている我々からするととても便利なんですが、普段使っていないと、「なんだこれは」となってしまうのかもしれません。そして、ZOOMでつながってビデオ会議を行って、スプレッドシートで意見交換して…といわれたら、ちょっとハードルが高いと感じられるのかもしれないですね。そういった点は、若い人には簡単に乗り越えられると思います。

――:最後に今後に向けて課題は。

越智氏:我々もあくまで社団法人ですので、営利目的でSPAJAMをやってるわけではないのですが、規模をどう大きくしていくかが課題ですね。クオリティの高いハッカソンを実現できており、評判を聞きつけて参加を希望されるチームが増えています。ただ、我々のキャパシティに限界があって、これ以上大きくするのは難しい状況です。協力していただける企業やパートナーがいらっしゃれば…と思います。

SPAJAMの利点の一つは、エンゲージメントの高さといいますか、過去に参加して賞を獲得した方々が非常に協力的に動いてくれることです。ナレッジや人的リソースがだいぶ蓄積されているのに、MCF単体で動かせるイベントの規模としては限界に来ています。大変もったいないので、これを拡大するためにどうしたら良いのかが本当の意味での課題だと思います。

岸原氏:企業の宣伝目的やリクルーティングなど短期的な目的のためにハッカソンが開催されることが多いですが、われわれはあくまで業界全体の底上げを狙っています。言い方は悪いですが、スポンサーになっていただいている企業さんにとっても直接的なメリットがあまりないのを承知でご協力いただけているわけです。

ですが、皆でお金や労力を出して、こういう活動をやっていかないと、産業を支える土壌が育ちませんし、発展もしません。24時間という限られた中で、全力で取り組むことでクリエイターは大きく成長し、横のつながりも生まれて最終的には企業や産業の利益になっています。

越智氏:SPAJAMは、開催当初から世界に通用するアプリクリエイターの創出を掲げています。世界に通用しているかどうかはまだなんともいえませんが、優勝チームや本選に出場するチームの人の中には、SPAJAMをステップにして大手企業に転職したり、独立して活躍したりと実績を残しています。我々はもちろんですが、参加しているメンターもチャレンジを支援するという土壌があります。

イベントの規模がもっと大きくできれば、優秀なクリエイターがもっと力を発揮できるような場にできるはずなんです。ポテンシャルの大きさにも関わらず、規模を大きくできない現状はとてももったいないと感じています。極論ですが、ご協力いただける企業や団体と協力して、SPAJAM規模のハッカソンを毎月開催するといったことも考えています。

岸原氏:こういう活動は、営利目的での開催だと成り立ちづらいです。24時間という限られた時間できちんと動くアプリを作り上げるということは、とても濃縮した非日常的な体験です。ここでの体験は、日常業務でも活かせることが多いはずです。

業界の発展のために、という目線でご協力いただけるパートナーと一緒にできれば、もっと良い循環が生まれてくるはずです。ご興味のある会社・団体の方には参加していただくか、見ていただくだけでもその魅力をわかっていただけると思います。ぜひお声がけください。

――:SPAJAMは、私も今回で6回目の取材参加となりますが、年々レベルアップが上がって充実した内容になっていると思います。ありがとうございました。

 

一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)

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