ブシロード橋本社長インタビュー 9ヶ月決算は大幅増益も「回復途上」 絶好調『シャドウバース エボルヴ』は需要への対応に注力 社員発IPなど組織改革の成果着々【追記・修正あり】
ブシロード<7803>は、5月13日、第3四半期決算を発表すると同時に、2022年6月通期の業績予想の上方修正を行った。今回、同社の橋本 義賢社長(写真)にインタビューを行い、第3四半期の決算を振り返ってもらいながら、ブシロードの事業の大きな変化についても語ってもらった。
まず、発表した数字は以下のとおり。
【第3四半期累計の決算】
・売上高:290億2300万円(前年同期比6.8%増)
・営業利益:19億6700万円(同365.0%増)
・経常利益:32億0800万円(同512.2%増)
・最終利益:20億3300万円(前年同期1億6100万円の損失)
※決算期変更のため前年同期との比較は参考値。
【2022年6月通期の見通し】
・売上高:400億円(前回予想387億円)
・営業利益:25億円(同22億円)
・経常利益:41億円(同31億円)
・最終利益:23億5000万円(同22億円)
――:よろしくお願いいたします。まず、第3四半期の決算について振り返りからお願いいたします。
新型コロナウイルスのネガティブな状況から徐々に正常化してきていますが、本業の状況を見るとまだまだ回復途上にあると見ています。前期に比べると経常利益は確かに伸びていますが、今期に関しては、J-LODliveからの補助金や、為替差益によって助けられたところが大きかったといえます。当社は、ドル建ての資産もありますので、円安になったことで為替差益が発生した、ということです。
事業を見ていくと、北米やアジアなど海外が良かった年だったといえます。これまでも何度かお話をさせていただきましたが、海外で日本のアニメが視聴されるようになって、ここ1~2年で海外のお客様が急激に増えました。体感では、倍増したとも感じます。
当社の主力トレーディングカードゲームである『ヴァイスシュヴァルツ』は、ブシロードIPだけでなく、日本の人気アニメ作品などとコラボを行い、大きく伸びました。海外の売上比率も年々伸びていて、この傾向は今後も続くだろうと見ています。
海外ビジネスに関しては、グループとしても強化していく考えです。新型コロナウイルスが以前より落ち着いてきて、海外との往来が徐々にできるようになってきました。これまでずっとできなかった海外でのカードゲームのイベントを4月から約2年ぶりに再開していますし、カードゲーム以外ではプロレスの海外興行にも力を入れていくことになるでしょう。逆に海外の選手も来日できるようになってきましたので、国内の試合も盛り上がっていくと思います。
新日本プロレスに関しては、選手層の充実や社内体制の強化が進んでおり、これまでアメリカで大型興行を行うと、日本国内での興行はお休みにせざるをえなかったのですが、日本とアメリカ同時に大型興行を開催できるようになってきました。
プロレスだけでなく、ブシロードIPに関するイベントも同様です。音楽ライブなども海外でも徐々にできるようになってくるとみています。
――:ブシロードのIPにおいて音楽ライブは重要な存在です。国内に関しては中小規模会場でのイベントが多かったとのことでしたが、徐々に変わるのでしょうか。
そうですね。マスクの着用がまだ必須ですし、大きな声を出すことができません。お客様が心から楽しめる状況になるにはもう少し時間が必要かもしれないと感じていますが、徐々に大きな会場でのライブも開催していきます。
プロレスも同様で、大きな大会を開催するようになってお客様も増えていますが、声援を十分に挙げられる状況にありません。選手にとってお客様の声援は、やりがいにつながるだけでなく、試合の盛り上げにも欠かせない存在です。選手とお客様のキャッチボールで試合を盛り上げていくからです。
プロレスや音楽ライブは、徐々に戻ってきている状況にあり、今後も少しずつ正常化に近づいていくと想定しています。ある日を境に突然戻るという想定はしていません。
――:音楽ライブに関しても有明アリーナやベルーナドームなど大きな会場でのライブを発表していますね。
はい。これまでは中小規模の会場で開催回数を増やすことで対応してきましたが、大型会場でのライブも増やします。意外に思われるかもしれませんが、中小規模のライブ会場であっても、きちんと利益が出せているんです。
――:来場者の上限が限られる分、中小規模の会場では利益は限定的と思っていましたが、かならずしもそうではないということですか。
はい。特に大型会場での音楽ライブは、機材やスタッフ、設営などがその分、大掛かりになります。そのため、会場費や運営費、制作費などが大きくなります。さらに新型コロナウイルスで入場制限なども行うと、収益的に厳しい状況になる可能性があります。いまは完全な追い風とは言えないまでも、向かい風からちょっとずつフォローの風に変わりつつあると認識しています。
――:そうしたなかで、女子プロレスの「スターダム」が最高売上とのことでした。
「スターダム」は、非常に好調でした。選手やスタッフ達の現場の頑張りで試合のレベルが上がり、白熱した試合が展開されていることもあって、ファンになる方がどんどん増えている状況にあります。
――:ゲームですが、スマホゲーム業界も難しい状況になりつつあり、他社を見ていると、ブロックチェーンゲームやメタバースに注力するといった話が増えてきています。ブシロードとしてはコンソールゲームやPCゲームにも力を入れていくスタンスなんでしょうか。
はい。これまでゲームに関しては、モバイルゲームだけでずっとやってきましたが、昨年、『バンドリ! ガールズバンドパーティ!(ガルパ)』のNintendo Switch版を出したように、マルチプラットフォームで対応する方針に切り替えています。自社IPだけでなく、他社様からお借りしたIPのゲームも手掛けています。
ただ、ゲーム事業は、あくまで自社IPが基本です。自社IPのパワーが戻ってこないと、ゲーム事業の復活は難しいと考えています。『ガルパ』は、来年春に大型アップデートを予定していますし、「バンドリ!プロジェクト」としては「MyGO!!!!!(マイゴ)」という新しいバンドの挑戦も行っていく考えです(※)。これまで手掛けたIPの新作も考えています。これから1年かけて再起動を行います。
(※)一部表現に言葉足らずな部分があり、誤解を招いてしまいましたので、追記・修正をしました。
――:カードゲームの話に戻しますけど、『シャドウバース エボルヴ』は、大変好調で上方修正の要因になりましたね。
当初の計画では、『シャドウバース エボルヴ』の収益は見込んでいませんでした。どのくらい売れるのか、まったく見当がつきませんでしたから。1回目の上方修正でも同様です。注文数や予約数の状況からようやく数字が読めるようになったので、今回の計画に入れることができました。
――:私も先日、秋葉原に行ったとき、カードショップはほぼ売り切れでした。
お陰様で、多くのカードショップに取り扱っていただいていますが、やはり『シャドウバース』の絶大なブランド力を感じました。ブランド力があるからこそお客様からの信頼につながって、実際に買って遊んでみたらゲームとしても面白かったと受け止めていただいたのだと思います。
――:今後は『ヴァイスシュヴァルツ』や『ヴァンガード』とともにカードゲームの柱となっていくイメージなんでしょうか。
はい。『シャドウバース エボルヴ』に関しては、需要に対して供給が追いついていない状況ですので、どこまで伸びるのか、我々もまだ読み切れていません。いくつかのシナリオを立てて試算してみましたが、振れ幅がまだ大きくて、年間ベースでどれくらいの寄与があるのか、まったくわからないというのが本音です。とにかく今は欲しい方の手元に届くことに力を入れています。
――:しかし、ここまでお聞きすると、上場時に比べてビジネスがだいぶ変わったように感じますね。
そうですね。以前は自社IPを中心にビジネス展開を行ってきましたが、『ヴァイスシュヴァルツ』や『シャドウバース エボルヴ』のように他社様の作品をお借りするビジネスが増えてきました。グッズ関係のビジネスや音楽も他社IPの比率が大きくなっています。
また、数字として伸びている途上ですが、広告代理店や音響制作の仕事をメインでやっている子会社のブシロードムーブは、当初はインハウスの広告代理店でしたが、現在では業務内容も広がり、社内向けだけでなく他社様からの仕事が増え、全体の4割を超えるようになっています。
――:4割ですか。それはすごいですね。
こういうことをいうと、「IPディベロッパーになるんじゃなかったのか」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、もちろん、自社IPの開発は続けていきますし、新作もこれからも出していきます。自社と他社のIPをバランスよく組み合わせていくことが大事だと考えています。
――:新型コロナウイルスの2年間で会社の中身が様変わりしたと。
そうです。かつては典型的なトップダウン経営という時期がありました。しかしいまは現場への権限委譲が行われており、社員が事業に対して主体的に動けるような体制になりつつあります。
『バンドリ!』もプロデューサーに権限が大幅に移譲されました。来年の大型アップデートに成功すれば、会社としても良いモデルケースになりますし、会社の体制もより盤石になっていくと思います。私としても重要な挑戦として期待しています。
――:木谷会長以外からも自社IPやビジネスが生まれてくると、会社としても一段と成長できそうですね。
はい。社員発のプロジェクトでも成功事例が徐々に増えてきている点も注目いただきたいですね。例えば、子会社のブシロードクリエイティブが手掛けている「TAMA-KYU(たまきゅう)」はユニークなカプセル玩具を提供しており、大変伸びています。
まだ十分な結果が出ているわけではありませんが、これから社員が新しいIPや事業を生み出して、しっかりと結果が出せるようになると期待しています。これからが本当に楽しみな状況になってきたと思います。
――:ありがとうございました。
会社情報
- 会社名
- 株式会社ブシロード
- 設立
- 2007年5月
- 代表者
- 代表取締役社長 木谷 高明
- 決算期
- 6月
- 直近業績
- 売上高462億6200万円、営業利益8億8200万円、経常利益18億9800万円、最終利益8億400万円(2024年6月期)
- 上場区分
- 東証グロース
- 証券コード
- 7803