【インタビュー】NHN PlayArtの企業理念に迫る! プロデューサー川口氏の“聴く力”がゲームの可能性を広げる!


LINE:ディズニー ツムツム』や『妖怪ウォッチ ぷにぷに』、『#コンパス 戦闘摂理解析システム』などの開発を手がけ、ビッグIPのカジュアルなゲームからノンIPの本格派ゲームまで、多岐に渡ったジャンルでヒット作を生み出してきたNHN PlayArt

同社では、「プレイしてすぐ楽しいゲームを、本気で突き詰めつづける」を信念にスマートフォンゲームを国内外に展開しており、昨年10月にはコーポレートロゴ刷新も行なった。

そのロゴには、NHN PlayArtが掲げているゲームづくりへの想いを体現しているという。

そんなNHN PlayArtで働くStudio UP!スタジオ長・取締役でプロデューサーでもある川口康幸氏に、ゲーム開発へのこだわり、チームで動くにあたって重要視していることなど、詳しくお話を伺ってきた。



人との出会いがゲーム業界への道を繋ぐ

──:まず、川口さん個人の経歴からお伺いしたいのですが、ゲーム業界に入られたきっかけはなんだったのでしょうか?

川口:元々はゲーム業界とは関係のない工場勤めをしていのですが、ある時東京にいる先輩から「お前ゲームが好きだし、ゲーム作る仕事をやってみれば?」と、小さい会社の募集記事を送ってもらったのがきっかけでした。

そこでは当時、全職種を募集していて、自分には絵を描く技術やプログラムを組む能力がなかったのですが、ゲームのことを考えることはできるだろうということで(笑)、右も左もわからないままプランナーとして応募したんです。

──:入社してからの経緯もお聞かせください。

川口:プレゼンという言葉すら知らないようなド素人の状態で()、ゲームの企画なんてできるのか不安もありましたけど、その会社で気が合うデザイナーの先輩に出会えまして、その人に色々と教えてもらいながら、ひとつひとつ覚えていきました。

──:ちなみに時代的にはいつぐらいの頃に転職されたんですか?

川口:ファミコンからスーパーファミコンに移る頃でしたね。当時は専門学校もありませんでしたし、どうやって業界に入ればいいのかもよくわからない世界でした。誰もが知るような有名な会社は色々なタイトルを出していましたが、僕が受かった会社は小さい会社だったので、「ゲームを仕事にして飯が食えるのか?」といった不安はありました。

──:その会社には長く在籍していたのでしょうか?

川口:いえ、小さい会社だったのですぐ潰れてしまいました(笑)。ただ、そこでプランナーとしての経験を積めたおかげで、次の会社に入社でき、スーパーファミコンの企画を任されました。それ以降もずっとプランナーとして業界に携わりながら今に至っています。

そこでソフトを1本仕上げたあとに、次回インタビュー予定の遠藤と知り合いました。そこからずっと一緒にゲーム制作をしています。彼はデザイナーで、僕より12年早く業界に入っており経験もあったので、企画に関しても色々と相談に乗ってもらったりしていました。そのまま長いこと一緒に仕事を続けてきて、今のスタジオもふたりで回しているような形です。

──:その後、NHN PlayArtに入社するに至ったいきさつもお聞かせください。

川口:担当していたコンシューマーのタイトルが完成したあと、遠藤が在籍していた会社を辞めてハンゲーム(NHN PlayArtの前身である会社)に入ったんですけど、そこで以前作ったジャンルのゲームを作るため経験者が欲しいという話が出ており、ハンゲームに来ないかと誘われたんです。

コンシューマーの開発費や開発期間が膨らみ、技術的にも大手でないと戦って行けない時代になってきている中、ハンゲームではこれまで経験が無かったオンラインゲームの開発・運営という新しい仕事ができるという点と、割と自由に面白いことがやれそう、という点から転職を決めました。遠藤とはゲーム制作に関する考え方が似ていたので、新たなフィールドでまた一緒に組んでゲームを作れるという点でも期待感はありました。

──:コンビでゲーム制作を続けられてきたというのは、なんだかTVドラマの『アトムの童』みたいですね。ここまでのお話はずっとコンシューマー向けに制作をされていたとのことですが、そこから他のプラットフォームに移ることには抵抗はありませんでしたか?

川口:PC向けのオンラインゲームの制作は全くの未経験だったので、どう進めるのかを知るまでは不安はありましたが抵抗はなかったですね。入社後すぐにいろんな仕事が降ってきて、制作のスピード感がコンシューマーとは全く違い、とにかくスピード重視でリリースしていくスタイルは慣れるまでは大変でした。いい年して未経験からのスタートだったので色々と苦労はしましたが、全てが新しく楽しかったです。

──:ハンゲームに入られて、どのようなところが特徴的だと感じましたか?

川口:ゲームの運営という仕事をしたことが無かったので、未完成な状態でもリリースし、お客さんの反応を見ながら次はどういう改修をすべきか考え、機能を追加していくという流れには驚きました。深刻なバグが見つかれば回収騒ぎになるようなコンシューマーでは考えられないやり方でしたからね。

 

■理想のゲームはいつでも遊べていつでもやめられる

──:ここからは、クリエイティブに寄ったお話を伺いたいのですが、川口さんはゲーム制作において大切にされていることはありますか?

川口:僕自身も遊びたいというところがあるので、簡単に始められていつでもやめられる。でも、やめたあとでもすぐに復帰して繰り返し遊べるようなものになるよう意識しています。

──:企業理念でも「プレイしてすぐ楽しい」という指標を掲げていますが、川口さんが考える「プレイしてすぐ楽しい」ゲームはどういうことだと考えていますか?

川口:そうですね、年齢や性別といったパーソナリティに関係なく遊べ、友人などから「ちょっと遊んでみて」と渡されて12分触ってみるだけで遊び方や楽しさが伝わるようなものでしょうか。興味があって遊んでみようと思ったゲームが、説明書を読みこまないと分からなかったり、面倒なチュートリアルを踏まないと先に進めなかったりしたら、すぐに楽しめませんからね。


──:そのように考えるようになったきっかけはありますか?

川口:僕はRPGをやり始めると町の人のセリフを全部聞いて、すべての選択肢を網羅しないと我慢できないタチで、途中で挫折しちゃうんですよ(笑)。

なので、遊ぶゲームは好きなタイミングやちょっとした空き時間にサクッと遊ぶものが好きでした。そんな訳で格ゲーには一時期ドハマりましたね。一試合はすぐ終わりますが、勝てばちょっと長く続けられ、負けても短時間で遊んだという満足感が得られるので性に合っていたんだと思います。

──:どんなものを作ったのか具体的にお聞きしても大丈夫ですか?

川口:コンシューマーでは10数本は作りました。ジャンルは多岐にわたっていたのですが、シューティングとレースは何故か作ってません。ハンゲームに入った後は、オリジナルからローカライズまでやはり10数本くらいは作りました。

──:部署ではどのように役割を分けているんですか?

川口:開発当初は僕が企画とチームのまとめ役、遠藤は企画とアートディレクションを担当し、2人とも最前線に立って作ってました。現状ですとポジション的には2人ともプロデューサーになり、遠藤は現場で指揮を執ったり企画やデザイン監修をしたりしています。僕は上層部とのやり取りや事業計画を立てるなど数値周りの業務を担当しています。

■チームを促進させるのは歯向かうぐらいの主体性

──:川口さんは、チーム制作において何を大事にすべきだとお考えですか?

川口:言われたことだけをやるのではなく、タイトルは自分のものだという考えをもって主体的に働くことです。僕や遠藤が持っているスタジオでは、メンバーにもちゃんと意見を言うようにしてもらっています。こちらからトップダウンで指示を出し続けるわけではないですし、僕たちはこう考えているけど、皆がどう思っているかを職種に関係なく議論し、面白いと思うものを実現するために動いてほしいと伝えています。

例えそこで喧嘩になったとしても、最終的に良いものができるのであれば、皆納得するはずです。やっぱり、やってほしいことを伝えたときに「こうした方がもっと面白くないですか?」と言ってくれる方が、こちらとしてはありがたいというか、嬉しいです。歯向かってくれるぐらいの方が一緒にやっていて楽しさがあります。

──:そのために意見しやすい空気作りなど、工夫している点は何かありますか?

川口:スタート時点では、割とベテランクラスの人たちが集まって開発を進めていたので、簡単にそういう空気を作れていました。その後、中途や新卒、他のチームからの異動メンバーが増えてからは、業務だけではなく雑談をする中でも「自分の考えを主張して一緒にゲーム作りに参加してほしい」という意図をしっかりと伝えるようにしています。

──:ちなみに、現在のチームメンバーにはどういった特徴を持っている方が多いですか?

川口:みんな自分の仕事にこだわりを持ち、良いものを作ろうという意識が高い人が多いです。上司に対してもちゃんと意見を言ってくれるし、自分が担当している以外のパートに対しても意見を出しているので、良い意味で議論が絶えないチームになっていると思います。

──:現在、川口さんが求められている人材や職種についてもお聞かせください。

川口:職種に関しては、全職種欲しいと思っています。

人物像としては、先ほどお話しした通り、タイトルを自分のものとして考えて主体的に動ける人がいいですね。

実際にタイトルがリリースされると、身近な人たち、例えば自分の家族や友達も触ることになりますから、どういう遊びを盛り込んだらそういう人たちに喜んでもらえるのかをちゃんと考えて、自分なりの主張を持ってチームの皆と戦いながら作ってくれるような人が欲しいです。

──:ちなみに、自分の考えた意見をアウトプットしやすくするためには、どういったことをすべきかアドバイスはありますか?

川口:コミュニケーションが重要になると思います。一方的に自分の考えを伝えるのではなく、他の人の考えていることを自分なりに理解しないと始まらないかと。そのためには、まずはちゃんと人の話を聴くことから始まると思っています。

例えば、僕なんかは若い女の子の気持ちというのはわからないわけですよ。であれば、まずはちゃんと話を聴いて少しでも理解するところから始めないといけません。受け止めるところからスタートするんです。人それぞれに考えていることが違いますし、話を聴いて相手がどんなことを考えているのかがわかると面白いじゃないですか。僕自身も勉強になることがたくさんあるので、話を聴くのが楽しいんです。

──:やはり会話そのものに楽しさがありますよね。川口さんはチームの運営や後進の育成において意識されていることはありますか?

川口:コロナ禍前は、自分の机で黙々と作業するというよりも、人が集まって立ち話をしているところに混ざっていって、そこで意見交換をしたりしていたんです。今はそれができない状況ですし、チャットにいきなり混じっても上手く盛り上がらないので、やっぱり現場で会話に入っていって盛り上げるということはやっていきたいなと思っています。


その会話のなかでお互いに考えていることがわかったり、ゲームを面白くするための意見が生まれたりするということは多々あるので、そういった会話の機会を大事にしていきたいです。

──:先ほどのお話もそうでしたが、コミュニケーションを重視されているんですね。

川口:技術力が高い人は当然欲しいですが、それ以上にチームで制作を進めていくものですから、メンバーと上手くやっていける人や、情熱を持って仕事をしてくれる人が望ましいです。たとえ技術が一歩劣っていたとしても、自分の仕事に情熱を持っている人であれば、先輩たちは喜んでフォローしてくれます。もっと良いものを皆で作っていこうというスタッフが揃っていますから、技術以上に人と会話しながらゲームを作っていける人が一番欲しいです。

■幸せを感じられるチーム作りから誰もが幸せになるゲーム作りへ

──:最後に、川口さん自身が今後やっていきたいことについてもお聞かせください。

川口:僕の元に集まってきてくれたスタッフが、幸せになるような環境を作りたいと常々思っています。PlayArtに入ってゲームを作る以上、そのゲームで成功体験をしてもらいたいんです。「まずは自分たちが作ったゲームを世に出し、そして多くのお客さんに楽しんでもらい、その結果一定の評価を受けて成果に繋がる」そのようなゲーム作りを目指したいです。

──:それで言うと成功体験は特大級ですよね。

川口:そうですね。やっぱり自分たちがまず楽しめることを忘れないようにしながら、身近な人たちが遊んでくれた時に笑顔になってくれるようなものづくりは続けていきたいと思います。ただ、僕自身はもう年齢が年齢なので(笑)、ものづくりというよりは会社やチームを上手く回る形にしていくことも考えないといけないとは思っています。最後の最後までクリエイターでいたいと思う気持ちも残ってはいます。

──:川口さん自身は、クリエイターとしてどんなゲームを作りたいといった構想はありますか?

川口:やっぱり、すごく簡単で誰でも手軽に遊べるものですね。コンシューマー、スマホに限らずです。

課金形態についても考えているところはあって、多くの人に遊んでもらって少しずつお金をいただいて、それが大きな収益になるという形が理想です。『ドラゴンボール』の元気玉みたいなイメージでしょうか(笑)。10円、20円、100円、200円くらいなら払ってもいいという人たちにたくさん楽しんでもらえるようなゲームを作って、より多くの人に遊んでもらいながら、ほんの気持ちでいいのでお金をいただいて、会社としても潤っていくようなタイトルがあれば誰もが幸せになるかなと思っています。

──:そういう考えを持たれるようになったきっかけはあるんでしょうか?

川口:コンシューマーのタイトルを作っているときは、ソフトを買う時にお金を払ったら、そこから先お金を払うことはないじゃないですか。ハンゲームに入社して運営型のタイトルを担当した時に、毎月ゲームを1本買えるぐらいのお金を払っていただいた方たちに対して何か申し訳ないなと思ってしまいまして。

であれば、毎月払う金額がジュース代くらいの100円できれば罪悪感も薄れるので、こちらとしても気兼ねなくお金払ってくださいという仕組みを作れると考えた訳です。なにせ5年遊んでようやくコンシューマー1本分の課金額ですからね(笑)。

楽しむためにお金を払ってもらうのもいいのですが、プレイしてすぐ楽しいゲームを遊んでもらい、その先で「開発スタッフさん楽しい時間をありがとう。これはほんの気持ちです」というサイクルを実現したいなと思っています。

――:本日はありがとうございました。

 

NHN PlayArt株式会社
http://www.nhn-playart.com/

会社情報

会社名
NHN PlayArt株式会社
設立
2015年10月
代表者
代表取締役社長 丁 佑鎭
決算期
12月
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