【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。
今回の担当:岩野弘明氏
■第32回「上司と真逆のプロデューサー論」
※今回の記事、なんか前にも似たようなことを書いた気がするので、途中で飽きたらP.S.まで飛ばしていただければと思います!
先週の安藤さんの記事(関連記事)にプロデューサーとディレクターの役割と関係性について書かれていました。実は、この部分の特にプロデューサーの役割について、私は私で別の考え方を持っているので、今回はそのことについて書いてみたいと思います。
(私は以前まで安藤さんの部下としてプロデューサーをしていたので、そんな私が安藤さんとは違ったやり方でプロデュースしているというのも、プロデューサーは十人十色という意味でおもしろいかな、と思って書くことにしました)
■プロデューサーはおもしろさについて議論すべき
まず、最初に標榜しておくと、私はおもしろさに関してディレクターや開発スタッフと議論するタイプのプロデューサーです。例えば、『乖離性ミリオンアーサー』でも開発最終局面において、おもしろさの議論を重ねた結果、バトルルールをほとんど改修しリリースしました。流石にその時はギリギリすぎたので、その反省を生かしもうすぐリリース予定の『アリスオーダー』についてはそこまでギリギリではないですが、似たような感じで調整してました。
プロデューサーとディレクターはそれぞれの責任のもと、それぞれの分野に不可侵であった方が理想かもしれませんが、こと現在のスマホF2P市場においてそれは限りなく難しい、というのが私の考えです。
というのも、ご存知の通りスマホF2Pは基本的におもしろさとしっかりしたマネタイズが両立していないと売れません。でもゲームのおもしろさとマネタイズをどちらも高レベルで押さえたディレクターはそんなに多く存在しません。
じゃあディレクターはおもしろさだけを考えて、マネタイズはプロデューサーなり別の人が考えれば? というと、それも難しいです。なぜなら、マネタイズを考えるにはそのゲームの仕組みやおもしろさを理解していないといけないからです。
なので、売ることに責任を持つプロデューサーは、売る(=マネタイズを整える)ためにゲームの仕組みやおもしろさについて口を出さなくては、むしろいけないと思います。ただ、重ねて言いますが今のスマホF2Pにおいては、です。他のゲーム市場、分野においてはその限りではないかもしれません。私も自身が体験していないことや、経験が浅い分野についてはよくわかりません。
ディレクターがマネタイズも調整しきれればいいのですが、実際のところ別の脳みそが必要なくらいおもしろさとマネタイズの両立を考えるのは困難な作業なので、そう簡単にはできません。(だから実績を重視し似たようなゲームが量産されたり、逆にゲーム性とマネタイズがかみ合わないゲームが生まれたりします)
■プロデューサーはノウハウがたまりやすい
また、これは弊社のように社外の開発会社とタッグを組んで開発することが多い会社のプロデューサーに言えることですが、基本的にこのタイプのプロデューサーはプロジェクト毎に様々な開発会社の方々と仕事をします。特にF2Pの場合は、リリース後も運営にスタッフが必要なため、続けて同じチームで新作を作ることが難しいです。というわけで、新しくプロジェクトを立てる度にスタッフが代わり、それまでの経験やノウハウはそのプロデューサーにしか貯まらなくなります。
ここはまさに社内で同じチームで作るタイプのプロデューサーと違う点で、以前作ったゲームのノウハウを開発スタッフが変わる毎に共有しなくてはいけません。そのノウハウの一つがマネタイズだったりします。また、チームや会社が違えば当然それぞれいいところも悪いところもあり、成功経験と同時に失敗経験も多く得られます。(失敗はしないに越したことはないですが、失敗したらしたで今後に生かすべき)
特に、ここ数年はブラウザからのネイティブシフトとか、コンソールゲーム開発会社のスマホF2Pへの挑戦など、開発における初めてのことが多い時期でした。おそらくまだまだ慣れていない人や会社が多いはずなので、この先ももう少しこういった状態は続くと思います。
これは弊社だけの(もしくは私が所属する部署だけの)やり方かもしれませんが、オンラインゲームのプロデューサーは、元のゲームを作る「制作プロデューサー」とそのゲームをリリース後運営していく「運営プロデューサー」の2種類に分かれています。
制作プロデューサーはリリース後半年くらいはがっつり運営に入るのですが、徐々に運営プロデューサーにバトンタッチしていきます。私も制作プロデューサーの一人ですが、その性質上一つのゲームにがっつり関わるのは制作スタートしてから大体2年前後で、かつ開発の時期をずらしながら2本くらい同時にプロデュースしています。
たぶんこのような形でプロデュースしているプロデューサーは、他の会社にも結構いるんじゃないかと思うのですが、こういった感じで仕事をしていると同業種の他の職種の方よりも比較的ノウハウが多くたまりやすいです。
また、トレンドの変化が激しい市場なので、通用していたノウハウが通用しなくなることも多いですが、多くのPJを担当している分その変化にも敏感になります。つまり、ちゃんとその流れを読めていれば過去の成功例に縛られて失敗するということを避けやすくなります。
■スマホF2Pゲームのプロデューサーの役割と価値
話を戻すと、そんなノウハウがたまりやすい立場であるからこそ、そのノウハウを伝える動きをしなくてはいけません。また、こういったノウハウは実体験を経てこそ生かすことができます。ただ聞いただけでは生かし切れません。だから私はそのノウハウを生かしきるために、ゲームの仕組みやおもしろさの部分(マネタイズに直結するから)にも口をだします。
ヒト・モノ・カネを揃えることはもちろんですが、こういった動きをすることもまた、今のスマホF2Pゲームのプロデューサーの役割であり、価値の一つともいえると思っています。
なので、これはあくまで私の意見ですが、今スマホF2Pゲームを作っている、もしくは作ろうとされているプロデューサーは、経験をゲーム作りに生かすべくディレクター的思考を備えたプロデューサーを目指すべきだと思います。というか、極端な話プロデュースもディレクションもどちらもできないと通用しないのでは、とさえ思います。
ただ、先述の通りおもしろさとマネタイズを一緒に考えるというのは特殊スキルでもあるので、プロデューサーじゃなくてもそれができる人がプロデューサーをやるでもいいと思います。
ただ、断っておくと、だからといっておもしろさの部分専門の人やマネタイズ専門の人がいらないとかではなく、そういった事をできる人や彼らの意見をプロデューサーが整えていかなくてはならない、ということなので、ちゃんと開発スタッフにそこを理解してもらった上で役割分担することが大事だと思います。
そして最後に、プロデューサーでなくてもてっとり早くノウハウをためる方法があります。それは、とにかく売れてるゲームをやって「ハマる」ことです。ただやるだけではダメです。課金せざるを得ないほどハマるくらいじゃないと見えてこないことがあります。
私の場合、『モバマス』で得たことを『拡散性MA』に、『ウィクロス』や『モンスト』で得たことを『乖離性MA』に生かしています。(もちろん、それまでの開発実務経験も踏まえて作っていますが)
売れてるゲームはとっても有用な教科書になります。記事を連載している身としてなんですが、記事を読んだりセミナーに行くより100倍仕事に生きてくるので、是非ハマるゲームを見つけてみてください。 ではでは今日はこの辺で!
P.S.
今期は「スタミュ」という女子向け男性ミュージカルものアニメに注目している私です。「スタミュ」は、音楽芸能分野の名門・綾薙学園を舞台にミュージカルスターを目指す生徒たちの物語で、学園の新入生である主人公たちの目標は、花形学科である「ミュージカル学科」に入ること。
そこに入るには難関試験に合格し候補生となることが第一歩なのですが、主人公たちはその際ミュージカル学科の3年性トップ5名で構成される「華桜会」のメンバーの一人に見初められたことで、候補生の中でも特別な「スター枠」として注目される存在になります。(なんとスター枠に選ばれると華桜会のメンバーに直接指導をしてもらえます!)
この設定だけでも、目標に向かって青春するスター枠の主人公たちと、彼らを暖かく見守るフフフ系の上位存在であるところの華桜会の関係性になにやらただならぬものを感じてグッとくるのですが、私はそんな中でもスター枠の一員として奮闘する天花寺翔くんというキャラに特に期待を寄せています。
歌舞伎の名門一家の息子である天花寺くんは新入生ながら人気と実力を兼ね備え、既に一際注目の的。しかしその高いプライド故、実力のない者をなめきっており他人を寄せ付けない孤高の存在。誰であろうと、なめ認定した人間を「野暮助」と呼び傍若無人な態度で振舞う様には、思わずその後のデレ展開を期待せずにはいられません。
▲天花寺翔
その期待通り、第3話にして早くもデレるのですが、その過程において、友達のいない天花寺くんの唯一の癒しが、寮でこっそり飼っている愛猫のタヴィアンであることが発覚。ひょんなことから部屋から抜け出したタヴィアンを探し回る羽目になるのですが、全く見つからず消沈しているなか、唐突に始まる愛猫への愛を綴った悲しいラブソング。愛猫に対してはデレデレで、その愛猫がいなくなった途端ダメな感じになるところは、普段のプライド鬼高で傍若無人な態度をとる姿とのギャップがよく出ていて実に微笑ましいですね! 世の乙女たちもここでころっと落ちてしまうに違いない!
そんな感じで早速デレ化した天花寺くんの未来にさらなる期待を抱きつつ、スター枠には他にも問題児がいっぱいなので彼らがどんな一面を見せてくれるのか日々期待しているのであります。
ところで、「スタミュ」はミュージカルをテーマにしたアニメなので、アニメ中唐突に始まるミュージカルパートもわかるのですが(唐突すぎて思わず笑えますが)、同じく今期の乙女枠アニメであるところの「ダンスウィズデビルス」においても、アイドルものではないのに毎話唐突にミュージカルパートが差し込まれます。唐突に歌が入るシーンは以前からアニメの演出としてありましたが、今期だけでも毎話唐突な歌パートをいれてくるアニメが2本も出てきたことを鑑みるに、ミュージカル的な演出やミュージカルそのものへの注目度が上がってきているのかもしれませんね。
そういえば乙女業界では以前から二次元作品の舞台化が活発で、よい興行になっていると聞きます。ゲームでもこういった演出やテーマを取り入れていくと面白いかもしれませんね!
■著者 : 岩野弘明
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部) プロデューサー。『乖離性ミリオンアーサー』を筆頭に、同シリーズ全体のプロデュースを担う。
岩野氏のツイッター:https://twitter.com/Iwano_Hiroaki
■安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー
■第31回「プロデューサーとディレクターの違いについて良く聞かれるので明快に答えてみた」 (安藤)
■第30回「新規アイドルゲームに未来はあるのか?」 (岩野)
■第29回「続・エニックス創業者福嶋康博さんが教えてくれたエンタメの真髄」 (安藤)
■第28回「恋活アプリ体験談」 (岩野)
■第27回「エニックス創業者の福嶋康博さんが教えてくれたエンタメの神髄」 (安藤)
■DeNA執行役員・渡部氏による対談企画…後編「DeNAが目指す次のステップ」 (岩野)
■第26回「スクエニで最もプレゼンがうまいと言われたおれが極意を教えよう」 (安藤)
■DeNA執行役員・渡部氏による対談企画…前編『ミリオンアーサー』の誕生秘話とは (岩野)
■第25回「インディーズを軽視するものは敗れ去る」 (安藤)
■第24回「サバゲー人気の謎に迫る」 (岩野)
■第23回「心が折れそうなときに読む話」 (安藤)
■第22回「「がっこうぐらし」のニコ動再生数が異常な件について」 (岩野)
■第21回「打ち合わせや会議が増えたときに読む話」 (安藤)
■第20回「「ラブライブ!」の魅力ってなんだと思う?」 (岩野)
■第19回「良い作品をつくるために必要な三つのこと」 (安藤)
■第18回「スマホゲームにおけるプロデューサーの重要性」 (岩野)
■第17回「私はなぜスクエニの部長をやめたのか?」 (安藤)
■第16回「日本のスマホゲーム業界が危うい」 (岩野)
■第15回「サラリーマンクリエイターの働き方はすでに限界を迎えている」 (安藤)
■第14回「ゲームを売る上で一番大事な人」 (岩野)
■第13回「市場のピンチを知らせるクリエイターからのSOS」 (安藤)
■第12回「F2Pゲームにおける最強の商品とは?」 (岩野)
■第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)
■第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)
■第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)
■第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)
■第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)
■第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)
■第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)
■第4回「IPを育てよう」 (岩野)
■第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)
■第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)
■第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)
© ひなた凛/スタミュ製作委員会
会社情報
- 会社名
- 株式会社スクウェア・エニックス
- 設立
- 2008年10月
- 代表者
- 代表取締役社長 桐生 隆司
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)