【日韓テレビ制作市場】放送の未来を占う、韓国のNo Boundaries、No Hierarchy、Just Competitionな市場環境
これまで日韓の映像制作業界の「差」について注目し、多くの記事を書いてきた。第15回アジアテレビドラマカンファレンス(ATDC)、韓国ASTORYの『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』成功事例、日中韓の脚本家視点や「Silent」「マイスモールランド」など若手受賞監督の対談、U-NEXTの攻勢。その後韓国に渡りMIPCOMや『冬のソナタ』のPan Entertainment取材 、第16回ATDCで職人の日本/情緒の中国/戦略の韓国という3か国の違い などなど。ここまでは「ドラマ」が中心だった。
今回は2025年12月に北九州市で行われた、テレビ局も交えた映像制作のプレーヤー全体を集めるATP主催の「第23回日韓中テレビ制作者フォーラム」 の様子を伝えたい。ひとまず11月7日就任まもない高市総理の中国をめぐる発言で日中関係は急激に混迷を極め、中国側の参加者が突如不参加、日韓のみでの開催という形になった。基調講演は日本側が上智大学メディア・ジャーナリズム研究所所長/ATP理事の音好宏氏、韓国側がMBC/KPDA(韓国プロデューサー/ディレクター協会)理事長のKim Young氏によってなされ、その後「バラエティ」「ドキュメンタリー」「ドラマ」の3セッションで日・韓それぞれ成功事例をもつプロデューサーたちとの鼎談、という形をとった。共通テーマとしてはテレビ局、テレビ制作会社、配信会社の三つ巴の環境だが、驚くべきは日韓の温度差だった。韓国に迫る「配信が激変させた制作環境」は、まさに日本の明日を占う未来の姿だった。
■日本の輸出基幹産業はアニメとゲームで、実写はわずか3%。輸出難易度高いドラマ・バラエティ
まずは日本のテレビ番組輸出を概観したい。2013年138億円⇒2023年836億円と6倍増だが、そのうち「アニメ」シェアは6割⇒9割とむしろ上がってきてしまっており、「ドラマ」や「バラエティ」はあわせて70億円にも満たない規模が続いている。「アニメ」の海外売上はすでに1兆円規模になり、テレビ局が取り扱う分だけでも700億を超えるなかで、実写コンテンツはなかなかに苦戦が強いられている。それでは他国はどうかというと、日本の約70億円に対して、米国は86億ドル(約1.3兆円)、英国26億ドル(約4千億円)、韓国1.7億ドル(約330億)と、その差はあまりに埋めがたい 。
欧米・南米などユニバーサルに販売できる「アニメ」と違い、基本的に実写コンテンツの買い手は東アジアが中心で、まさに中国・韓国との関係性が重要になってくる。

出典)総務省「放送コンテンツの海外展開に関する現状分析」
本大会でも冒頭で主催の沼田通嗣ATP理事/テレパック取締役からも、「日本コンテンツ輸出を4.7兆円から20兆円で」という目標が掲げられるなかで映画も含めた実写コンテンツはわずか3%と、ゲーム・アニメに比べて海外輸出にまつわる現状へのブレークスルーが求められる旨が伝えられた。そのヒントは「K-Drama」として国際的なカテゴリーにまでなり、アジアから欧米への1,000億円級の実写輸出に成功している韓国にあることは間違いない。

■盤石な日本のテレビ広告費、すでに激変真っ最中な韓国
今回の基調講演でATP理事の音氏からは日本の広告マクロ市場の解説がなされた。広告はマクロ経済と連動しており、スポンサーの懐具合が反映されやすい。約30年前のピーク時から比べてラジオ広告は半分、新聞広告は1/4になったが日本のテレビ広告市場はほとんどそのまま残っている。すでに10年程前からオールドメディアの代表としてその凋落がずっと語られながらも、コロナ後もフジテレビ問題のあともテレビ広告は「まだ堅調」とすらいえる。
それは成長市場なはずのデジタル広告市場に対する信頼性の低さも影響しているのだろう。現在のところ世界最大の米国デジタル広告市場もアドフラウドはずっと発生し続けている(2023年時点で842億ドルとデジタル広告市場の22%が不正広告という調査もある)。EUではデジタルサービス法、日本でも情報プラットフォーム法(情プラ法)でも一定規制をかけてはいるが、現状はいたちごっこだ。これもオールドメディアからニューメディアに広告費がすぐに流入しない一因と言えるだろう。
韓国のMBC社がこの10年で広告費が1/4減少となったのに対して、(フジテレビ以外は)日本はまだ1割減といった状況。番組制作費もそれにともない1割減、というのが日本のテレビ局の現状だ。かたや韓国の地上波の一角MBC社は制作費を減らしておらず、売上サイズでは3倍近いフジテレビと並ぶ規模である。「地上波広告費以外」に目をむけて事業転換を行う、という点は日韓共通した課題であり、変化の速い韓国テレビ局のほうがうまく対応できている、ともいえる対照表だろう。

放送法は元来規制産業だったが1988年放送法改正で「規律を課すべきメディア(放送)と緩やかな規制を課すべきメディア(放送性)」で濃淡を分けることで、衛星・多チャンネル化と進むことを可能にした。1990年代は多様な情報を増やすことが「豊かさの象徴」でもあった。だが、2000年代のネット時代は「規制のない世界」、そのオルタナティブなメディアが21世紀に放送の在り方を大きく変えてきた。
そもそも、なぜ日本の実写テレビ番組は売れないのか。もともと「アニメ」は1963年に『鉄腕アトム』がNBC放送された時代からの国際的な商材であり、テレビ局にとって長らく副次収入だった。だがアニメ以外のジャンルは基本的にドメスティックなもので海外に出なくてもいい、という時代が長らく続いてしまった。
音氏自身も委員として参画する総務省の放送・配信コンテンツ産業戦略チームでは、企画・開発の時点から流通の各課題を認識し、DXによって最初から映像を一体的に製作/権利処理/流通を行うべきだ(かつそれを官民が連携しながら行う)、ということが目指されている。

一方で韓国側基調講演のKim Young氏が語る話は、日本とあまりに違う韓国の放送・配信市場環境についてだった。MBC出身のKim氏は中学時代に宮本武蔵や徳川家康にハマり、伊丹十三監督の『タンポポ』(1985)『ミンボーの女』(1992)に影響を受けて育った。
テレビの視聴率は日本同様に、韓国でも降下している。だがスマホ・YouTubeだけの問題ではない。「貧困」である。ワンルームで半地下などで暮らす若者が、そもそもテレビを置けなくなっているのが韓国の現代社会の闇である。もうテレビ番組表ではなく、アルゴリズムのレコメンドこそが視聴のプラットフォームになっており、放送局のチャネルという「枠」ではなくコンテンツそのものを選択するようになっている。「コンテンツの時代」は今まさに韓国も直面している問題だ(韓国ではMnet『田園日記』が国民ドラマとして22年間放送され、MBCのバラエティ番組『無限挑戦』も20年超にわたって続いている。こういった「IP」が重要)。
2024年は昨対比でマイナス、KBS・SBSはすでに赤字だが、唯一黒字路線だったMBCも2025年には赤字見込みである。日本が緩やかな下落だとすれば、韓国は急速な下落が起こっている。地上波3大局すべてが赤字なのだ。これはなぜなのか?日本は著作権・肖像権の概念が強く、TV番組はSNSでアクセスすることがほとんどできない。だが、これこそが「抑止力」になっているのだ、という。韓国では地上波の番組のほとんどが、そのままニューメディアであるネット・YouTubeにも配信されている。だから視聴はその分、急速にシフトしてしまう、というわけだ。

■After Netflix:地上波はすべて赤字。「無限競争」に入った韓国市場に未来を学べ
Kim氏いわく、この戦場は3つのプレーヤーに分けられる、という。Broadcaster(放送局:KBS・MBC・SBS・CJENM等)とStudio(制作会社:SLL、StudioDragon等)とOTT Platform(動画配信:Tving、Coupang、Wavve等)である。元来は放送局と制作会社の2社だけだったが、日本と違って放送整備が遅かった韓国においてはStudioが比較的強い力を持っていた(『冬のソナタ』で有名なPan社が、自社でその著作権をもち、海外番販やDVD販売で潤った話は有名だろう。
韓国はこの3プレーヤーがNo Boundaries(国境無く)、No Hierarchy(上下なく)、Just Competition(ひたすらに競争)している状態である。日本はAmazon Primeが強いがある意味デリバリーと併用でもあり、有料OTTの雄Netflixのシェアは2割に過ぎず、国産プレーヤーも多いことで、「健全な競争環境が確保されている市場」である。

かたや韓国はNetflixがMAUベースで4割、売上や制作投資では市場の約6-7割を握るような状況にあり、それが制作市場にもたらしたものには功罪がある。『イカゲーム』(2021)で世界的な成功をおさめ、Netflixが2023年から発表した「4年間で25億ドルを韓国コンテンツに投資する」という金額規模は、地上波3局の年間コンテンツ予算を合算し規模である。対抗馬としてのTVingやCoupangはスポーツコンテンツを取り込むことで、なんとか攻勢を保っている。

出典)韓国Wiseapp、日本GEMパートナーズ
これはある意味、思考実験である。参入規制もなくただ放送・制作・OTTが競争しあって1社が寡占の市場環境になった「日本の未来」を見るような気持ちだった。
■壊滅する韓国映画、高騰するキャスト費用に「日本映画界が模範」
Kim氏の話は続く。日韓の違いは「規模」に紐づく。1.2億人で内需市場の日本はグローバルに展開する必然性が弱かった。海外向き合いでいえば内需が弱く、国内市場だけでは十分な調達ができない0.5億人の韓国こそが、必死でグローバル展開を行ってきた、というのは誰もが実感できるところだろう。むしろ海外に出なければ、制作費はまかなえないのだ。
CJ ENMはその傘下に韓国最大の制作スタジオStudioDragonと動画配信3番手のTVingを擁している。当初はNetflixの韓国市場展開にも協力していた。米国の最も大きなスタジオFIFTH SEASONを1兆ウォンで買収、東宝から3000億ウォンの出資も獲得した。『Severance』(2022)というシーズンドラマを展開しており、エミー賞では14部門ノミネートするという非常に大きな成果をもったスタジオだ。2023年にはワーナーと組んで東南アジア、ラテンアメリカに進出している。日本市場展開ではDisney+とも協力関係にあり、CJの国際的なアライアンス網は日本のどの会社をも凌駕するスピード・規模である。
売上300億円規模しかない2011年設立のケーブル局JTBCも(日本で言えばTBSスパークルや日テレアックスオンの規模)、制作会社としてはスタジオ・ルルララ(SLLL)を擁し、8件ものスタジオを買収してきた。CJのようにドラマも作り、1135億ウォン(約100億円)をかけて米国スタジオWiipも買収して米国に進出している(『THE SUMMER I TURNED PRETTY』などのヒット作も生み出した)。SBSも自社の制作人員をStudioS・Prism Studioなど分社化し、様々なスタジオを作っている。日本の規模から考えれば、売上1000億円規模にも満たないテレビ局や制作会社が数百億円を投じて海外に進出していく動きは驚異的なものである。その数倍も資本体力がある日本のテレビ局の海外展開は比べてみればずいぶんと緩やかなものだ。1制作スタジオでもこれだけの動きがなされているのは驚きだ。
韓国内OTTもまた、再編真っ最中である。Netflixという絶対的SVODの王者が君臨し、SKテレコム・地上波3局のWavveとCJのTvingが統合することでようやくNetflixと並ぼうという段階にある(現在株主間の最終調整中)。地上波も地上波で、ニューメディアでのパイを広げるために競合同士の連携を積極化させている。「日本のTV局、中国のプラットフォーマーとも組んで、各国の文化を生かしながらアジア全体に通じるコンテンツをつくっていくことが生存のために必要」ともKim氏は語っており、これは現在の日本にとっても追い風だろう。
放送局も制作会社もこれだけ動きが多いのには理由がある。「制作費」が異常なまでに高騰しているのだ。以前は1話3-5億ウォン(3000~5000万円)でつくっていたドラマが、最近は15億ウォン(1.5億円)もかかるようになってきている。背景には高騰する出演費がある。Netflixの巨額ドラマ制作で有名俳優のバリューがあがり、直近では10億円のドラマ制作費の「5割がキャスト関連費」という状態にもある。日本の場合は数億円のドラマ制作で、キャスト費用は多くても1-2割。
市場が活性化する、という点では外資マネーの誘導は重要だが、その導入スピードがローカル市場と乖離している場合、むしろ健全な制作環境を壊すものにすらなりえる。これはTVだけでなく映画業界も同様だ。なぜ2026年に韓国ローカル映画制作市場が壊れかけているのかといえば、まさにこの5年でのコロナ後の放送VS配信のなかで市場が激変したからだ。制作単価はあがり、本数は絞られ、興行は配信にとられて回復せず、という三重苦のような状態にある。約2000億円まで成長していた2019年がウソのように、コロナ後は6割までしか回復せず、2024~2025は「そこからさらに落ちている」という。韓国からみれば「日本の映画業界を模範として、産業を改革せよ」という現状は、放送の世界で我々が韓国を範としようとしているのと真逆なのだ。

出典)KOFIC
制作現場は完全に二極化が進んでおり、CJ ENMやKakaoなどの巨大グループに力が収束していく一方で、中小の制作会社はどんどん弱くなるばかりだ。AI制作の導入など、根本的なルールチェンジをもたらす「何か」が必要な状況だ。
新しい基盤モデルAVOD(広告型オンデマンドサービス)にも、期待が集まる。テレビのハードウェアを供給するSamsungTV+、LGTV+などは加入者5000万人ですでに欧米市場を席巻している。TVを買って、広告視聴をはさめば無料でみれる動画配信、というわけだ。この「FAST TV」がNetflix型のSVODの市場を少しずつ侵食している。NetflixもDisney+も広告付きメニューを用意しはじめ、低額課金層・無課金層へのリーチも画策がはじまっている。地上波放送と違って「誰が視聴しているか」のデータも取りやすいため、広告との相性はよくなっていくばかりだ。韓国ではIPTVが強く、両親のお茶の間と子供部屋での視聴特性の違いがずっと注目されており、最近は運転席と後部座席で視聴チャンネルがどう違うかといったことも把握されている。「データを把握できるテレビ」として、ニューメディアに適用した作り方になってきているのだ。
韓国の市況から見直したときに、重要になってくるのは下記4点だとKim氏は結語する。
1)IPビジネス
2)グローバル市場
3)技術基盤(AIとデータ基盤、収益化にはまだ時間かかる)
4)ブランド強化(どのチャンネルをみるか、ではなく、どんなコンテンツを観るか)
コンテンツ/プラットフォーム/データの3つの機能をそれぞれ強化する必要があるが、なにはなくとも一番に重要なのは「コンテンツ」、すなわちIPである。放送局ではこれまでずっと「視聴率競争」を繰り広げてきた。だが今はグローバルプラットフォーム(PF)という戦場で「誰がIPの権利を保有して、海外に流通させるのか」が重要な基準である。複数PFで拡張される資産をもつことで、今後テレビ局もテレビ映像制作会社も生き残ることができる、という結論は本フォーラムにおいて一番深く、多くに刺さっているように見られた。
■ドラマ番組の日韓差:ナラティブがあれば世界で売れる

テレパック社ドラマ制作部副部長の東田陽介氏は複数作品を紹介した。同社は1970年に設立した50年以上もの歴史をもつテレビ制作会社であり、『ありがとう』『天皇の料理番』『男女7人夏物語』などのレジェンド級の番組を創ってきた老舗である。
これまで『スケート靴の約束(テレビ愛知)』(2013)、『水族館ガール(NHK)』(2016)、『伴走車(BS-TBS)』(2020)で度々ATP奨励賞を受賞してきた東田氏だが、直近で大きな失敗の経験があった。ここ数年、Netflix社に対して企画を提案しまくっていた。『イカゲーム』や『ペーパーハウス』『今際の国のアリス』に憧れ、SF超大作などがむしゃらに提案していった大作企画、その数なんと合計30作。とにかく「企画を通すこと」を考え、とあるWebマンガ原作で大作を手掛けることになった。だが苦しみは企画を通すときよりも、むしろ通ったあとに起こる。大御所スタッフをアサインしたことで自分の力量不足もあって主導権が握れず、意見も脚本もまとまらないなかでスタッフの拘束期間が長期化、最終的には空中分解で制作中断、となってしまった。最悪なことに2023年の自身の誕生日に、企画がとんだという一報を受けた。自分の想像力と創造力が及ぶ範囲の企画を提案すべき、ということを改めて学んだ、という。制作会社の課題は、企画を通して本数は増やすことが「成功」に見えても、実はボトルネックとしての制作者は増えないため、今度は番組を回すだけでいっぱいになってしまうのだ。
そこで自分たちの日常の手触り感のある話をもっていこうと一念発起、『クラスメイトの女子、全員好きでした(読売テレビ)』(2024)でATP賞ドラマ部門最優秀賞を受賞、『夫よ、死んでくれないか(テレビ東京)』(2025)でアジアンアカデミークリエイティブアワード日本作品最優秀賞を受賞。今回はこの2作についての話がメインとなった。

TBS、BABEL LABEL、テレパックなどの製作委員会方式で作られた『夫よ、死んでくれないか』はタイトルからそのインパクトは強烈なものだが、それ以上にTVドラマとしては珍しく「ショートで切り抜きされることを前提とした絵作り」に取り組んだ。「強い画」「強い言葉」「強い曲(ニュージーランドのHAKAをモチーフにした曲を創作)」「笑い」といったフック部分がユーザーに刺さっている。イケメン俳優の怪演で100万回再生された動画もあった。これはテレパック社がこれまでつくってきた『正直不動産』『しょせん他人事ですから』『エビだって鯛を釣りたい』なども同様で、サムネねらいを計算した上でのタイトルづけとなっている。
以前は「恋愛から結婚まで」がドラマのテーマだった。だが現在はその後の現実と向き合うリアリティ、「結婚後を描くドラマ」が増えた。それと同時に、復讐系の作品も増えている。「夫よ、死んでくれないか」はまさにそんな時勢を捉えた一作といえるだろう。ここまで話した上で、東田氏は講演のなかで「これからやりたいドラマ企画」を3本提案、まさにこれぞ企画ファーストのディレクターの背中を見た。
韓国側はSBS社の制作子会社 Studio Sのチャン・ヨンソク氏。キャリアとしてはSBS社に2016年から5年間、その後「スタジオS」として2020年から分社化されたタイミングでドラマ本部に配属され、2025年7月から初めてNetflixのドラマ『TRY』を手掛けて、これが全世界配信のなかで13か国でTop10に入るような成果となった。26戦25敗のラグビーチームのドラマである。
トラブルメーカーの監督が全国大会にでるまでの軌跡を描き、マンガ『スラムダンク』や『ハイキュー』と共通感性をもった作品にしあげた、という。ラグビーは韓国においてはマイナーなスポーツだが、ラグビー大国の日本では反応が薄く、むしろ韓国本国で人気となった。60分12話、7か月間の撮影期間を経て、ポストプロダクションで5か月ほどかけたあとに公開となった。本来はもう少し短納期で仕上げるが、同時配信だったことでポスプロの作業量が増えた結果、ということだった。
韓国大手の一角SBSは2025年からNetflixへのコンテンツ供給契約を締結しており、まさにこの『TRY』が提携第一作となったのだ(2024年末に発表されたこのニュースリリースで、SBS株価は約半年ぶりに27%アップとなった)。ここから合計6年間にわたりSBSの新規ドラマ、芸能・教養番組は一部作品はグローバル配信「Try」はグローバル同時配信の第一弾作品、となった。SBSからの分社化のメリットは何だったのかと尋ねると、IPビジネスに集中して、制作会社として作品のグローバル化に対する感覚が鋭敏になった、という。
韓国ドラマにとって、近年人気を集めているのはASEANと南米の新興2地域であり、特に南米はローカル言語への吹き替えでないと視聴されない。この吹き替えダビング作業にあわせたオーディオ作業は、漢字からアルファベットへと大きく変わるため映像自体も調整する必要がある。
ドラマ作りで最も大事なのはストーリーテリング、ナラティブである。そこに焦点を絞り、韓国で反響あれば海外でも反響が得られる。2018年まで韓国にはNetflix支社すらなかった。それが『愛の不時着』(2019)、『梨泰院クラス』(2020)『イカゲーム』(2021)『ザ・グローリー』(2022)や『涙の女王』(2024)で世界的なK-Dramaの一時代を築いてきた。日韓合作ももっと期待されていく時代だ。日本とは『重版出来』(2023、KNTV)や『ドクターX』(2026、SBS)などをやってきた。今後リメイクしたい作品は、というとチャン氏は『半沢直樹』だという。
■ドキュメンタリー番組の日韓差:ビジネスモデルがないのがビジネスモデル
テレコムスタッフ社の制作二部部長の街風建雄(つむじ たてお)氏が発表したのはNHK WORLD JAPAN放送の『Cycle around Japan』である。2014年に立ち上げ、これまで12年間にわたり、外国人サイクリストが47都道府県を自転車で駆け巡る様子を、丹念に取り続けた。自転車でしか行けないあい路や畑道などにカメラが入る中で、いわゆる「観光地」ではみられない町や島の暮らしや日本の伝統的価値観を発見していく。本作品は「(日本語が話せる)外国人サイクリスト」というキャストがそのストーリーを転がす意味では重要なポジションを担っており、珍しい外国人だからこそ話しかけられたり巻き込まれることが多く、「外部の視点からみた日本の地方部の良さ」を引き出す装置になっている。

街風氏は同社でディレクターを経て、2011年からプロデューサーとして歩んでおり、紀行番組や経済・歴史・アート等の番組に関わってきた。『Colors of Asia』ではスリランカのガールズバンドを追ったり、NHKの自転車情報番組『チャリダー』などを経て本企画を立ち上げた。当時、本格的な“自転車紀行番組"が未開拓だったという。
自転車は乗り物としての行動範囲が車に比べて格段に広い。時にはフェリーや電車でも運べる。寄り道しやすく、人に警戒心を抱かれずに出会いの可能性も広げられる。兵郡島という人口200人しかいない島でも、走って走って漁師と出会い、家で家族と語らいあいながら料理を食べた。そして何より、その徒歩より早く車より遅い速度を、独自の技術で撮影。これまでにない映像を実現してきた。
1987年からテレビ朝日『世界の車窓から』をずっと撮り続けているテレコムスタッフ社だからこそ出来た、という考え方もできるだろう。本講演ではこの『Cycle Around』を台湾PTS社との共同制作など「海外ロケ」に展開していった話が中心となった。自転車番組の特性上、現地の交通法規・道路事情への対応が必要で、バイパスばかりで寄り道できない道が多い国もある。右左車線で真逆の国では、自転車をバックにどう自然の背景を撮るかという工夫が全部裏返ってしまった。雨風に弱く、悪天候では撮影がストップすることもある。NHKの資力に加えて、補助金などでもつなぎながら撮影費をねん出。次年度以降も、さらにアジアでのシリーズ化を予定している。
番組の権利はNHKとテレコム社で半々にしてある。これまで窓口はNHK関連会社となることが多かったが、今後はテレコム社自身でも海外取引を主導的に進められる地力をつけたいということだった。
韓国側はKBS社からKim Kalam氏が『人材戦争 The War for Talent』を紹介した。PDになって14年のベテランだ。KBSは1994年から毎週1本、年50本のドキュメンタリーを「KBSスペシャル」として放送し続けている。そのうち1割ほど日本をテーマにしたものも扱っており、ゲーム、パチンコ、老人ホーム、東京散歩など、いかに日本が“上品な高齢化社会"を実現しているかということも特集してきた。
今回はその枠で放送された『人材戦争』で、「工学部に熱狂する中国」「医学部に熱狂する韓国」という2つのテーマを対照させた50分モノのドキュメンタリーである。撮影許可が難しい中国で、教育テーマでロケハンまで行ったのは実は「異例」であった。中韓関係は決して良好な状態ではなく、本作は2015年『SuperChina』という大型番組以来、10年ぶりの中国テーマであった。なぜかといえば、OpenAIに匹敵するDeepseekが現れ、Nvidiaの株価大暴落がホットトピックであったからだ。1985年生まれの新世代Liang Wenfengは世界を席巻するサービスとなり、エンジニア領域で中国ははるか先をいっているなかで、韓国では近年「高学歴は皆医学部に殺到する状況」を対照的に描きたいとおもったからだ。
Made in China(中国で製造する)の時代は終わり、Invented in China(中国が発明する)時代がきた。「杭州六小龍」といわれる杭州の6社のユニコーン(AIモデル「深度求索(DeepSeek)」、『黒神話:悟空』でゲーム開発した「遊戯科学(Game Science)」、ロボットの「宇樹科技(Unitree Robotics)」、「強脳科技(BrainCo)」、「群核科技(Manycore)」)の事例をあげ、テック企業EC時代の「ソフト産業」からAI時代の「ハードテクノロジー」へ中国が変貌しているプロセスに迫った。
では韓国ではいまトップ級の人材はどこにいくのか。以前は公務員だったが、最近は老後が保証される医学部に殺到しているのだという。韓国では小学校入試どころか、7歳の入試、4歳の入試まである。そしてその入試でのポテンシャルをみるために、2-3歳で子供たちが“どのくらい理系脳をもっているか"を検査することまでも常態化している。皆の希望が画一化されていくという現象は社会的不満の表れ、低成長への不安が表出したものと解釈できる。前政権でR&D予算削減されて社会的には大きなダメージあった。どうか韓国に子たちが不安をもたずに生きられるようになってほしい、という願いをこめて作品を撮ったという。
テックの分野で先鞭をつけるのは中国・米国・英国・カナダの順で、韓国トップのソウル大学は52位と、上位には入らない。中韓格差は今後も広がっていくばかりだ。これほど科学技術で後れを取っている中で、人々が工学部を避け、“安全な"医学部に殺到している現在のキャリアの王道は、国としてのリスクにもなっている(これは半分以上が“文系"を選んでしまう日本にもあてはまるのではないだろうか?)。本番組はYouTubeで200万もの反響が寄せられ、5か月たっても関連本の出版がやむことはなかった。果ては政府の諮問委員として番組の制作者が呼ばれたり、国を挙げて課題視されるところまで危機を喚起することに成功している。Kim氏の話は「ドキュメンタリー番組のもつポテンシャル」を強く実感させた。それは社会的な問題意識を喚起し、ムーブメントを起こす力だ。
ドキュメンタリー番組は他のジャンルと違って、コストが絞られており、その水準は14年変わっていない。なにより国営放送のKBSではCMが入らないので、そこを強みとした番組制作もできる。「ビジネスモデルがないのがある意味、ビジネスモデルかもしれない」とKim氏は語る。
「海外市場」は念頭においていない、という点もドキュメンタリーならではだ。これまでも「夜に仕事がつらくて、ついついクッパを食べる韓国人」であったり、「韓国の救急医療室で血のついたガウンを着ながら走り回る医者」といったものを取り上げ、年50作のポートフォリオのなかで社会/科学/人間/労働などバランスをみながら創っているそれは予想に反して海外から強い反響を得た。だからドキュメンタリーについて重要なのは、まずは自分が知りたいことを追求することだ、という。この人に伝えたい、といったときに具体的に10人くらいの姿が具体的に思い浮かぶことがいい企画のコツだという。視聴率の変わらない、CM料も関係ない年50ものドキュメンタリー枠があることの偉大さを改めて実感する。


手前からKBS社のKim Kalam氏、テレコムスタッフ社の街風建雄氏
■バラエティ番組の日韓差:バックオフィスの重要性
Amazon Prime Videoで2025年8月1日に独占配信された『賞金1億円の人脈&人望バトル トモダチ100人よべるかな?』、全6話。バナナマン設楽統とバカリズムが主催し、芸能人の人脈を試す内容でさらば青春の光・森田、河合郁人、Mattの3人がプレーヤーとなって、「理由を伝えずに」友人を呼び、最大24時間何の説明もなしにその部屋に滞在してもらい、その滞在数が一番多かった人間に最大1億円の賞金が渡される、というトンデモナイ企画である。
「収録であることを本人に伝えずに、周囲の事務所・マネジャーを通して間接的に行いつつ、あくまで芸能人たちが忙しい合間を縫って“オフ"で友人の助けに応えて助けにくる様子を見せる」というウルトラ難易度の高い前提で、制作しなければならない。しかも総勢198名となったゲストは、多忙を極める超大物タレントも多く、彼らが不可解なスタジオに“軟禁状態"にされることになる。中には不満を爆発させる人や、推理を始めて場をかき乱す人、さらには裏切りに走る者も現れ、そうした心理ゲームがまさにエンタメなのだが、制作側からみると「超難易度の高い企画だった」という。
今回登壇したのは本作の製作統括を行ったIVSテレビの制作本部本部長の中村秀樹氏。「ザ!鉄腕!DASH!!」「ネプリーグ」などの演出を手掛けてキャリア30年弱のベテランだ。本作は企画プレゼンからローンチまで2年半もかけた大作である(企画者は2008年入社の渡部一貴氏)。

この作品はIVS社総勢90名全員を投入し、外部の美術・技術・編集など外部協力者も含めると総勢400名以上ものスタッフが関わり、キャストの倍の数の制作チームから行われる「史上類を見ない大規模バラエティ番組」である。1972年設立の翌年に「テリー伊藤」こと伊藤輝夫氏が入社し、『ねるとん紅鯨団』『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』などフジテレビと一時代を築いてきたトップ制作会社である。そのIVSをしても、かつてない規模の作品となった。当然ながら予算も巨額、地上波ゴールデン帯の年間予算に匹敵する金額がこの1番組、6時間超に投じられている。アイデアを妥協無く実現できたのにはAmazon社というグローバルな動画配信プラットフォームのコンテンツ予算が必要不可欠だった。
全タレントの事前スケジュール確認、バックグラウンドチェック、実際に来てくれたとしても全員を1か所の密閉空間に押し込める企画のため1人あたりの入室には20分もの入念なチェックが必要だった。
IVSにとって大きな苦労があったのは、こうした企画・制作部分だけではない。今回は法務・経理といったバックヤードが何よりも根幹を担った、という。たった2名しかいない法務担当が、198名のタレント契約と外部撮影協力なども含めると、処理しなければならない契約の種類は230を超えた。ドル建てのための専用口座も作り、毎月2回の全取引のコストレポートの提出も義務付けられる。もちろんこれがグローバル配信に耐えられる基準での、コンプライアンス規定を基準としており、日本の芸能事務所が慣れていない条件が積み上げられた。制作会社が大規模な撮影をするときにはこうした法務やバックエンドの部隊もまた大規模化せざるをえない。
世界的OTT会社と巨額予算でバラエティ番組を創ったらどうなるか?を体現した本作品の経験によって中村氏が感じた点は、世界大手と組むことで「盤石な創作コストの拠出」「コンテンツの永続性」「世界的影響力」という3つの大きなメリットであった。同時に「人権・コンプライアンス基準」は地上波以上に厳格だったため、上記のようなゲストも撮影陣も含めて、より大掛かりな撮影体制になる。課題点をあげるとすれば「番組著作権」だろう。地上波との取引は負担割合によって部分的に著作権をもつことも可能だが、世界配信大手との制作は基本的に巨額のコストを丸抱えしてもらうかわりに、著作権は放棄せざるをえない。
韓国側のバラエティ番組として紹介されたのは『新人監督キム・ヨンギョン伝説』である。MBC社Entertainment Team5のPD(日本では企画・ディレクターだが、韓国では総称してPDと呼ぶ)のKwon Lucky氏が1年かけて制作した番組だ。本番組はプロチームで引退したりなど基本的には無所属の選手を集め、「アンダードッグ(負け犬)をワンダードッグに」を合言葉に、敗北すればチーム解散(7戦4勝しないと敗北という条件下で)の前提で14名からなる新設チーム「ワンダードックス」の存続をかけた戦いを追う、バラエティ風のスポーツ・リアリティ・ドキュメンタリーでもある。
主演となったキム・ヨンギョン(1988~、:김연경・金軟景)は2005~2025年の期間でプロバレーボール選手として活躍しており、2009年には日本のJTマーヴェラスに入団し、韓国プロバレーボール史上初の国外移籍という記録も残した選手だが、なにより彼女自身が忖度なく本音を吐き出すキャラクター性(「クソが!」「MBCのPDに騙された!!」など番組中も驚くような言葉を叫ぶ、感情が前面に出る)が一つのエンタメになっている。
海外ロケとして全日本バレーボール高等学校選手権大会(春高)の岡山県予選にも参加。岡山の就実高校チームとも戦った2025年8月のロケは、カメラ40台、制作スタッフ100人越えの大規模な撮影となった。ディレクターとしての予算管理をしながら、100人分の飛行機代・食事代は当初予算を大きく上回り、非常にハラハラとした撮影だったという。「このまま負けたら大変なことになる」とかなりのストレスだったとLucky氏は明かすが、1・2セットを取ったものの、3・4セットを立て続けに取られ、そしてついには5セット目で・・・敗北を喫した。足先から血の気が引いているのが分かった、という。
多額の制作費をかけながら、全く予定調和的ではないこの結果をも乗り越え、最終的には5勝2敗でハッピーエンディングを迎え、チームは存続することになった。その後チーム14人から2選手は実際の韓国プロチームに抜擢もされた。
では肝心の番組としての成果はどうだったのか。Lucky氏は「本当にドラマをみているかのような結果だった」という。主要視聴率2.04%で2週間枠でニュース・ドラマ含めた全ジャンル1位を獲得。動画配信でも4000万回再生されており、これは韓国の大河ドラマ並みの数字で、5000万人しかいない人口から逆算しても国内屈指の結果をたたき出したバラエティ番組であった、という(ただし、残念ながらこれほどの作品であっても、「海外展開」や「日本語ローカライズ」はされていない。ここはドラマと違ってバラエティ番組の制約だろう)

IVS中村氏、MBCLucky氏もあわせた対談のなかで、グローバルプラットフォームがもたらす機会は絶大だが、それぞれ「制作会社」のもつクリエイティブの力だけでは不十分。勝ち抜くカギはバックオフィスの強靭さ、という結論となった。

手前からMBC社Kwon Lucky氏、IVS社中村秀樹氏
本イベントは「ドラマ」「ドキュメンタリー」「バラエティ」とジャンルごとの日韓の違いをあてた貴重なものだったが、それ以上に制作者自身からのピッチイベントも好評を博した。放送局が海外の映像イベントで代行して販売することが常で、「制作者自身が登壇してアピールすること」もいまだもって稀なのだ。放送/スタジオ/配信の三つ巴の「コンテンツの時代」に、制作のクリエイティブとIPこそが重要になる時代において、制作の根幹を担う日本のスタジオ自身が、会社としての機能を底上げしていくというトレンドは決して逆風ではなく、順風として活用すべき状況なのだと感じた。
会社情報
- 会社名
- Re entertainment
- 設立
- 2021年7月
- 代表者
- 中山淳雄
- 直近業績
- エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
- 上場区分
- 未上場