【連載】安藤・岩野の「これからこうなる!」 - 第43回「ゲームプロデューサーが本気で「実況生主」になってみたらどうだったか?を書いてみる」


【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、数々のスマホゲームアプリをヒットさせた、ゲームプロデューサーの安藤武博氏と岩野弘明氏。そんなふたりが毎週交互に執筆を務める「安藤・岩野の“これからこうなる!”」では、スマホゲーム業界の行く末を読み解く、言わば未来を予言(予想)する連載記事を展開していく。

メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。


今回の担当:安藤武博氏

 

■第43回「ゲームプロデューサーが本気で「実況生主」になってみたらどうだったか?を書いてみる」


昨年スクエニを辞め、自分の仕事で一番大きな変化となったのがゲームDJとして実況放送を始めたことです。2015年の7月にニコニコ生放送のチャンネル「シシララTV」を開設し、以降毎週月曜日21時にクリエイターをゲストにお呼びして、その方の過去作を実況するという番組「つくった人がゲーム実況」を中心に、いろいろな番組をやっています。
 

8ヵ月間で取り上げたタイトルは32本。お越しいただいたゲストは計50人。放送に費やした時間は述べ201時間41分。のべ18万人の方にご覧いただいており、中堅生主くらいの規模になってきました。今回は、作り手が「伝える仕事」を真剣にやってみて、どうだったかについて書きたいと思います。
 

まず、結論から言うと作り手にとっては、いいことしかありません。あえて悪いことを書き出すと番組の準備にカロリーがかかるのと、放送の拘束時間が長いので「つくる時間」はその分減ります。ですが、プロデューサーは朝から晩まで机にかじりついて仕事をする職業ではないので、時間配分は余裕でスケジュールに組み込める程度のものです。それでは下記にいいことを書いていきますね。


■その1「レトロゲームはネタの宝庫」
10数年前までは「基本無料+アイテム課金」のゲームはこの世に存在しませんでした。プラットフォーマーが売り値を決めてくれて、作り手はひたすらアイデアに注力できた時代のゲームを主にピックアップしています。シシララTVでは10年経つとヴィンテージと呼んでレトロゲームに定義しています。

ヴィンテージの自由な発想やアイデアの豊かさや面白さに毎週気付けるのは大きい。インプットとしてこれほど上質なものはないです。一方でガチャガチャがどれだけゲームデザインの幅を狭めているかもよくわかります。マネタイズにはまるゲームシステムや遊びは“今のところ”すごくバリエーションが少ない。似たようなものばかりがリリースされるのはこのせいでもあります。このまま放っておくとお客様に飽きられてしまう。これを打開するためにレトロゲームからインスピレーションを受けるようにしています。

実況放送をすると楽しみながら、みんなで自然とこれができるのが大きい。ニコ生だと視聴者の皆さんのコメントを拾いながらこれができるので、いろいろな考えが吸収できるのも良い。昔クリアしたゲームでも忘れていたり、脳内でだいぶ美化変形してしまっていることも多く、実際プレイすると温故知新になります。海外と国内で最新のゲームを研究対象にする人は多いですが、ヴィンテージも対象に入れることでさらにアイデアの幅が広がるのでオススメです。
 

 
■その2「基本無料とパッケージゲームは現状、異世界のもの」と気付ける
逆説的ですが、これらパッケージ販売形式のものを遊び続けていると、「基本無料のそれとは全く違うものである」と改めて感じるようになりました。両者は大きく同じ「ゲーム」とくくることができますが、全然別のもの。少なくとも現在のガチャガチャのマネタイズでは大きくかけ離れたままでしょう。未だにスマホのゲームを苦手とか嫌いという人がいるのもわかる。

誤解を恐れずに言えば、現在のガチャはやはり「ぱちんこ」に近いのです。例えるならば、同じスポーツでも野球と競馬くらい違う。ライブをコンサート会場に見に行くのと、ストリートミュージシャンを見るくらい違う。ガチャがメインのスマホのゲームにも昨今ゲーム性が求められているので、この両者は近づきつつあるように見えますが、別世界のものです

でも声を大にして影響力のあるクリエイターが「スマホは嫌い」と発言するのは違うと私はおもいます。そもそも全然違うんだから。対立構造は注目を集めますし、どちらかの支持者からの人気は上がると思います。でも市場規模の小さいゲーム業界でそんなことをやってもトータルで見るとためになりません。

別世界だが近くにあるものとして、お互いを認めながら、どちらもお客様に飽きられないように進化をする必要がある。電車の中で小説を読みたい事もあれば、活字が煩わしいから写真週刊誌や漫画を読みたい事もあるわけです。

とはいえ、何か目が覚めるような第三のアイデアや仕掛けがないと、パッケージゲームは予算や市場の問題から作りづらい時代になり、基本無料のゲームは似たようなものばかりで飽きられるか、ガチャが法的に規制された瞬間に即死する。どちらも作って、どちらも遊んでいると、そう思います。ゲームDJとして特にパッケージゲームを重点的に遊ぶようになってからは尚更深く考えるようになりました。
 

■その3「新しいエンタメを思いつこう」
というわけで第三の新しいアイデアを模索、実行しなければこれから本当にヤバいのですが、ゲーム実況をしていると、良いアイデアが産まれる可能性がちらほら実感できる瞬間があります。

例えば、私は今後のヒットキーワードに「体験の共有」というのがあると考えていますが、ゲーム実況をすると視聴者と出演者との間に、体験したものにしかわからない共通の話題が増えていきます。二度と忘れられないようなもの、知っている同志だからこそ長期間盛り上がり続けれるものがオンエアの度に続々産まれていくのです。特筆すべき点は、これらが「複製不可能」だということ。どれだけ分析してもコピーできないものは強い。CDの販売が不振になった音楽業界がフェスやイベントに活路を見出したのとよく似ています。

e-Sportsのアプローチもそうかもしれません。いずれにせよ、これからはゲームでも「体験の共有」をわかりやすく、面白く、最初に、商品・サービスとして提示したものが大きくスケールします。その組み合わせは何なのか? 実況をしていると「この組み合わせはイケてるのではないか?」という示唆に富んだ瞬間がよく訪れます。実はこれが最も私が得たいことなのです。

スマホ以降、これから何が来るのか? 本当にわからない。わからなすぎる!時代に突入しています。そんな中、つくることもやめず、伝えることを始めることよって、まだモヤモヤとはしていますが、何かの手がかりが掴めそうです。あとは実行・失敗・改善の繰り返しですね。ゲームDJがどのようなアプローチで活動をしているのか? その狙いは何なのか? 今日はそんなお話でした。それではまた!
 

 
■著者 : 安藤武博
ゲームプロデューサー。過去スクウェア・エニックスにて、1998年からコンシューマーゲームやスマートフォンゲーム事業に携わり、スマホ事業ではF2P/売り切り型を問わず『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、複数のヒット作を生み出す。2015年9月にスクエニを退社し独立起業。ゲームプロデュースとメディア事業を手がける株式会社シシララを設立。ゲームDJとしても新たな挑戦をはじめている。

公式ツイッター:https://twitter.com/takehiro_ando
公式Facebook:https://www.facebook.com/andot.official?fref=ts

 
■安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー

第42回「『アリスオーダー』リリースしてどうだった?」 (岩野)

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第33回「ヒットしたければ半径10メートルから飛び出せ!」 (安藤)

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第25回「インディーズを軽視するものは敗れ去る」 (安藤)

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第20回「「ラブライブ!」の魅力ってなんだと思う?」 (岩野)

第19回「良い作品をつくるために必要な三つのこと」 (安藤)

第18回「スマホゲームにおけるプロデューサーの重要性」 (岩野)

第17回「私はなぜスクエニの部長をやめたのか?」 (安藤)

第16回「日本のスマホゲーム業界が危うい」 (岩野)

第15回「サラリーマンクリエイターの働き方はすでに限界を迎えている」 (安藤)

第14回「ゲームを売る上で一番大事な人」 (岩野)

第13回「市場のピンチを知らせるクリエイターからのSOS」 (安藤)

第12回「F2Pゲームにおける最強の商品とは?」 (岩野)

第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)

第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)

第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)

第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)

第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)

第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)

第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)

第4回「IPを育てよう」 (岩野)

第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)

第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)

第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)