■考え着いたプロセスの評価と可能性の提示
ディライトワークス株式会社
FGO PROJECT クリエイティブディレクター
塩川洋介氏(写真右)
株式会社ファリアー
代表取締役社長
馬場保仁氏(写真左)
FGO PROJECT クリエイティブディレクター
塩川洋介氏(写真右)
株式会社ファリアー
代表取締役社長
馬場保仁氏(写真左)
馬場氏(以下、馬場):これまでの話で、シンプルに伝えることと、集団活動の経験が必要なのはわかりました。それに加えて、他に必要なスキルって何だと思いますか。基礎スキルといったものでしょうか。
塩川氏(以下、塩川):くどいようですが、「物事は何でも考えないといけない」ということに気付かないといけないことでしょうか。ただ、それが大事だと教える際に、複数回講義の途中で期間が開くと忘れてしまう学生が多いですね。講義を受けた後は「感動しました!」と言ってもらえるのですが、次の講義では忘れている。あの時の感動はどこにいってしまったんだと(笑)。
ここは何度も教え続けないといけないのだなと思います。自発的にやれる段階にまで定着すれば、どんどん経験を積んでくれると思いますので。「考える」ということは、ブレストの時や企画する時もそうですし、活躍するフィールドが変わったとしても活きると思います。
馬場:あとは体験も必要かなと思いますね。体験できるところまでを反復していくことでしょうか。成功体験を積むことが楽しいって思えるのは時間がかかりますからね。社会人だと「売れる」とかで体験は積みやすいですが、学生はその機会も少ない気がします。
塩川:評価の機会も大事ですね。私も学生の時は、コンテストや評価会には積極的に出ていて、それがモチベーションになっていました。評価される機会に出続けることも大事です。今は機会も増えたのでみんなチャレンジはできると思います。
馬場:コンテストの数は増えましたからね。私も審査員として行けますので、関係者の方でこの対談をご覧の方は我々2人にオファーをどうぞご連絡ください(笑)。
ただ実際、現場で作っているプロの意見を聞けて、自分が評価されるのは良い体験でしょうね。なので、プロはダメ出しというより、ちゃんと評価してあげてほしいですね。そりゃあプロと比べたら質が劣るのは仕方ないので、可能性も示してあげるべきです。
塩川:作品の成果はもちろん重要ですけども、何でそこに行き着いたのかというプロセスも評価してあげるべきですよね。いろんな作り方があって、いろんな伸びしろがあるというのは提示してあげる。その上で、どう進むかはあなた次第と言ってあげることが重要だと思います。
例えば、どんなに質が悪くても、業界を目指している人たちに対して、教える人や評価する人の立場はプロセスを評価し、伸びしろがあることを提示する。そうあるべきだと思います。
馬場:業界を目指す学生からしたらプロの発言はかなり重いからね。神のお告げに近いでしょうから。
塩川:私が学生の時に、「講師たちはそれぞれ違う事を言うから、自分の信じたいことだけを信じろ」とすごく言われましたね。誰かの言うことだけを信じると、別の人と対立することになってしまうので、依存せずに自分だけを信じて選択したほうがよいと思います。
馬場:ベース部分は、自分の信じる軸を作るべきなんでしょうね。そこはいろんな議論や経験をして醸成すべきで。そのあとの制作プロセスについては、表現すべき手段は色々あるから自分の適したものを選択していく。全てを聞く必要はないでしょうね。もちろん、時には正解ではないケースもありますが。
塩川:話が戻りますけど、日本ではゲーム作りの土台がバラバラですからね。海外の書籍は分厚いものも多く、それだけ培われて共有化された土台がありますが、日本にはない。海外の現場ではベテランのクリエイターでも困った時そうした書籍を読んで調べていましたね。迷った時に立ち返れる土台は必要だと思います。
馬場:何かベースを作るしかないんでしょうね。エンジニアやデザイナーなどの技術はまとめられている部分はありますが、企画や考え方は難しい。「企画職ってアイデア出すことですよね」とよく言われますけど、それだけではないですし。まずは、ゲームプランナーといった仕事のスキルセットを解明し、オープン化することだけでもかなり意味はあると思いますね。
塩川:自分が当時作ろうとしていた本が、まさにそれでしたね。プランナー向けとして、ゲーム制作を俯瞰的に見た書籍はありますけど、実際のプランナー業務を最初から最後まで明かされている書籍がないです。また、欧米の書籍を見ても、ゲーム作りの文化やジャンルが違うから、あまり通用しない。日本のゲーム業界において、プランナーがゲームの起案から完成までをちゃんと可視化した書籍があれば、プランナーのベースができるのかなと思います。
馬場:その本作ることができれば、学校さんに買っていただけますね(笑)。それだけプランナーの教育は難しいということでしょうか。ゲーム会社も教育する前提で採用するケースが多いですからね。
■俯瞰的目線を持つプランナー
塩川:発想が飛躍しすぎているかもしれませんが、プランナー育成は、もはやディレクター育成で良いのかなと最近思います。ディレクターというポジションはプログラマーやプランナーなどを長年経験して務めるケースが多いですが、ああいった一子相伝のモデルはなんとかならないのかなと思います。このモデルではいずれできる人が少なくなり、業界が先細ってしまう。
なので、初めからディレクターとして育てた方が良いのではないかなと思っています。個人的に尊敬しているブラウニーズ社の亀岡社長が以前、ディレクターは最初からディレクターとして育てる、というようなことをおっしゃっていて、その言葉がすごく腹に落ちたんですね。
ディレクターはどちらかというとゲーム制作を俯瞰的目線から見て動く仕事です。プランナーやプログラマー、デザイナーは現場から積み上げてきた目線で動く仕事なので、実務の中では俯瞰側の目線は培われづらいんですよね。プランナーからみても、ディレクターの仕事内容がピンとこないでしょうからね。わかるためにはディレクターの仕事に放り込むしかない。
馬場:その景色を見てみないとわからないことはたくさんありますね。
塩川:もちろん、実務経験の中から活かせる部分はあると思います。それでも、ディレクターは俯瞰目線に徹底すべきなので、どうしても特定の実務経験がゆえに判断にブレが出てしまうんですよね。いかに俯瞰的に見られるようにするかと考えると、最初からその目線を学ばせるつもりで育成するのが重要かなと思います。ディレクターになる前提で大局的に物事がみられるよう育てたほうが、結果的にプランナーとしてもより良いクリエイターが生まれるかもしれないと考えています。
馬場:発想としては私も近いです。プランナー採用をしていた時は、2年後にディレクターになりうる人を採用していましたからね。もちろん、現場の動きや気持ちを知らないとディレクターはできないと思うので、プランナーとして入社してもらうけど、キャリアパスとしてはディレクターになる道でした。
塩川:ディレクター構想ありきで、プランナーの業務やスキルセットを組んでいくという考え方もいいかもしれませんね。
馬場:じゃあディレクターに求められるスキルって何ですかって言われそうですけど、今回では語りきれないな(笑)。
塩川:そうですね(笑)。それはまたの機会で(笑)。
■プロジェクトマネージャーの在り方
馬場:個人的には、ディレクターはゲーム作りにおいて、一番面白いポジションだと思います。苦労や責任はありますけど、自身で意思決定できることが多いですから。今は比較的、ディレクターはクオリティの責任を担うポジションになって、いわゆるプロジェクトマネージャー(以下、PM)と分けた形が多いですよね。運用までやっていると、クオリティ管理もプロジェクト管理も任されるのはかなり負担になりますからね。誤解恐れずに言えば、PMにクリエイティビティや独自性は必要ないので、誰かに任せることはできると思います。
塩川:私自身も幸いにして、他の人の協力を得ながら、クリエイティブに専念できる環境を実現できていますね。特殊なディレクション体制ですけど、今の時代では、それぞれが得意な分野での分業というのも可能なのかなと思います。
馬場:ゲーム業界だったら、クリエイティブに専念したい人はたくさんいるはずですよね。ゲーム会社はそういったキャリアパスも考えてあげないといけないかもしれない。マネジメントができないと昇給昇格できないというのは、クリエイティブに携わる業界だと、評価として足りない部分は多い。評価とキャリアパスを考えないと、育たないし、会社に定着もしないでしょうね。…そうなると、学校でもPM分野を教えた方がいいのかな。
塩川:この前、専門学校の講演でPMについて話したら、皆さん知らなかったのが印象的でしたね。生徒さんからも「自分がやりたかった仕事はPMだったのかもしれないです」という感想もありました。企画、プログラム、サウンド、デザイン以外にもゲーム業界を目指せる仕事はあることを伝えないといけないなと感じました。しっかり細分化されて成り立っていることを認知してもらわないといけないですね。
馬場:あとはPM枠の採用ですよね。これは企業でもまだ取り組めていないところが多いと思うなぁ。ディライトワークスさんはオープンにしていますけど、これからはそういう動きが出てくると思いますけどね。そうなると次は、どんな人を採ればいいですか、という課題が挙がりますね。PMという枠で教育したことがないから。
塩川:業界挙げての、PMという仕事の認知や地位向上は必要かもしれませんね。
馬場:そういう意味だと、専門学校でもPMを教えるコースがあればいいのかもしれませんね。
塩川:ある程度のフォーマット化はされているので、教えることはできると思います。もちろん、それではカバーできない部分はあると思いますが、それは他の職種でも同様だと思いますので。
馬場:ただ2年コースだと難しいかもしれませんね。
塩川:新卒でなくとも良いのかなと思います。他業界で似た経験をした人がゲームPMコースという課程を1年や2年学ぶと、業界の知識もわかった上で参入できるといったケースもあっていいですね。
馬場:プランナーコースにPM分野を入れるのは悩ましいですね。3〜4年なら入れてもいいかもしれないですが。
塩川:プランナーに役に立つスキルもありますからね。あとは、将来的な可能性を見出せてもらえるかですね。新卒でPMをやるというケースは現状ほとんど見ないので。
馬場:まずその子の価値を評価できる企業が少ないでしょうね。PMの大事さを。PMという仕事に価値があるっていうことを伝えないといけないですね。クリエイティブに関わっていないからダメという訳ではないですし、事業責任を持つ以上、高給待遇でも良い訳ですからね。その為に、何のスキルを学ぶべきかをちゃんと考えて教育しないといけないですね。
■プランナーとしての在り方を考える
馬場:こう考えていくと、今教えられている「プランナー」という分野は幅が広すぎるのかもしれませんね。採用側もディレクターやPMの方が向いていると判断した場合は、そのキャリアパスも考慮してあげる事を想定した上で採用しないといけない。学校ではベースを教えてもらって、全体のレベルを上げてもらわないといけないですし、現場で働くプロも講演するなり書籍を出すなりして、今の制作現場を教える協力をしないといけないです。
その一方で、今は細分化ができる時代なので、どこに適性が当てはまるかを考えた上で採用して、教育していかないといけないですね。その上で、プランナーもディレクターとして育てることも可能性の一つかもしれません。採用側も考えて採用しないといけない時代ですね。ゲーム作りと一緒です。プランナーでみた場合、今はどんな学生が欲しいですか?
塩川:新卒だけで考えると、柔軟性や向上心ですね。ここは各会社によって考え方は違うと思いますが、特別「何かツールが使える」といったものは重視していないです。ツールは後から身につけられるものなので。半年から一年は何もできなくとも伸びていける人ですね。
馬場:まず前提は、プロとしての教育もあるので、吸収する姿勢が強いってことですね。以前に対談したコロプラの馬場氏は「素直」って言葉で表していました。「聞く」という姿勢がないと成長はないという考えですね。
塩川:あとは、物を考えることが好きな人ですね。
馬場:この対談を通して話している、「何事も考える姿勢を持つ」ことですね。その辺りは、教育で培われていけるものでしょうけど、残念ながらそこができる学生は現状、一握りしかいないですよね。恐らく今は情報と技術が多すぎて、与えられたものをクリアしていくことも大変な時代だからでしょうけど。この辺りは学校側でもしっかり学ぶ筋道を作ってあげるべきでしょうね。
塩川:ツールなどのわかりやすいものを学んだ方がやった気にもなりますからね。自身が使うことがないUnityを学んで、勉強した気になってしまう。
馬場:成果としては出ますからね。成長したと思ってしまう。もちろん、達成感はモチベーション維持にも重要だから、やるなとは言えない面もある。ここを体系立てた構成と継続していく力が必要ですね。では最後に。中途も含めて、ディライトワークス社ではどんなプランナーがきてほしいですか?
塩川:プランナーは会社として多様性を重視したいので、「何ができるか」「何をしたいのか」を明確にしてきて欲しいですね。それが、PMやディレクター、プログラマーに当たる能力であっても良いです。平均的な人よりは何か1つ自慢できるものを持っている人のほうが好ましいですね。
これは新卒と中途関係なく話してはいることですが、「あなたがやりたいことは何ですか」と聞いています。会社はあなたがやりたいことをサポートする対価として、会社に貢献してほしいと考えている。あなたがやりたいことを精一杯出来るように会社は提供するので、まずはやりたいことや想いを教えてほしいと言いますね。
馬場:最終的にユーザになにがしかの「感情」を与えることが我々の仕事である以上、自身に想いが持っていないと難しいですからね。プランナーであれば、どこかに軸足を持った上でプランニングした方が活躍できるということですよね。そして、ディレクターのような俯瞰的視線は最初から持つようにならないと、プランナーとしても苦労するし、良きディレクターにもなれないと。まあ、ここが業界全体でディレクターが足りないと言われている実状かもしれないですね。
塩川:そうですね。なるべく自分が面倒を見るプランナーにはディレクターになってほしいと思っています。
馬場:今回の話をまとめるとすると、自分のできる事とやりたい事を拙くても良いから考えて、明確な意思として持った上で学んでもらい、ゲーム業界を目指してほしいということですね。
あと、誤解していただきたくないのが、学校サイドを我々は責めているわけではないということです。学校、プロ、そして学生自身が担わないといけない役割や意思が必要だということです。ゲームというものは日々常に技術や考え方、作り方まで進歩をし続けるものです。それを学校だけで補うのは無理ですし、企業やクリエイターも未来につなぐためにも最新の技術やナレッジを共有していかなければいけないと思います。土台となるところを教え鍛える学校、最新の情報、技術を伝えるプロたち、そしてそれを「想い」「意思」もって受け止め成長していく学生たち、という三位一体の構造であってほしいと強く思います。本日は、ありがとうございました!
<後記>
2回にわたってお送りしてきました、塩川さんとの対談です。
彼が一流のクリエイターであると同時に、現状に満足せず、且つ、未来もみすえて人材育成を真剣に考えていることが垣間見られる対談だったと思います。
彼が弟子をとって、がっつり育成したときに、どんな人材がでてくるのか?非常に楽しみです。
その日がくるのを、楽しみに待っていようと思います。今回は以上。
■著者 : 馬場保仁
株式会社ファリアー 代表取締役社長。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。その後DeNAにてスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任。現在は、ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。
■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー
■「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【前編】(第三十一回)
■第三十回「指導者に問われるもの」
■第二十九回「そもそも、企画の仕事って…」
■第二十八回「転職〜中級編・自分の価値を知る〜」
■第二十七回「転職〜入門編〜」
■第二十六回「リーダーシップとは」
■第二十五回「思考のスタミナ」
■第二十四回「出て行く勇気」
■第二十三回「個人でつくる・集団でつくる」
■第二十二回「指摘される勇気、指摘する気遣い」
■第二十一回「どこを見るか? どう採るか?」
■第二十回「100%の力を発揮するために……」
■第十九回「まずは、”伝える”ことから始めよう!」
■第十八回「カード少なく勝負に挑まない」
■第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【後編】(第十七回)
■第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【前編】(第十七回)
■第十六回「新人事始」
■第十五回「就職活動にみられる地方格差」
■第十四回「【思いやり】の向こう側」
■第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜」
■第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」
■第十一回「ハッカソンの功罪」
■第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」
■「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)
■「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【前編】(第八回)
■第七回「学生さんにやっていただきたいこと~後編~」
■第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」
■「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)
■「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)
■第三回「若手のチャンスとキャリアパス」
■第二回「企業×学校×学生」
■第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」
会社情報
- 会社名
- ディライトワークス株式会社
- 設立
- 2014年1月
- 代表者
- 代表取締役 庄司 顕仁