【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。
今回の担当:岩野弘明氏
■第42回「『アリスオーダー』リリースしてどうだった?」
先日私がプロデュースしている『アリスオーダー』をリリースしたので、『アリスオーダー』でチャレンジしてみたことやその結果、あとは改めて感じたことについて書いてみようと思います。
その前にそもそも『アリスオーダー』についてざっくり説明すると、
・ミリタリーと超能力がテーマの「かっこかわいい少女たち」を目指した世界観
・スマホへの最適化を狙ったシミュレーションRPG
・PvPやGvGといった「対戦」をエンドコンテンツとして考えているゲーム
(GvGはまだ実装してませんが…)
という感じのゲームです。さらに言うと開発がかなり遅れ2年くらいかかってしまっています(本来なら2015年5月に出したかった…)。そのためゲーム画面のパッと見の見栄えとしては、人によってはちょっと懐かしさを感じてしまうかもしれません。
そういった状況やゲームの特性を考えてプロモーションや運営方針を定めたのですが、その中でもうまくいった事とそうでもなかったことがそれぞれ出てきたので、その辺をお伝えします。
■『アリスオーダー』でチャレンジしたこと
『アリスオーダー』ではいくつかチャレンジしたことがあります。それはがこちら。
・リリース前の集客
・いきなり大盤振る舞い
・とってもゆるいガチャ確率
というわけで順番にどうなったか書いていきます。
<リリース前の集客>
これは第38回の記事(関連記事)でも書いたことなのですが、情報の拡散力を高めるには、まず発信源たるファンの母数を増やしておくことが重要。そこで、ゲームの情報の発信場所として日頃から使っているTwitterにフォーカスし、「リリース前にTwitterのフォロワーを極力増やす」という事を目指しました。
基本的にやったことは『あんさんぶるスターズ』を参考にしたtwitter施策と、その流れで実施した事前登録キャンペーンです。何をやったかは長くなるので省きますが、『アリスオーダー』のTwitterを見ていただければ大体わかるので気になる方はこちらからどうぞ。⇒(アリスオーダー公式Twitter:https://twitter.com/aliceorder_pr)
結果として、事前登録者数が130,000人、Twitterのフォロワー数がリリース前にもかかわらず35,000人まで伸びました。事前登録者数についてはシリアルコード特典を使えない中としては結構頑張った数字ですが、Twitterのフォロワー数についてはかなりうまくいったといえます。
この「リリース前のフォロワー35,000人」というのがどういう数字かというと、『FF』や『DQ』の新作タイトルのTwitterのリリース前のフォロワー数と大体同じくらい、と言えば分りやすいかと思います。『あんさんぶるスターズ!』が6万人超えを記録していましたが、それを除けば新規のIPとしてはすごくいい数字です。
また、日頃行っている個人的なTwitter活動や他ゲームのニコ生やオフイベ、そして本連載などによる私自身の露出という部分も少なからず効果があったように見えます。Twitterを検索したり、ストアのレビューなどを見ると「岩野プロデュースらしいので触ってみる」というコメントをいくつか見かけました。一方でストアのレビューには「岩野プロデュースだから★1」といったネガティブなコメントも見受けられましたが、それであってもまずゲームを触ってもらうことが大事なので、認知向上につながるのであれば意味があるかと思います。
そして話は戻り、今回のリリース前施策については、それらをほぼお金を使わずできているというのが良かったところかと思います。もちろんお金をかけた大きなプロモーションも大事なのですが、開発にもプロモーションにも多大なお金がかかるこのご時世、安く効果的に行うプロモーションというのも益々大事になってくるので、より意識していきたいポイントだと思います。
▲バトル画面
<いきなり大盤振る舞い>
『アリスオーダー』にはいくつかの懸念点がありました。それは「おもしろさを実感するまでに時間がかかるシミュレーションRPGというジャンル」「開発遅延によりゲーム画面の新規性が薄れた」という点。
そこで、とにかく序盤にゲーム中最高レア度である★5キャラをいきなり無料で最低5体プレゼント、という前代未聞の大サービスを実施しました。「そんなにサービスしてくれて無料でできるならとりあえず続けてみるか」という気持ちになってもらえないかな、という狙いです。
ここでプレゼントする★5キャラは形だけの弱いキャラではなく、有料ガチャで出てくる正真正銘の強キャラ。だから率直に言って課金する必要がありません。つまり売上が上がりません。それでも、おもしろさを実感し定着してもらう、ということを最優先に考えてこの施策を実施してみました。
この施策は遊んでくれた方々の中で話題になりましたが、いかんせんまだリリースから2週間程度なのではっきりと結果が出る状況ではありません。出だしの定着率としてはいい方かな、くらいでしょうか。なので要経過観察という感じです。
▲ユニット情報画面
<とってもゆるいガチャ確率>
『アリスオーダー』の常設有料ガチャの最高レア度が出る確率は6%で、他のゲームでいうところのフェス限ガチャと同等の確率に設定してあります。これはもちろん当たりやすくして課金の敷居を下げる狙いがあるのですが、ネットの声などをみていると、やけに高い確率に好感を持たれていたり、逆に何か裏があるのでは…と勘繰られていたりと、意見はそれぞれ。
ただ、実はこの施策はあるシステムと併用して実施したかったこともあり、現状は不十分な状態です。本来は、ゲーム中で「このステージはこういう攻略法があるよ」「他の人はこういうデッキで攻略してるよ」「そのためのキーキャラはこちら!」といったような、今自分にどういったキャラが必要なのかを認識し実感できるようなシステムと併用して実装したかったのですが、それを実装できなかったため今は狙い通りにいっていません。
ですので、先述したいきなり大盤振る舞いの施策と合わせて、アップデートで不十分なところを補完していきつつ本来の意図通りに進めていきたいところです。
■改めて感じたこと
そんな中でも想定していた以上のお客様に遊んでいただけているのでありがたい話です。ただ、今回『アリスオーダー』をリリースしてみて、より多くの方々に遊んでいただくために何をするべきか、という点について改めて感じたことがあります。
それは、「ビジュアルの新規性とクオリティを意識する」ということです。
言いかえると「なんかグッとくる絵作り」という感じでしょうか。やはり人は一次情報たる視覚情報に一番に興味を持ちがちで、そのクオリティによって抱く興味の高さがかわります。
『アリスオーダー』でいうと、世界観やそれを受けてのキャラクターイラストやキービジュアルについては非常に好評で、そこから興味を持ち始める方が多かったように見受けられますが、一方でゲーム画面におけるSDキャラやシミュレーションならではのマス目フィールドに対してアレルギーを持たれている方も多くいました。
この辺は人それぞれ趣味趣向の違いもあるので、その商品をどこに向けているのかにもよると思いますが、それでも質や魅せ方については端末スペックやインフラ、そして長期運営できることを考慮した上で、可能な限り高めていく必要があると改めて実感した次第です。
▲ホーム画面
また、ゲーム性がいかに面白いものであっても、上記の通りまずは見た目から入る方は多いので、触ってある程度遊ばないとおもしろさを実感できない、というタイプのものだと苦戦します。こういったタイプは「いかに手に取って長く触ってもらえるようにするか」「定着していただいたお客様をいかに飽きさせずゲームを続けてもらえるか」が特に重要なので、そこを意識したプロモーションや施策を打つ必要があります。
ただ、こういったゲーム性重視のタイプはある程度のユーザー規模を確立すると長期運営がしやすいので、同じタイプの『アリスオーダー』も長く楽しんでもらえるものにしたいですね。
しかし、今後はさらにビジュアルとゲーム性の両立が求められてくるので、ヒットを狙うには投資のリスクがますます高くなってきますね。本連載をご覧の皆様におかれましても、志を同じくする方も多いことかと思いますので、お互いの武運を祈りつつ日々精進していきたいものであります。ではでは今日はこの辺で!
P.S.
「この素晴らしい世界に祝福を!」のめぐみん、かわいいですね。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm28072889
■著者 : 岩野弘明
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部) プロデューサー。『乖離性ミリオンアーサー』を筆頭に、同シリーズ全体のプロデュースを担う。新作は超能力×ミリタリーRPG『ALICE ORDER /アリスオーダー』。
岩野氏のツイッター:https://twitter.com/Iwano_Hiroaki
■安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー
■第41回「あなたのゲームがTOP3に定着しないのは「これ」のせいかも」 (安藤)
■第40回「VRのゲーム分野における可能性」 (岩野)
■『FFBE』キーマン達の座談会…ゲームアプリ市場の功罪とは (安藤)
■第39回「”犯人はヤス”理論」であなたのゲームはグッと目立つ (安藤)
■第38回「プロモーションの拡散力を高める秘訣」 (岩野)
■第37回「ヒット作に必ず入ってくる“三つの条件”」 (安藤)
■第36回「WEBアニメ「弱酸性ミリオンアーサー」を作ってみた結果」 (岩野)
■第35回「起業してわかった、おいしいサラリーマンの仕事の仕方」 (安藤)
■第34回「「物語シリーズ」に見る魅力的なキャラの作り方」 (岩野)
■第33回「ヒットしたければ半径10メートルから飛び出せ!」 (安藤)
■第32回「上司と真逆のプロデューサー論」 (岩野)
■第31回「プロデューサーとディレクターの違いについて良く聞かれるので明快に答えてみた」 (安藤)
■第30回「新規アイドルゲームに未来はあるのか?」 (岩野)
■第29回「続・エニックス創業者福嶋康博さんが教えてくれたエンタメの真髄」 (安藤)
■第28回「恋活アプリ体験談」 (岩野)
■第27回「エニックス創業者の福嶋康博さんが教えてくれたエンタメの神髄」 (安藤)
■DeNA執行役員・渡部氏による対談企画…後編「DeNAが目指す次のステップ」 (岩野)
■第26回「スクエニで最もプレゼンがうまいと言われたおれが極意を教えよう」 (安藤)
■DeNA執行役員・渡部氏による対談企画…前編『ミリオンアーサー』の誕生秘話とは (岩野)
■第25回「インディーズを軽視するものは敗れ去る」 (安藤)
■第24回「サバゲー人気の謎に迫る」 (岩野)
■第23回「心が折れそうなときに読む話」 (安藤)
■第22回「「がっこうぐらし」のニコ動再生数が異常な件について」 (岩野)
■第21回「打ち合わせや会議が増えたときに読む話」 (安藤)
■第20回「「ラブライブ!」の魅力ってなんだと思う?」 (岩野)
■第19回「良い作品をつくるために必要な三つのこと」 (安藤)
■第18回「スマホゲームにおけるプロデューサーの重要性」 (岩野)
■第17回「私はなぜスクエニの部長をやめたのか?」 (安藤)
■第16回「日本のスマホゲーム業界が危うい」 (岩野)
■第15回「サラリーマンクリエイターの働き方はすでに限界を迎えている」 (安藤)
■第14回「ゲームを売る上で一番大事な人」 (岩野)
■第13回「市場のピンチを知らせるクリエイターからのSOS」 (安藤)
■第12回「F2Pゲームにおける最強の商品とは?」 (岩野)
■第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)
■第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)
■第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)
■第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)
■第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)
■第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)
■第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)
■第4回「IPを育てよう」 (岩野)
■第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)
■第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)
■第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)
■第41回「あなたのゲームがTOP3に定着しないのは「これ」のせいかも」 (安藤)
■第40回「VRのゲーム分野における可能性」 (岩野)
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■第39回「”犯人はヤス”理論」であなたのゲームはグッと目立つ (安藤)
■第38回「プロモーションの拡散力を高める秘訣」 (岩野)
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■第18回「スマホゲームにおけるプロデューサーの重要性」 (岩野)
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■第16回「日本のスマホゲーム業界が危うい」 (岩野)
■第15回「サラリーマンクリエイターの働き方はすでに限界を迎えている」 (安藤)
■第14回「ゲームを売る上で一番大事な人」 (岩野)
■第13回「市場のピンチを知らせるクリエイターからのSOS」 (安藤)
■第12回「F2Pゲームにおける最強の商品とは?」 (岩野)
■第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)
■第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)
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■第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)
■第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)
■第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)
■第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)
■第4回「IPを育てよう」 (岩野)
■第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)
■第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)
■第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)
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会社情報
- 会社名
- 株式会社スクウェア・エニックス
- 設立
- 2008年10月
- 代表者
- 代表取締役社長 桐生 隆司
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)