【連載】安藤・岩野の「これからこうなる!」 - 第45回「e-Sports元年にはまだ遠かったので、どうすればいいのか考えてみた」
【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。
今回の担当:安藤武博氏
■第45回「e-Sports元年にはまだ遠かったので、どうすればいいのか考えてみた」
1月末に幕張メッセで今年も盛大に「闘会議2016」が開催されました。ステージ司会の仕事がてら色々なブースを見て回りました。今回の特徴としては大手が中心となり、総額数千万円の賞金をかけた対戦イベントが行われるなど……今年を「e-Sports元年」と位置づけ、ブームの到来を意識した仕掛けが多く見られました。未来を見据えた思い切りの良いチャレンジが素晴らしかったと思います。
一方で数多くの対戦イベントを観て、「まだ元年とは言えないな」と感じたのも事実。では、なぜそう思ったのか? また、もっとe-Sportsが盛り上がるために何をしたらいいのか? 本当のスタート……つまり「元年」になるには、どうしたらいいのか? を考えてみました。
まだまだe-Sports元年ではない理由。
■その1「そもそも対戦向けのゲームとして設計されていないものが多い」
現在主流のスマホゲームは事実上ソロプレイ、ないしは共闘や緩やかなつながりでコンピューター相手に闘う、ないしはランキングを競うように設計されたものが多い。イベント用にタイムアタック要素が追加で設けられることも多いですが、最初から対戦向けにデザインされているものに比べるとどうしても無理が出てしまう。これがイマイチ盛り上がりに欠ける理由です。
■どうすれば良いか?
「最初から対戦向けのゲームとして設計する。」
当たり前ですが、これです。スマホにはモデルケースがまだ少ないですが、『HEARTHSTONE(ハースストーン)』という圧倒的なお手本がありますし、TCGに影響を受けたアーケードゲームなどはマネタイズも含めてデザインしやすいと思います。もちろん『LOL』(League of Legends)のスマホ版、新解釈でもいけそうですね。ただ、これはずいぶん前に勘のいい人達が気づいて、すでにつくっているので、もうすぐどんどん世の中に出てきます。
最近第二回目のクローズドβが始まった『Shadowverse』などはとても期待が持てます。当然、世界的に大会を催すでしょうし、M−1クランプリやR-1ぐらんぷりなどのTV番組もスポンサードしているCygamesさんですから、大きな賞金のイベントとセットで一気に、この領域を攻めとってくるはず。
■その2「何をやっているのか観戦している人にわかりにくい」
ゲームをやっているプレイヤーには状況がわかるものは多いものの、初見で今どういう状態なのかわからないタイトルがほとんどです。これではなかなか広がっていかない。『スプラトゥーン』くらい出来が良いタイトルでも、わかりにくいと疑ってかかったほうが良いと思います。
TPSやFPSは当然プレイヤーのカメラを映し出しますので、自分がどうしているかはよくわかりますが、他人がどうしているかは他のプレイヤーの主観カメラを見ないとわかりません。総合的にどうなっているかを把握したい場合、それぞれの主観視点を脳みそでミックスする必要あり、これがストレス。格闘ゲームがe-Sports向けなのはこれをクリアしているからというのも大きいと思います。
■どうすれば良いか?
「観戦者用のカメラを作る。」
スポーツ中継では、この部分に相当なカロリーが割かれています。HBC北海道放送の資料(関連サイト<PDF>によると2014年の日米野球中継に使用されたカメラは計21台。その内訳はこんな感じです。
- ピッチャーが投げる時を映すカメラ
- 打球を追うカメラ
- 右バッターを撮るカメラ
- 左バッターを撮るカメラ
- ピッチャーを撮るカメラ
- バッターをセンター方向から撮るカメラ
- 打球を追うカメラ
- 外野スタンド上から打球を追うカメラ
- 球場の雰囲気を撮るカメラ
- 球場の俯瞰、守備位置を撮るカメラ
- 二塁盗塁を真上から撮る天井カメラ
- 選手の表情やフォームをハイモーションで撮るカメラ
- 敵軍ベンチを撮るカメラ
- 自軍ベンチを撮るカメラ
- 投球の変化やコースを見せるカメラ
- 敵軍ブルペンを撮るカメラ
- 自軍ブルペンを撮るカメラ
- 敵軍インタビュー時のカメラ
- 自軍インタビュー時のカメラ
- 放送席を映すカメラ
- ホームラン時に選手のホームインを至近距離で撮るカメラ
これだけ用意されています。これはスポーツ中継でも多いケースかもしれませんが、少なくとも番組として視聴者が状況を把握しやすく、かつ楽しく観れるようにするためにはこう言った配慮が必要です。これに対して現状のゲームは自キャラ視点と俯瞰マップ視点の2つしかカメラがないことが多い。当然わかりにくくなりますよね。
野球中継でもセンターから投手とバッターを捉えるカメラが昭和53年に解禁されました。(捕手のサインが盗まれるという理由で、それまではバックネット裏からの映像が主流だった。)ここにスローVTRの技術が組み合わされることで投手の投球コースや球種が把握しやすくなり、観戦の幅が大きく広がったといいいます。e-Sportsもスポーツと標榜するからにはゲームに応じた適切なカメラ配置は必須仕様といえるでしょう。
■その3「プレイはすごいがプレイヤーの見た目が普通すぎる」
対戦している選手のビジュアルが日常的なのは興行としては盛り上がりに欠けます。言ってみれば素人参加型のクイズ番組みたいになってしまっている。誤解を恐れずに言えば「出演者がカッコ良く見えない」んですね。やっぱりプレイ+見た目からスター選手が出ないと本当の盛り上がりは来ないのではないかと思います。
スポーツはここにユニフォームといった概念を取り入れ、これが機能的にも視覚的にも観客が感情移入しやすい演出となっていますね。かといってゲームにふさわしいウェアみたいなものも、構造的に普段着で十分なので、なかなか難しい。それでも高橋名人VS毛利名人対決を描いた映画は、衣装も(特に高橋名人がマンガっぽい格好でよかった)プレイする筐体のデザインもとてもエンターテイメント性が高いビジュアルでした。故に当時の子供が熱中したと考えれば、最低限これくらいの視覚演出やプロデュースは必須です。
例えばゲームっぽく、顔以外はCGでAR的に合成してしまっても面白いですね。例えが旧いですが「プラモ狂四郎」くらいゲームの世界にプレイヤーがダイブインするような視覚演出。こうったところにカロリーを避けるタイトルは勝ちます。
その他、対戦に至るまでの人間ドキュメンタリーや、試合を盛り上げるデータの提示など……ヒントはTVがやってきたところに多く潜んでいますね。これまで距離が遠かったスポーツ番組やTV局の人たちとのコンタクト、ないしは格闘技などの興業イベントのノウハウがあるチームなどとの接触、コラボを進めるのも良さそうです。
いずれにせよ、対戦ゲームは今後増えます。そこから一歩でも上記の要素、またはここに書かれていない「何らかの新しいもてなし」を発明したゲームが、多くの人間の支持を集めるそして大ヒットした時に元年がやってくると思います。裏を返すと、これらに配慮が行き届いていないものはヒットしません。
そのタイトルはすでに作られている作品か? それともあなたがこれから手がける作品か? チャンスはまだまだありますね。
新しいエンターテインメントとしてe-Sportsのようなリアルイベントは間違いなく「時代の旬」になります。たくさん考えて、行動して、一緒に盛り上げていきましょう。それでは!
■著者 : 安藤武博
ゲームプロデューサー。過去スクウェア・エニックスにて、1998年からコンシューマーゲームやスマートフォンゲーム事業に携わり、スマホ事業ではF2P/売り切り型を問わず『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、複数のヒット作を生み出す。2015年9月にスクエニを退社し独立起業。ゲームプロデュースとメディア事業を手がける株式会社シシララを設立。ゲームDJとしても新たな挑戦をはじめている。
ゲームプロデューサー。過去スクウェア・エニックスにて、1998年からコンシューマーゲームやスマートフォンゲーム事業に携わり、スマホ事業ではF2P/売り切り型を問わず『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、複数のヒット作を生み出す。2015年9月にスクエニを退社し独立起業。ゲームプロデュースとメディア事業を手がける株式会社シシララを設立。ゲームDJとしても新たな挑戦をはじめている。
公式ツイッター:https://twitter.com/takehiro_ando
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■安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー
■第44回「ガチャがなくなった場合のことを予想してみる」 (岩野)
■第43回「ゲームプロデューサーが本気で「実況生主」になってみたらどうだったか?を書いてみる」 (安藤)
■第42回「『アリスオーダー』リリースしてどうだった?」 (岩野)
■第41回「あなたのゲームがTOP3に定着しないのは「これ」のせいかも」 (安藤)
■第40回「VRのゲーム分野における可能性」 (岩野)
■『FFBE』キーマン達の座談会…ゲームアプリ市場の功罪とは (安藤)
■第39回「”犯人はヤス”理論」であなたのゲームはグッと目立つ (安藤)
■第38回「プロモーションの拡散力を高める秘訣」 (岩野)
■第37回「ヒット作に必ず入ってくる“三つの条件”」 (安藤)
■第36回「WEBアニメ「弱酸性ミリオンアーサー」を作ってみた結果」 (岩野)
■第35回「起業してわかった、おいしいサラリーマンの仕事の仕方」 (安藤)
■第34回「「物語シリーズ」に見る魅力的なキャラの作り方」 (岩野)
■第33回「ヒットしたければ半径10メートルから飛び出せ!」 (安藤)
■第32回「上司と真逆のプロデューサー論」 (岩野)
■第31回「プロデューサーとディレクターの違いについて良く聞かれるので明快に答えてみた」 (安藤)
■第30回「新規アイドルゲームに未来はあるのか?」 (岩野)
■第29回「続・エニックス創業者福嶋康博さんが教えてくれたエンタメの真髄」 (安藤)
■第28回「恋活アプリ体験談」 (岩野)
■第27回「エニックス創業者の福嶋康博さんが教えてくれたエンタメの神髄」 (安藤)
■DeNA執行役員・渡部氏による対談企画…後編「DeNAが目指す次のステップ」 (岩野)
■第26回「スクエニで最もプレゼンがうまいと言われたおれが極意を教えよう」 (安藤)
■DeNA執行役員・渡部氏による対談企画…前編『ミリオンアーサー』の誕生秘話とは (岩野)
■第25回「インディーズを軽視するものは敗れ去る」 (安藤)
■第24回「サバゲー人気の謎に迫る」 (岩野)
■第23回「心が折れそうなときに読む話」 (安藤)
■第22回「「がっこうぐらし」のニコ動再生数が異常な件について」 (岩野)
■第21回「打ち合わせや会議が増えたときに読む話」 (安藤)
■第20回「「ラブライブ!」の魅力ってなんだと思う?」 (岩野)
■第19回「良い作品をつくるために必要な三つのこと」 (安藤)
■第18回「スマホゲームにおけるプロデューサーの重要性」 (岩野)
■第17回「私はなぜスクエニの部長をやめたのか?」 (安藤)
■第16回「日本のスマホゲーム業界が危うい」 (岩野)
■第15回「サラリーマンクリエイターの働き方はすでに限界を迎えている」 (安藤)
■第14回「ゲームを売る上で一番大事な人」 (岩野)
■第13回「市場のピンチを知らせるクリエイターからのSOS」 (安藤)
■第12回「F2Pゲームにおける最強の商品とは?」 (岩野)
■第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)
■第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)
■第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)
■第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)
■第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)
■第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)
■第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)
■第4回「IPを育てよう」 (岩野)
■第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)
■第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)
■第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)
■第44回「ガチャがなくなった場合のことを予想してみる」 (岩野)
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