【連載】ゲーム業界 -活人研-「ゲーム業界クリエイター教育トーク!」前編…ディライトワークス塩川氏の経歴を交えた業界クリエイター教育課題とは


 
株式会社ファリアー 代表取締役 社長の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。同氏は、セガで家庭用ゲームの開発を、DeNAではスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任していた。ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に注力していく。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。 
 
 

ゲーム業界 -活人研-「ゲーム業界クリエイター教育トーク!」前編



 
ディライトワークス株式会社
FGO PROJECT クリエイティブディレクター 
塩川洋介氏(写真右)

株式会社ファリアー
代表取締役社長 
馬場保仁氏(写真左)
 

今回は、ディライトワークス社の塩川さんをゲストに迎えての対談です。
塩川さんは、本業で大きな成果をだされつつ、わたし同様か、それ以上に現在精力的に学校をまわられて講演、指導活動をされています。過去には、学校で教えておられたキャリアも持っておられる上に、書籍もだされている座・芸夢の講師としてもこれまでも何度も登壇をいただいています。

そんな現場クリエイターには「珍しい」といっても過言ではない、育成・教育に熱心な塩川さんであるからこそ、なにか一家言あるはずだ!とあたりをつけ(笑)、今回の対談を依頼いたしました。育成熱心な2人だからこそ飛び出る言葉はなにか?まずは、前編をごらんください!

 

■「機会をモノにした」ゲーム業界に入るきっかけ


馬場氏(以下、馬場):本日はよろしくお願いします。『座・芸夢』でもご協力頂いて、学校講演や書籍出版などもされている塩川さんは、自分と似た活動をされているなぁとは以前から思っているのですが、ここに至るまでのキャリアは、わたしとは異なる道を歩んでこられていると思います。

なので、これまでの経歴から改めてお伺いできればと思いますが、ゲーム業界に入るきっかけをお話いただけますか。
 
塩川氏(以下、塩川):元々のきっかけをさかのぼると、専門学校で文章を書く仕事、シナリオライティングの勉強をしていました。文章を書く仕事をやりたいと思っていたんです。
 
馬場:それはゲーム業界で文章を書く、という?
 
塩川:業界は問わず、でした。ゲームも含めて、それこそドラマや映画といった映像分野など何かしらに携わりたいと思っていました。


そんなとき、隣の教室ではゲーム企画の授業をしていたんです。あるきっかけに参加してみたらすごく面白かったのです。私自身、過去にゲームをプレイヤーとして遊んだことがあまりなかったので、すごく新鮮でした。
 
馬場:そうなんですね!意外です。
 
塩川:プレイした覚えがあるのはファミコンの『キン肉マン』くらいでしたね(笑)。ただ、それでも授業が面白くて、シナリオの授業と合わせて、ゲーム企画科の授業を受けていくようになりましたね。
 
馬場:その専門学校では、シナリオ学科はゲーム学科とは別のコースなんですね。
 
塩川:そうですね。ライティング全般を体系化して教えるという内容でした。原稿用紙30枚をひたすら書くとか。
 
馬場:そこでゲーム企画の授業を受ける流れになったのは、偶々だったのですか?
 
塩川:シナリオ科の授業を教えていた先生がゲーム企画の授業も教えており、「ちょっと出てみないか」と言われて参加してみたという経緯でした。それ以来はこっそり出席するようになりましたね。今は勝手に出席したらダメだと思いますが(笑)。
 
馬場:当時は融通がきいたんですね(笑)。もちろん単位はとれないでしょうけど。
 
塩川:そうした流れもあってゲームの勉強もしていました。卒業年の時に、学校を通じたつながりから、とあるゲーム会社で働く機会を頂いて、ゲーム業界に入りました。
 
馬場:では、就活をして新入社員でという訳ではなく、縁や繋がりから業界に入り込んだ形なんですね。専門学校生には夢のある話じゃないですか(笑)。
 
塩川:出発点は、そういった経緯でした。ただ、きちんと学んできた訳ではなかったので、最初の会社では何もできなかったですね。それでも先輩のディレクターの方が色々経験させてくれました。仕様書や企画書の書き方や、データの打ち込み方など何でもやらせてくれましたので、最初の会社としては、すごく良かったと思います。

馬場:その会社はスクウェア(現スクウェア・エニックス)より前の会社になるんですかね?
 
塩川:スクウェア入社前ですね。良い会社だったのですが、潰れてしまいまして・・・。就職活動をしないといけなくなりました。
 
馬場:人生ゲームで言うと、転落ルートですね。
 
塩川:そうですね。最初の会社では、小さい規模の会社で、なんでもやらせてくれたので、今度は大きい会社で働いてみようと考えていました。そこで、大手の会社を一通り受け続けていたら、当時のスクウェアに入社することになりました。
 
馬場:そういった経歴なんですね。専門学校出身というと、元々ゲームが好きで、ゲーム業界に入ることが目標の人が多いですけど、塩川さんは変わった経歴、志向になりますね。今現在は色んな専門学校で講演をしていると思いますが、どういったメッセージを学生に伝えているのでしょうか。
 
塩川:いつも言っているのは、学生のうちから積極性を大事にすることですね。講師の方から「これやってみない?」という意見を受け入れようとしてみる、チャンスをモノにする姿勢と言えるでしょうか。専門学校は、与えてくれる場ではなくて取りに行く場なので、どこまで取りに行くかは自分次第、と伝えていますね。
 

 

馬場:確かに、学費も払っているからこそ、取りに行かないといけない。義務教育の延長として、「サービスを受けている」と考えてしまう人がいがちなんだけど、そういった人に対してどうするかも専門学校教育の課題だと思います。この点で、塩川さんの考えはありますか?
 
塩川:「与えてくれる場所ではない」というのを何度も伝えてわかってもらうしかないと思います。ただ一方で、それは学校側からは言いづらいと思います。ビジネスとしている部分もあるので。そうなると、第三者とも言える我々ゲーム業界の先輩が補っていかないといけないのかなと思います。
 
 

■ゲーム専門学校の課題

 
馬場:専門学校のカリキュラム以外にも、業界で働くにおいて必要なこともあると思うんですよね。そこで、学校で教えられることと、我々のようなプロの人間が教えられることがうまく噛み合わないと、次の世代を担う人たちを育てられないと思います。
 

専門学校で学べる環境があるものの、そのカリキュラムをただこなすだけではゲーム会社から求められるレベルに到達できない場合がある。では何でそれを埋めるかというと、我々のようなプロが講演や指導を行ったり、書籍などでベースを高めていくことが一つの手段と言えますが、これって自発的な学生でないとピンとこない部分がありますよね。もうちょっと広い範囲で、何かしてあげられないかとは思います。
 
塩川きちんとした体系化を行うことでしょうか。 例えば、プログラムといった技術職の基礎面だと、カリキュラムをしっかり組めば、比較的体系化しやすいと思います。ただ、我々のような企画職はまだまだ課題が多いですね。スキルセットが明確に決められていないから、企画職志望の学生がただなんとなくUnityを学んでしまうみたいな場面が多々あります。覚える事自体は良いことですが、Unity自体は企画を作るツールではないですからね。
 
そういった意味でも、問題点は今現在のゲーム制作現場と接点の少ない人だけでカリキュラムを組んでいる現状だと私は思います。これまでの色んな授業や学生を通じて感じる課題ですね。
 
馬場:求められているニーズに対して満たせていないということですね。
 
塩川:もちろん、本質的な部分、何十年前から言われていることで重要なこともありますが、それも今最前線にいる人だと「その本質が、今の現場ではどう活きるのか」といった見せ方ができると思います。現役の人にうまくつなげることが大事だと思います。
 
馬場:そうですね。なので、専門学校では、学務部分は先生たちが、技術的な部分は非常勤の講師が教えるケースが増えてきたのかなと思います。ただ、そうなると中々体系立てて教えることができないという課題がでてくるんですよね。例えば、私が言ったことと次の週に講演した講師で違ったことを言っている、とか。「言ってることが違うじゃないか」となるけど、どちらも現場で培われた技術なんですよね。その教える軸の一本化は学校側が設計したいところですが、そんなに簡単なことではない。でも、学校の授業では、特定の観点で技術を教えて欲しいし、使うワードも定義・指定するとか。今はできていないとまでは言わないけれども、まだまだできることがたくさんあると思います。
 
塩川:学校によっては、著名なクリエイターをイベントなどによんでいることもありますが、ああいった試みは意識高揚のカンフル剤としてはとてもいいと思います。新しい生徒さんも入ってくる機会になりますから。ただ、カンフル剤と学びとしての役割はきちんと分けて考えるべきだと思います。ただやみくもイベントに行えば教育カリキュラムとの齟齬が生まれてしまうのではないかと感じています。
 
 

■挫折と渡米を通じて実感した日本ゲーム業界の教育課題

 
馬場:現場にいるプロが教えることもあるべきだと感じたきっかけはありますか?
 
塩川:そのきっかけは自分の中で明確です。元々ゲーム業界を目指していなかったところから学んで、業界に入ったこともあって、実務以外でもある程度は学べるものだなとは当時思っていたんですね。ただその後、自分が教える立場になって部下を持ったときに、当然うまくいかないのですよ。

人間としても未熟なところもあって、「何でこれくらいできないんだ」と思うことも多々あって。その経験から、自分はコミュニケーションを通じて教えるということは向いていないのだと実感しました。挫折ですね(笑)。
 
馬場:人に教えるというのは難しいですからね(笑)。わかります。
 
塩川:そこで、もうマニュアルを作って伝えるしかないという考えに行き着きました。マニュアルを書き貯めていずれ本にしようと。そういった背景があった中、アメリカの支社に出向して日本を離れる機会がありました。せっかく新しい環境にきたので、その国ではどんなゲーム作りが成されて、皆がどんなふうに学んでいるのかと思い、書籍を買ったり同僚に聞いてまわったりしました。

その活動を通じて実感したのが、英語圏では学校も書籍も人の話も含めて業界知識の共有財産化がかなり進んでいたことです。共有された知識を身につけた延長線上がゲームクリエイターと言える存在だったのです。土台が圧倒的に違っていました。日本は職人技というか、皆が一からバラバラに作っているのに対して、海外では一定のレベルまでは文法が確立されていて、そこから独自性が創られている。

「このままだと日本のゲーム業界はマズイな」と実感して、まずは海外で学んだ内容を日本に届けようと思いました。自分の本を出すよりもすでに体系立てられたものを届けようと、スイッチが入った瞬間でしたね。『「レベルアップ」のゲームデザイン』という本を翻訳して日本のゲーム業界に届けようと思ったのはそういった経緯になります。
 

馬場:英語圏ではゲーム作りの共通言語化がすごく整っていますよね。自分も2008年のGDCに行った際に、色んな書籍や講演があって打ちのめされた記憶があります。私は英語が不得意だから、自分で本を書いてしまえと思い「ゲームの教科書」を出しましたが(笑)。
 
 

■限られた期間の中でいかに体系化できるか

 
馬場:そうなると、学生の時からきちんと体系立てられた教育がないのが日本ゲーム業界の実状。今は、東京工芸大学で教えておられる遠藤雅伸先生たちが道を作ってくれていますけど、それ以外にも飛躍できる手段がないかなと思います。
 
一つの手段に書籍はあります。ただ、今出ている書籍は値段も高くて量も多い。学生には中々読まれないのが現実ですね。100ページ程度のものが限界なのかなと思います。なので、その規模の書籍シリーズを体系立てて作って、一年間はその書籍はこなしていくカリキュラムっていうのはどう?一緒に作りませんか(笑)?
 
塩川:面白そうですね(笑)。共通化はしないといけないと思います。ただ、共通化できない事もどうしてもあって、共通化した時にはもう廃れている事が多いですね。その中でも、変わらずに在るものを抽出して教えられるかどうか。今、私が講演でも話している「考える力」というがその一つですかね。あとは、体系立てられた資格とかがあればいいですよね。
 

馬場:資格やライセンスを作るという発想はすごく大事だと思います。スポーツ選手や士業みたいに機能するはずなんですよ。ただ、技術に特化した分野は時勢の影響も大きいから難しいですよね。
 
塩川:そうなると、やはり「考える力」になりますよね。他には社会人としての基礎的な素養となる書類作成やコミュニケーションスキルも大事なので、集団作業を行って養うとかでしょうか。社会人になると、集団作業は間違いなく行うことでもありますし、何年経っても陳腐化しないものもあるはずですから。
 
馬場:集団作業というと、ゲーム会社だと理不尽なことはやっぱりあるじゃないですか。先輩やビジネスパートナーに無茶言われるとか。ただ、学生で集団作業を行うとそれが起きづらい。理由は同じ学年で取り組むケースが多いからだけど、東京工科大学の三上先生はうまく考えていましたね。3年生からは色んな年代を混ぜて実施しているそうです。ただこれは4年という期間があるからできるのであって、2年のカリキュラムしかない専門学校は難しいですよね。
 
塩川:他のカリキュラムや就活を考えると、実質1年分ぐらいしかないですからね。
 
馬場:2年しかない場合、相当努力しないといけない。かといって、いきなり集団作業はできないだろうし、急ごしらえでは良い経験にもならない。チーム制作の良いところは自身一人でやった経験があってこそ活きるので。
 
塩川:私の講義ではチーム演習を加えます。3~4人で組ませる形式です。その講義の感想でよく聞くのが「こんなに人の意見が違うとは思いもしませんでした」という声ですが、プロになるとそういった出来事は度々起きますからね(笑)。頻繁に起きるケースを特別な演習でしか学べないのは残念です。
 
馬場:また別の問題で、昨今のワークショップというチーム作業はハッカソンバブルと言えるような乱発の傾向があって、表面的な体験になっているんですよね。ゲームをある程度の形にするだけでも成果ですけど、ゲームを作り切ることも大事で。1日で集団行動を経験するのはまず無理だと思います。
 

塩川:そうですね。回数を重ねないと、効果は薄いと思います。チームの一人が休んだ時とか、1日の調子やモチベーションのブレも制作の場にはあって、その状況下でも制作するという経験も大事だと思います。集中力が保てるかの問題もあるので、まずは3ヶ月くらいであれば、一連の紆余曲折も経験できると思います。
 
馬場:実際だと、喧嘩したり、体調を崩す時もありますからね。それも含めた集団生活ですから、私も3ヶ月くらいだと思います。人数によっても変わってきますからね。学校によっては15人以上で作業させることもあるそうですが、それってプロでも難しいですからね。
 
そう考えると、まずは自己責任で物を考える癖をつけるべきだから、1ヶ月のワークを通じて個人で何か作り上げる。その後に3人くらいで1〜3ヶ月の作業を何回か繰り返す。2年間しかない状況だったら、7,8回は制作ができるかと思いますけど、ただこのステップをこなせばいいのかと言われると、これとは別に一定のクオリティ基準も必要にはなりますよね。
 
塩川:2年間の場合、選択の問題もあって、その作業を遂行するにはいかに余計な授業を削るかという点も出てきますよね。企画職の場合は、ツール系の授業はゴッソリ省いて良いと思いますし、マーケティングデータを読み解くといった授業も後からで良いので不要だと感じますね。そうするとモノ作りにフォーカスはできると思います。その上で、馬場さんの言うクオリティをいかに高められるかという事を考えないといけないですね。
 
 

■その企画書には「華がある」のか

 
馬場:企画書のクオリティでいうと、色んな学校をまわっている中で企画書の見る機会が多いのですが、企画書としての体裁は整っているものの、書いてある内容を実装した時のイメージがしっかりできていない印象があります。
 
企画やコンセプトはわかったけど、このゲームの一番かっこいいシーンや楽しいシーンを教えて、と聞くと皆「うーん」と言葉に詰まるんですよね。「そこが無かったらなんでこのゲーム作ろうと思ったの?」ってなるんだけど。実装システムのイメージも弱ければ、どう動くのがあるべき姿かをイメージしきれていない学生が多いですね。「これは『メタルギアソリッド』のナントカみたいなものですよ」とか言われても「それでどうカッコイイと思ってるの?」ってなってしまうんですよね。
 
塩川:おそらく学校から教わった色んな項目を埋めようという気持ちが先行していて、「それ、実際に自分が遊びたいと思う?」と聞きたくなる時がありますね。これはゲーム会社でもあることなので、私は常に「華があるか」という話はしますね。例え理屈のうえですごく面白くても、華がないとお客様に振り向いてもらって、手にとって遊んでもらうことはできない。こういった考え方は中々教わる機会も少ないのかもしれないですね。
 
馬場:カリキュラムとしての時間が限られているから、どうしても機能とかに教えることが寄ってしまうのでしょうね。またそこに対する教科書があまりないから、教育現場の人は大変だと思います。ただその状況だと、ゲーム作りで一番大事なことが抜けてしまう恐れがあります。「感情を動かす」という部分ですね。
 

ゲームって、触った人の何かしらの感情を動かして、その感情を面白いと感じるまで昇華させて、そして繰り返し遊びたいと思ってもらうことですよね。感情が動いてもらう為にはどんな仕組みが必要なのか、そしてどういった感情を持ってもらうか。その融合がゲームだと思いますけど、案外この「感情」というものがゲーム制作教育では抜け落ちているのかなと思います。難しいですけどね。
 
塩川:また感情って抽象的なものじゃないですか。そして、常に同じものでもないので、課題となっている一因だと私は思いますね。当時勤めていた会社であるタイトルを作っていた時に、それをどう伝えれば良いかを常に考えていまして、様々な工夫をしていました。例えば自分が作っているゲームが映ったモニターの隣に、もう一台モニターがあったと想像して、そこにブラジルのサンバが流れているとします。並べてみたとき、自分が今作っているものは、サンバの華やかさよりも華がありますかと問いかけるのです。ぱっと見でサンバの華やかさに勝てるほどの、感情をゆり動かすなにかがそこにあるのか。「華やか」がさしてないようなものは、作っても意味がないんですよね。
 
馬場:それは珍しいですね!また難しそうです!某タイトルをサンバで見比べるにはかなりベクトルが違う印象ですけどね(笑)。まあそれくらい熱中できるものかどうかということですからね。
 
塩川:確かに、表現のベクトルは違うと思いますね(笑)。要は、具体化しないと考えることができないじゃないですか。感情は可視化できないから、何かと比べるしかない。それがその時はサンバで、『サンバシステム』と呼んでました(笑)。そういったテストキットのようなものが他にもあれば、どのパターンでも試せて、質を上げられるのにと思いますね。
 
馬場:感情って、どのレベルなのかは伝えることができませんからね。なので、まずはどういう感情表現なのかは言語化しようとは言っていますね。「怖い」くらいでいい。例えば、『バイオハザード』で窓が割れる箇所で「怖い」、というぐらいでも。その「怖い」の量を伝えるのは難しいから、まずは感情の根幹を掴んで欲しいですね。「このゲームは、◯◯を××するゲームです」だけだとコンセプトとは言えない。それはゲーム概要であって、感情の発生がないとコンセプトの形成はできないと思います。何かしら感情に紐づくワードがないといけない。
 
塩川:私もどのプロジェクトをやる時も、各資料に1ワードを入れてますね。「このゲームは〇〇だ」と。『FGO』でももちろんあります。それを社内外の関係者全員に伝えています。『FGO』を一言で言うと、コレです、と言えるようなもの。やはりそれがないと、作る側も途中で分からなくなってしまいます。途中で迷った時に帰られるワードがないといけない。しかもそれは一つでないといけない。それは作品を作る上でもチームを牽引していく上でも大事です。
 


馬場:各学校での講義やワークショップで企画書を書いてもらう時にもキーワードには感情を入れるようにと言っています。それは形容詞で良いと。「美しい」でも「怖い」でも良い。逆に「達成感」「爽快感」などの「〜感」は要らないと言っています。達成感がないゲームなんて存在しないから。これを言うと、みんな戸惑いますけどね(笑)。タイトル名もなるべく感情が湧くシンプルなものでと言っています。あとはその感情が湧くにはどういった仕組みで動かすかを書いてもらえれば良いと。それでも、ほとんどの人が感情を書かない。みんなゲーム概要だけになってしまう。「どうすれば分からない」とみんな答えるので、教えないといけないんですが。
 
塩川:まさに同じ現象はみますね。恐らく、企画書の書き方を間違って教わっているのかなと思います。ページは十数ページ必要で、ゲーム画面は必ず入れるとか、コントローラの説明やマーケティングデータも入れるとかを教わっていて、そこに意識が向かっているのですね。まずは面白いかどうか、どう思ってもらうかが大事なのですが。
 
あとみなさんの企画書は綺麗ですね。フォントも何種類も使って工夫されていて。労力の割き方が少しずれていると思います。ただ、そのほうが「企画書ができた」という達成感があるのでしょうね。私は資料をできる限りシンプルにしています。それで伝わらなければ、何かに負けているのだと考えますね。
 
馬場:私はめっちゃアニメーション使いますけどね(笑)。ただそれは、伝えるべき情報はしっかり考えた上で、飽きさせずにどう引き込むかの話なので、まずはシンプルであることは間違いないですね。
 
塩川:飽きさせないギミックは必要ですが、まずは伝えるべき内容の純度を上げるべきですよね。優先順位がずれている企画書が多いと思います。


<後編はこちら>

 


■著者 : 馬場保仁
株式会社ファリアー 代表取締役社長。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。その後DeNAにてスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任。現在は、ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。
 



■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー

第三十回「指導者に問われるもの」

第二十九回「そもそも、企画の仕事って…」

第二十八回「転職〜中級編・自分の価値を知る〜」

第二十七回「転職〜入門編〜」

第二十六回「リーダーシップとは」

第二十五回「思考のスタミナ」

第二十四回「出て行く勇気」

第二十三回「個人でつくる・集団でつくる」

第二十二回「指摘される勇気、指摘する気遣い」

第二十一回「どこを見るか? どう採るか?」

第二十回「100%の力を発揮するために……」

第十九回「まずは、”伝える”ことから始めよう!」

第十八回「カード少なく勝負に挑まない」

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【後編】(第十七回)

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【前編】(第十七回)

第十六回「新人事始」

第十五回「就職活動にみられる地方格差」

第十四回「【思いやり】の向こう側

第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜

第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」

第十一回「ハッカソンの功罪」

第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【前編】(第八回)

第七回「学生さんにやっていただきたいこと~後編~」

第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)

第三回「若手のチャンスとキャリアパス」

第二回「企業×学校×学生」

第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」
ディライトワークス株式会社
https://delightworks.co.jp/

会社情報

会社名
ディライトワークス株式会社
設立
2014年1月
代表者
代表取締役 庄司 顕仁
企業データを見る