
AI活用が広がるなかで、アニメ業界においても著作権や学習データを巡る議論は避けて通れないテーマになっている。ディー・エル・イー(DLE)<3686>代表取締役社長CEO・CCOの小野亮氏は「AIの著作権はグレーゾーンだ」という認識そのものに疑問を呈する。「グレーゾーンなんて存在しない」と断言し、日本ではすでに文化庁と経済産業省が一定の整理を行っているとの認識を示した。
■「無断学習」と「生成物」は別問題
小野氏によれば、現在議論の焦点となっているのは、著作権者の許諾なく学習を行うことの是非だ。日本では現行法上、学習行為そのものは認められている。
仮に『秘密結社 鷹の爪』を学習させてモデルを構築したとしても、それ自体は問題にならない。しかし、そのモデルを用いて『鷹の爪』そっくりの作品を制作し公開すれば、それは著作権侵害となる。問題となるのは「何を学習したか」ではなく、「何を出力したのか」という点だという。
一方で、海外では状況が異なる。欧米では依然として学習データを巡る訴訟が続いており、AI企業とクリエイター側との対立は続いている。特に欧州では反AI運動の勢いが強く、一部ツールに対しては明確な拒否反応も見られるという。
■DLE独自のAIガイドライン
こうした状況を受け、DLEでは独自のAI利用ガイドラインを策定しており、世界的に問題視されているツールについては利用を控える方針を採っている。具体的には、Stable DiffusionやMidjourneyなど、学習元が不透明で責任主体が曖昧なサービスについては慎重な姿勢を取っているという。
「何を学習しているのかわからないモデルは使わない」
これは単なる倫理観の問題ではなく、クライアントワークにおけるリスク管理でもある。
DLEでは画像生成時に利用できるサービスを社内ルールとして明示し、完成物についてもリーガルチェックを実施。既存キャラクターとの類似性や権利侵害の可能性を検証している。
また、キャラクターデザインについても、まず人間のアニメーターが原案を作成し、その後AIを活用してブラッシュアップする工程を採用している。
生成AIはあくまで補助的なツールであり、創造性の起点は人間が担うという考え方だ。
■実在人物をAI化するという発想
DLEでは現在、実在人物をデータ化し、その人物をAIで活用する取り組みも進めているそうだ。背景にあるのは、「この人物は実在しないことを証明できるか」という広告業界特有の課題だ。
生成AIによって生み出された人物について、企業側から「世界中に同じ顔の人間が存在しないことを証明できるか」と求められるケースもあるという。
しかし、それは事実上不可能な要求だ。
そこで発想を転換し、実在人物をAIモデル化し、その人物を活用する方向へ舵を切っている。そうすることで、「誰なのか」が明確になり、肖像権や権利関係も整理しやすくなる。
この考え方は芸能界や声優業界にも波及する可能性がある。実際、声優業界では音声AIの活用が進みつつあり、自らの声をAI化し、利用料に応じてロイヤリティを受け取る仕組みも模索されている。
小野氏は、「勝手に使われるより、自分でコントロールしたほうが良い」という考え方が今後広がっていくのではないかと見る。
■「AIだから安い」は危険
小野氏が最も強い危機感を示したのは、AIをコスト削減手段としてのみ捉える風潮だ。クライアント企業からは、「AIなら安く作れるのではないか」という相談を受けることが少なくないという。
しかし実際には、AI活用によって新たなリスクも生まれている。近年では副業クリエイターや個人制作者が、「AI動画制作 3万円」「生成映像 5万円」といったサービスを提供するケースが増えている。
問題は、トラブルが起きた際の責任所在だ。
もし著作権侵害や情報漏えいが発生した場合、制作を請け負った個人に責任を負わせることは現実的ではない。最終的には発注企業側がリスクを背負うことになる。
さらに、小野氏は「野良クリエイター」という表現を用いながら、安価な案件受注の危険性にも言及する。守秘義務契約(NDA)への理解不足や、SNSへの不用意な情報発信など、制作物そのもの以外の部分で事故が起こる可能性も高いという。
実際にDLEでも、過去にコラボ案件の情報がSNSで漏洩した経験があったという。「AIだから安い」という考え方は、本来必要な管理コストを見落としている。
むしろ、
・権利処理
・リーガルチェック
・NDA管理
・情報セキュリティ
・納品保証
まで含めて考えれば、プロフェッショナルな制作会社が担う役割は今後も変わらないというのが小野氏の見方だ。
小野氏は最後に「AIだから安い、AIだから仕方ない、ではなく、ちゃんと作ることが重要だ」と語る。AI時代に問われるのはツールの有無ではなく、そのツールを誰が使い、どのような責任体制のもとで提供するのか。
DLEはAIを単なる効率化手段ではなく、「安心して使える仕組み」として社会実装していくことを目指している。
■バックナンバー
【特集】「AIアニメだから安い」は危険――著作権とガイドライン、AIリスク管理 DLE小野亮CEOに聞く(本記事)
https://gamebiz.jp/news/430159
【特集】AIアニメは制作費を変えるのか――中国AI、日本アニメの価値、そしてブランド戦略 DLE小野亮CEOインタビュー
https://gamebiz.jp/news/429897
【特集】AIはアニメ制作をどう変えるのか――DLE小野亮CEOが描く「次世代映像制作」の現在地
https://gamebiz.jp/news/429086
【特集】生成AIは日本のアニメ業界をどう変えるのか DLE小野亮CEOが語る“本当の課題"
https://gamebiz.jp/news/428659
【PR】「エンターエンタ」エンタメ業界特化の転職支援サービス
「エンターエンタ」はアニメ業界を含むエンタメに特化した転職支援サービスです。「gamebiz」ならではの強みを活かし、アニメーター(原画・作画)、制作進行(制作ディレクター含む)、背景美術、プロデューサーなど有名アニメ企業の注目求人を掲載しています。
会社情報
- 会社名
- 株式会社ディー・エル・イー(DLE)
- 設立
- 2001年12月
- 代表者
- 代表取締役社長CEO・CCO 小野 亮
- 決算期
- 3月
- 上場区分
- 東証スタンダード
- 証券コード
- 3686
