【連載】安藤・岩野の「これからこうなる!」 - 第46回「二次元の可能性」


【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、数々のスマホゲームアプリをヒットさせた、ゲームプロデューサーの安藤武博氏と岩野弘明氏。そんなふたりが毎週交互に執筆を務める「安藤・岩野の“これからこうなる!”」では、スマホゲーム業界の行く末を読み解く、言わば未来を予言(予想)する連載記事を展開していく。

メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。


今回の担当:岩野弘明氏

 

■第46回「二次元の可能性」

 
この連載ももうすぐ1年。実は目標として1年連載してみようという話は連載開始当初からあったので、いったんの区切りとなります。というわけで、本連載の私の回としては今回で最終回です。そこで今日はスマホ市場のここ一年を振り返っての総括と今後の展望について書きたいと思います。
 


 

■ここ一年で印象的だったこと


キーワードは、「IP」「キャラの魅力の最大化」というところかと思います。

ここ一年のヒットタイトルとしては、とにかくIPものが目立った印象です。『Fate/Grand Order』、『アイドルマスターシンデレラガールズスターライトステージ』(『デレステ』)、『ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス』、『妖怪ウォッチぷにぷに』、そして先日リリースされた『デジモンリンクス』など。タイトル数が多いだけでなくなんか見たことある、なんかやったことあるといったゲームが溢れている中、IPものは既にファンを抱えていますし、その結果目立つことができる。

これは日本のスマホ市場だけでなく、成熟した市場であれば同じ状況になります。先日中国現地の開発会社のスタッフの方に話を聞いた限りだと、中国でも既にIPものじゃないと厳しくなってきているとのこと。

こんな状況の中、新規のゲームをヒットさせるにはどういったアプローチが必要かというと、キャラの魅力をいかに最大化させられるか、という事かと思います。特に日本においてはここがポイントだと思います。なぜキャラなのかは以前の記事でも触れてたりしますし長くなるので省略しますが、ざっくり言うと絵的なインパクトがもっとも大きな要素だからです。「かわいい!」「かっこいい!」って思うもの、欲しくなりますよね。キャラは、多くの人が武器より建物より動物より、他の何よりも「かわいい!」「かっこいい!」と思えるものだと思います。

このキャラに対する「かわいい!」「かっこいい!」がお客様の期待するもの、あるいは期待以上のものに見せられるか、というのが最重要だと考えます。

そういう意味で『セブンナイツ』はひとりひとりのキャラがよく動き、カメラ演出で必殺技をかっこよく見せていてキャラの魅力をすごく感じられる作品だと思います。もちろん配信開始時に様々な遊びがパッケージングされているなど、見た目だけではないのですが、日本で配信するずっと前からこのクオリティを韓国で配信してたんだからすごいですよね。
 

▲『セブンナイツ』

『あんさんぶるスターズ!』もまた、それまでがっつり女性向けのアイドルものがなかったところにうって出たというところもよかったですし、ターゲットに適した操作感やキャラの見せ方が秀逸だったと思います。また、IPものの『Fate』や『デレステ』もそれまでのゲームになかったようなケレン味あふれるゲーム画面を打ち出して、そこで動くキャラに対して最大限の魅力を表現しています。

私がプロデュースした『乖離性ミリオンアーサー』も一部のキャラクターを等身の高い3Dモデルにしたことで今までのスマホゲーにない画づらになり好評でした。一方、同時期に開発していた『アリスオーダー』は、ゲーム性や操作感を重視して2等身の3Dモデルにして『乖離性』とは見た目に異なるアプローチをしてみたのですが、イラストの印象とのギャップが激しく不評の声もありました。
 

▲『アリスオーダー』

ここ最近の他ゲームの画づらのクオリティが格段に上がっていることもあり、イラストと3Dモデル(あるいは戦闘などで動かす用の2Dキャラ)のイメージのギャップがありすぎるとテンションというか、やる気のそがれ具合が以前よりも激しくなったように思います。

どのシチュエーションでもカードイラストを使っていた時代から、イラストのキャラを戦闘シーンなどで動かすように調整されるようになり、今ではイラストのイメージほぼそのままの姿で動く時代になってきたわけですが、この流れに乗り遅れると開発中は通用していたかもしれない方法も、配信時では通用しないということが起こります。

ゲームを作るのにかかるコストや期間が大きくなる一方で、時代の波に取り残されないように一歩先のアプローチで挑むことや、それに合わせたスケジュールを守るということを今まで以上に意識したいところです。

 

■「二次元」というジャンルの可能性


ここからは私の持論です。私がよく作る「二次元」といわれるジャンルは、日本のスマホゲーム市場の中でも一定の割合を占めるジャンルになっているのですが、そのジャンルを作る上で最も意識することは「いかにして魅力的なキャラを生み出し、それをいかにしてさらに魅力的に見せられるか」ということ事だと考えています。

もちろん、ゲーム性に振り切ったジャンルについてはそんなことはなく、さわり心地や何度でも挑みたくなる没入感みたいなものが重視されるべきだと思いますが、二次元ジャンルについては見た目のインパクトやキャラへの愛着をいかに感じられるものになっているかの方が重要で、それを阻害するあらゆるものは優先度を落とすべきです。

極端な話をすると、かわいい、かっこいいキャラを手に入れて、育てて、デッキにいれて、その動きを見てニマニマできればそれが最高。その上で自分の育てたキャラを他の人に見せれたり、そのキャラで助けたりできるとさらに良い。そこがおもしろポイント。

このジャンルでヒットを目指すには、そういったおもしろポイントをどう新しく感じられるかが重要で、ゲーム性も含めてすべては演出のひとつと考えた方がいい。もちろん大元であるテーマありきですが、テーマをゲームに落とし込む際に、キャラがどう動くとかわいくかっこよく感じるのかという視点で考えたい。

ここ1、2年で東アジアの会社と話をする機会が増えましたが、中国や韓国、台湾といった国々でも二次元ジャンルは一定の需要があるものの、それを自前で作るのはすごく難しいという話を聞きます。

先日中国の運営会社のスタッフの方が言っていたのですが「二次元の共通言語は日本語で、二次元の中心は日本」という言葉が印象的でした。例えば我々が欧米が得意とするFPSや中韓が得意とするMMOを作ろうとしても難しいように、日本以外の国が二次元ゲームをつくるのはとても難しい。二次元ファンは日本産の二次元コンテンツのテイストを好みますが、それは日本人の感覚で作られるもので、海外の方はその感覚を持ち合わせていません。

だからいかに特定のジャンルや技術そのもので後れを取っているとしても、その感覚に関して言えば日本が持つアドバンテージです。今後国内市場が伸び悩む中、海外に目を向ける必要が益々高まりますが、その際にどういったゲームを作るべきなのか、どういった強みを磨いていくべきなのかということの一つの道が二次元というジャンルなのではないかと考えます。

VRやAR、e-sportsなど、今後のゲーム市場を賑わすような新しい可能性も当然考慮に入れるべきではありますが、これらは当たるかどうかやってみないとわかりません。だからいち早くやってみて第一人者になるというのも手ですが、何しろリスクが高いのでそれができる会社や人は限られます。

自分の強みを正しく認識し、その練度を上げ生かせる道を模索するというのもまたヒットの可能性を上げる方法の一つだと思います。というか一番確度の高い方法なのではないでしょうか。私の場合はそれが二次元ジャンルになりますが、もしそういったものを見いだせていないという方は、自分の強みやあるいは興味といったところから見つめなおしていくとよいのではないでしょうか。

さて、以上のような感じで本連載における私の記事はこれで最後となりますが、もしかしたらまた別のテーマで記事のようなものを書かせていただくこともあるかもしれませんので、その際は時間がありましたらご一読いただけますと幸いです。というわけでまた皆様にお目に書かれることを楽しみにしつつ結びとしたいと思います。 ではでは今日はこの辺で!

P.S.
先日webアニメ「弱酸性ミリオンアーサー」の第1話がニコニコ動画で100万再生を突破しまして、晴れて真の“ミリオン”アーサーになれました。ご視聴、ありがとうございます!
 

 
■著者 : 岩野弘明
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部) プロデューサー。『乖離性ミリオンアーサー』を筆頭に、同シリーズ全体のプロデュースを担う。新作は超能力×ミリタリーRPG『ALICE ORDER /アリスオーダー』。

岩野氏のツイッター:https://twitter.com/Iwano_Hiroaki

 
■安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー

第45回「e-Sports元年にはまだ遠かったので、どうすればいいのか考えてみた」 (安藤)

第44回「ガチャがなくなった場合のことを予想してみる」 (岩野)

第43回「ゲームプロデューサーが本気で「実況生主」になってみたらどうだったか?を書いてみる」 (安藤)

第42回「『アリスオーダー』リリースしてどうだった?」 (岩野)

第41回「あなたのゲームがTOP3に定着しないのは「これ」のせいかも」 (安藤)

第40回「VRのゲーム分野における可能性」 (岩野)

『FFBE』キーマン達の座談会…ゲームアプリ市場の功罪とは (安藤)

第39回「”犯人はヤス”理論」であなたのゲームはグッと目立つ (安藤)

第38回「プロモーションの拡散力を高める秘訣」 (岩野)

第37回「ヒット作に必ず入ってくる“三つの条件”」 (安藤)

第36回「WEBアニメ「弱酸性ミリオンアーサー」を作ってみた結果」 (岩野)

第35回「起業してわかった、おいしいサラリーマンの仕事の仕方」 (安藤)

第34回「「物語シリーズ」に見る魅力的なキャラの作り方」 (岩野)

第33回「ヒットしたければ半径10メートルから飛び出せ!」 (安藤)

第32回「上司と真逆のプロデューサー論」 (岩野)

第31回「プロデューサーとディレクターの違いについて良く聞かれるので明快に答えてみた」 (安藤)

第30回「新規アイドルゲームに未来はあるのか?」 (岩野)

第29回「続・エニックス創業者福嶋康博さんが教えてくれたエンタメの真髄」 (安藤)

第28回「恋活アプリ体験談」 (岩野)

第27回「エニックス創業者の福嶋康博さんが教えてくれたエンタメの神髄」 (安藤)

DeNA執行役員・渡部氏による対談企画…後編「DeNAが目指す次のステップ」 (岩野)

第26回「スクエニで最もプレゼンがうまいと言われたおれが極意を教えよう」 (安藤)

DeNA執行役員・渡部氏による対談企画…前編『ミリオンアーサー』の誕生秘話とは (岩野)

第25回「インディーズを軽視するものは敗れ去る」 (安藤)

第24回「サバゲー人気の謎に迫る」 (岩野)

第23回「心が折れそうなときに読む話」 (安藤)

第22回「「がっこうぐらし」のニコ動再生数が異常な件について」 (岩野)

第21回「打ち合わせや会議が増えたときに読む話」 (安藤)

第20回「「ラブライブ!」の魅力ってなんだと思う?」 (岩野)

第19回「良い作品をつくるために必要な三つのこと」 (安藤)

第18回「スマホゲームにおけるプロデューサーの重要性」 (岩野)

第17回「私はなぜスクエニの部長をやめたのか?」 (安藤)

第16回「日本のスマホゲーム業界が危うい」 (岩野)

第15回「サラリーマンクリエイターの働き方はすでに限界を迎えている」 (安藤)

第14回「ゲームを売る上で一番大事な人」 (岩野)

第13回「市場のピンチを知らせるクリエイターからのSOS」 (安藤)

第12回「F2Pゲームにおける最強の商品とは?」 (岩野)

第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)

第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)

第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)

第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)

第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)

第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)

第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)

第4回「IPを育てよう」 (岩野)

第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)

第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)

第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)