【連載】ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- 第三十六回「自分だけの面白いから脱却」


 
株式会社ファリアー 代表取締役 社長の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。同氏は、セガで家庭用ゲームの開発を、DeNAではスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任していた。ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に注力していく。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。 
 
 

■第三十六回「自分だけの面白いから脱却」




 
3月1日を過ぎ、今年も就職活動戦線が始まりました!
去年の夏のサマーインターンから動き出していた学生さんたちは、早々に選考が進んでいることでしょう。そして、それら動きのはやい友人を横目でみて、焦りがでてきている学生さんたちもいることでしょう。大丈夫です!いま、気づいてうごきだすことができれば、決して遅いことはありません。去年の夏から動いていた学生さんが、速い、だけなので。ここから、全力疾走すれば、決して遅れはとらないですし、まだまだいくらでも内定とれますので!
 
一番まずいのは、焦るだけで行動しない人です。
まずい、と思うならば解決する方法は1つしかありません。それは、動くことです。「動く」もいろいろあると思いますが、
 
①情報収集すること
②自身の準備をすること
③エントリーすること
④選考を進めること

など
 
です。①だけで止まっていては、動いているうちにはいりません。
②をして③までいかないと動き出した、とはいえないでしょう。履歴書を書いたり、志望動機を考えて、まとめたり、作品や研究のポートフォリオを整理して作成したりと、企業にアピールしないといけないことは、山ほどあります。志望動機1つでも、論理的に、構造的に考えて、まとめて、話をしようとおもうと、決して簡単なことではありませんからね。
 
そして、一番大事なのが、慣れることです。
やはり、これだけ情報を入手できる時代、また、大人とも早くから接することができる時代になっても、まだまだ、多くの学生さんは(特に地方の学生さんは)企業の方と、大人と面と向かって接して話をすることに慣れていません。

それどころか、東京という街や、そこに出るまでの移動や、着慣れないスーツや、企業の建物の雰囲気にのまれてしまうことも多くあることでしょう。それを解消していくためにも、
 
・企業の説明会(HEATのような)
・企業の勉強会(座・芸夢や駿馬のような)
など
 
に積極的に参加して、まずは、企業の方に接する、企業の建物に入ることに慣れるところからはじめてはいかがでしょうか? 選考になって初めて企業の門をくぐるのではなく、その前の段階、リスクがない段階で何度も、何か所も出入りしていけば、おのずと慣れて来ると思います。
 
慣れる = 本来の力を発揮できる状態にある
 
ということです。慣れて、なめてほしいわけではありません(笑)。
また、これは、学生さんだけでなく、学校(特に専門学校)の先生方にお願いしたいことです。これから、子供は減っていきます。これまでのややバブルな状態=卒業をそれほど気にしなくても入学者が減らなかった時代は、終わりを告げると思います。学校の存在意義、価値を明確にアピールしていかないと、子供が減る=選ばれるようでないとじり貧になっていく、という時代に突入したと思います。
 
「学生に言っても、行動しない」
 
という嘆きがあることは理解しますし、先生方はたいてい多忙なのも事実です。ですが、首根っこつかんででも、上述したような「慣れるための訓練」の場を提供して、強引にでもいかせないと、結局、成果につながらないことになります
 
「言って行動しないなら、やらせて理解させる」
 
くらいになる必要があるということです。もちろん、学生の自主性は大切です。企業はそもそも自身で考え、行動できる学生を欲しています。が、指導することで、目覚める学生がたくさんいることも、また事実です。

わたしも、多くの学生さんと接してきてますが、ほんの些細なきっかけや言葉を与えるだけで、大きく成長、変化する学生はたくさんいました。ああ、もうあと少しだけ早く出会っていれば…という学生さんもたくさん見てきました。ふだん、もっとも近くで接しておられる先生方からの言葉と、わたしのような外部からの人間の言葉、両方をしっかり耳にいれさせて、行動にまで、つなげたらな、と思います
 
さて、そんな中、今回のテーマである、自分だけが思う面白さから脱却する必要があるという話をしたいと思います。これは、結構深いテーマで、大きく分けて2つのことがあります。
 
①自身が学校で努力を継続して、学校の中では評価されている
②考えてはいて、形にしたことないが、アイデアはたくさんある
 
みたいな感じで、①は、これまでもモノをつくってきた経験を持つ人。②は、いろいろ頭で考えてはいるものの、構造化、設計すらしたことはなく、なんとなく、アイデアのさらにメタな状態でとまっているけど、自身を「アイデアマン」とか「やればできる」と思っている人を指します。
 
まず、②の人(笑)。
この人は、なんでもいいので、1つ形にしてみる必要があります。理由は明確で、
 
・形になっていないものでは、他者に伝えることができない
・形にしていない以上、企業に提出して選考にのることができない
・形にしていないので、そもそも、先生も指導するのが難しい
 
というところがあります。人間、頭の中で考えているだけでは、実はたいして「まとまった」状態になっていないことが多いです。それは、考えながら、勝手に細部を脳が補完して考えてしまっているからです。そして、たちの悪いことに、それで「わかった」と思い込んでいるからです。わたしが考えるに、
 
Step1: イメージする(頭の中で思うだけ)
Step2: 書き出す(手を動かす、可視化する)
Step3: 自身で見て、再検討し、修正し練りこむ
Step4: はじめて他者に見てもらえるレベルになる
Step5: 他者評価を受ける(褒められる、だめだしされる)
Step6: 振り返り、更に練りこむ

 
というステップを踏まないとなかなか、他人も自分も満足できるものはできあがりません。
特にこのStep2の書き出して、可視化することをしないと、人間なかなか、構造的にものごとをとらえることができません(相当な訓練を要す)
 
でも、このStepを踏まない人、たいていの人はStep1までは、やっているので、そこで「俺は、わたしはできる」と思い込むか、その先をやるのが億劫、もしくは怖くてできない人でしょう。考えているだけの状態ですと、さもたくさんのことを考えているように思いがちですが、書き出してみると案外、「あれ?たったこんだけ!?」と思うこともあります。それは、可視化していく段階でかぶっているものや、無駄なものを自然と省きながら書き出すことくらいは、人間するからです。
 
ただ、書き出して、可視化すると更に無駄は省かれ、類似のものも省かれ、どんどん数は減ります。もっと考え抜かないといけないことに気づかされますし、「無駄」や「類似」などをまとめることで自身の考えていることの像が見えてきます。

やはり、面接になった際に、緊張していることもあり、頭が真っ白になることもあると思います。その時に自分を救ってくれるのは、やはり自分しかいません

つまり、こういった「整理する」「まとめる」「構造化する」ことを自身で、考えて、ひねり出すことで、いざ!という時にも、ひねり出すことができるようになるからです。
 
まずは、書き出そう!
 
これを合言葉に、先生方も、学生さんに指導していただけると、効果が出るのではないでしょうか?
 
次に①のひと。これまでも、積極的につくってきた、考えてきた、そういう人は各学校には、何パーセントかずつはいます。先生方も、この子たちの就職はそれほど心配していないと、説明を受けることが多いです。ですが、なぜか半年後にその学校さんを再訪すると、「馬場さん、このA君、なんとかならないですか?彼くらいの実力だと、どこかの企業さんにはひかかるとおもうのですが…いまだ…」と相談されてしまうことがあります。
その子は、がんばってないわけじゃないですそして、その学校では、できる方の部類に入る子です。
なのに、なぜか、夏を過ぎてもどこも就職決まっていない、ということが、ままあるのです。
 
自信もありました。最初の1,2社受けて、落ちるまでは…だって、この学校では、わたしは、「できる方の学生」なんだから…という自負もあったからだと思います。ですが、
 
学校ではできる部類でも、企業の求める像からすると、まだまだ足りていなかった…
 
ということが一番悲惨でありつつ、よくあることです。
では、なぜ学生さんたちは、自身の実力を、推し量れないのでしょう?1つは、先生たちが気を使って、もちあげてしまわれることにもあるかもしれません。

そりゃ、自分のクラスから、できる子が出てきて、大手パブリッシャーさんに入社なんぞしてくれた日には、いろんな意味でハッピーでしょうから。で、あるがゆえに、まだまだ精神的に不安定で未熟な学生のモチベーションを喚起して、いろいろやらせていくためには、よりそう必要がある、と考える方がいるからです。気持ちはわかります。でも、真に寄り添うならば、やはり、ゲーム企業の求める現実を突きつけてあげた方がいいと思います。

学校に入ってきたときは、きみは、これくらいだった…それは今は努力しているから、ここまできた、と。でも、企業が求めるレベルはこのあたりまでこないと、そう簡単ではないということを身をもって理解させないといけません
 

はたして、きみはどのレベルにいるのだろう?
 

この図から見ても2つのラインを突破して成長をしないと、企業がほしい!と思うような人材にはなれない、つまりはスタートラインにたつことができない、と思っていただけるとわかりやすいのではないでしょうか?これまで活人研でもいってきましたが、他者の評価をうけるためにも、アマチュアのうちは、参加できるコンテストにはできるだけ積極的に参加した方がいいと思います。

同じレギュレーションの中で、競い作り上げることで、自身の実力を把握することもできますし、更に成長のために、振り返り、NextActionをおこすことができるでしょうから。
 
上記の図だけで見ると、たいへん長い道のりのように思うかもしれませんが、今の時代、大学や専門学校の学生になる前から、聞いて、調べて、つくる(やる)ことがしやすい時代になっています。あとは、実は自身が「やる」「行動する」だけなのです。その1つの指標として、コンテストを活用してください、ということです。
 
さて、先日、CESAの「日本ゲーム大賞 アマチュア部門」の今年のテーマが発表されました。
 

日本ゲーム大賞 アマチュア部門


ぜひ、必死に考えて、つくって、参加してみてください!
この4か月の苦労と努力が、必ずや先の糧になることだと思います。
 
今回は以上です!
 
 


■著者 : 馬場保仁
株式会社ファリアー 代表取締役社長。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。その後DeNAにてスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任。現在は、ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。
 



■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー

第三十五回「幸せのカタチ、面白さのカタチ」

第三十四回「プロの言葉・責任」

第三十三回「小さな成功、大きな成功」

「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【後編】(第三十二回)

「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【前編】(第三十一回)

第三十回「指導者に問われるもの」

第二十九回「そもそも、企画の仕事って…」

第二十八回「転職〜中級編・自分の価値を知る〜」

第二十七回「転職〜入門編〜」

第二十六回「リーダーシップとは」

第二十五回「思考のスタミナ」

第二十四回「出て行く勇気」

第二十三回「個人でつくる・集団でつくる」

第二十二回「指摘される勇気、指摘する気遣い」

第二十一回「どこを見るか? どう採るか?」

第二十回「100%の力を発揮するために……」

第十九回「まずは、”伝える”ことから始めよう!」

第十八回「カード少なく勝負に挑まない」

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【後編】(第十七回)

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【前編】(第十七回)

第十六回「新人事始」

第十五回「就職活動にみられる地方格差」

第十四回「【思いやり】の向こう側

第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜

第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」

第十一回「ハッカソンの功罪」

第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【前編】(第八回)

第七回「学生さんにやっていただきたいこと~後編~」

第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)

第三回「若手のチャンスとキャリアパス」

第二回「企業×学校×学生」

第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」