【連載】ゲーム業界 -活人研- 「ゲーム教育トーク」(前編)…『ゲームの教科書』著者2人が語るゲーム教育の今と未来


 
株式会社ファリアー 代表取締役 社長の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。同氏は、セガで家庭用ゲームの開発を、DeNAではスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任していた。ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に注力していく。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。 

今回は趣向を凝らした対談記事として、同氏と共に『ゲームの教科書』(ちくまプリマー新書)を手がけた山本氏との対談が実現。著書を出版して9年が経つ中で感じた、ゲーム教育や業界を志す学生への思いを聞いた。
 
 

昨今のゲーム教育における技術環境と学生事情



 

文筆家・ゲーム作家
山本貴光氏(写真右)

株式会社ファリアー
代表取締役社長 
馬場保仁氏(写真左)
  
馬場 保仁氏(以下、馬場):僕らはこの『ゲームの教科書』を9年前に書きました。ゲーム業界を目指す人が増えれば良いなと思い、手に取りやすい形で、且つ、中高生向けの新書として出版し、実際に読んで業界に入ってくれたクリエイターもいました。
 
ただ、こういった書籍を出した以上、アップデートしていく責任もあると思っています。この先のゲーム業界に向けて、この本を出してから10年近くが経つ今、改めて「ゲームを学べる環境」「企業の中で活躍していくこと」を真剣に考えないといけないという背景が今回の対談につながるんだけど、ちょうど本を出した頃から、山本は大学や専門学校でゲームを教えはじめていたよね?
 
山本 貴光氏(以下、山本):そうだね。その頃からでした。以来10年ぐらい、ゲームの作り方を教えてきた勘定です。
 
馬場:今はプロ契約としても活躍していますが、いわゆる教育機関として、これまで教えてきていた中で良いところや気になったところをまずは教えてもらえますか?
 
山本:学校の良いところは、一種の強制力が働く状態でゲームを開発できる点です。もちろん同人活動のように有志で集まってつくってもいいんだけど、その場合は自発的にやり抜けるかどうかが大きな課題になる。

学校の場合、作ることへの強制力が働くし、先生からしっかりチェックしてもらいながら開発できるのは得難い経験だと思います。しかも企業での開発と違って、学校は失敗が許される環境です。技術面ではUnityやUnreal Engineのようなツールも出てきて、ゲーム制作のハードルがグッと下がりました。
 
ツールを使わずに作る場合、企画を立ててからプログラムを実装するまで、それなりの時間がかかっていたわけです。ゲーム制作で上達するコツは、作ってみて「あれ、思ったほど面白くないぞ」と気づいてそれを直すというサイクルを繰り返すことです。

仕様を書いてから実装するまでの時間が長いと、こうした試行錯誤のサイクルを体験しづらいんですよね。その点、Unityなどのツールを使うと、「こういうゲームにしよう」と考えてから形にするまでの時間を短縮できるので、失敗できる回数も増えます。ただし、長期的には、ツールを使わない開発もできるほうがよいと思います。
 
馬場:「失敗する」というのは行き詰まるのが早いということ?
 
山本:行き詰まりもあるし、作るまえに想像していたような面白さにならないとか、そもそも作りきれなかった、という経験です。完成しても遊んで面白くないものができたら、それも失敗。
 
ゲーム開発は、ゲームと一緒で、失敗すると「あ、ここがまずかったのか」と気がつけるし、改善の余地が出てくる。考えて作って動かすというサイクルが早ければ、失敗に気づいて直すというサイクルも早く味わえる。以前は企画してから仕様書を書いて、作り始めてα版にこぎつけるまで、数ヶ月かかることもざらではありませんでした。
 
馬場:昔は半年以上かかっていたからね。2年で卒業する学校もあるので、経験が絶対的に足りない。
 
山本:そう。それを短い期間で経験できるのは、現在の技術環境のおかげもある。
 
馬場:ゲームエンジンの登場というのは非常に良い影響を与える可能性を秘めているよね。またネット上にもいろんな情報があるから、きっかけさえ掴めれば自分で作れる時代になっている。
 
山本:こうなると、やる気とアイデアさえあれば作れます。それに関連して言えば、学生には何通りかのタイプがいます。一番多いのは「先生、まだ何々を教わっていないのでできません」という人。例えば、企画書の書き方を教わっていないのでできません、と言ったりします。
 
馬場:まあ、でも、それは「平均的な学生」のイメージですね(笑)
 

山本:もちろん、教えていない段階では無理もないんだけど、悪い意味で義務教育のやり方に染まっているなと感じます。自分の場合を思い出してみてもそうだけど、ゲームを作りたい人って、放っておいても勝手に作るんですよね。そもそも作り方なんて誰も教えてくれなかったわけだけれど(笑)。ともかく「こうかな?」と試行錯誤しちゃう。分からないことが出てくると泥縄式で調べたりする。
 
そんなふうに勝手に作って、それでも分からないことは先生に聞く。そういうタイプの学生の場合、「教わってないのでできません」ということはないわけです。勝手にどんどん作ろうという人にとっては、こんなに良い時代はないと思います。
 
馬場:確かに、大学時代、勝手に学校のコンピュータで俺たち作ってたもんねぇ(笑)それに比べて、今は、ゲームエンジンも無料で使えるからなぁ。
 
山本:そう。ツールもアセットもデータも無料で使える物がいくらでもあって、有料のものも比較的廉価でいろいろ揃っている。作り方や技法についての情報も玉石混淆とはいえ山ほどある。さらに英語その他の言語まで視野を広げれば、数倍になる。あとは「作りたい!」という気持ちとアイデア次第。さらに学校に通えば、プロからのアドバイスももらえるのでどんどん上達する。
 
馬場:私の持論としては、学校で最近学生に触れることも多いので、「教わってないことはできない。なので、学校に行って学ぶ。」と思うところもあるので、さっき挙げた学生が平均的だと思う。ダメだとは思わないけど、考え方を少し変えるだけですごく伸びるのになぁと思うことがある。ただ、挙げていない層ももちろんいて、ここはどういった層だと思う?
 
山本:特に専門学校で多いのは、高校を卒業して、どこかに進学しないといけないと思っているんだけど、特にやりたいこともない。ただ、ゲームは遊んできたので興味がある。じゃあ好きなゲームを学べる学校に行こうか、という学生ですね。
 
馬場:確かに、高校の段階では、進学する気が持てない子もいるね。いざ卒業をするときに不安になって、いろんな選択肢を考える。ただ、特にやりたいことはないけど、「ゲームを楽しんだ思い出」はある。なので、ゲームをふれられるところに行こうというケースが多いだろうね。
 
山本:もっとも無理もないとも思う。高校卒業ぐらいの年齢で、やりたいことが明確にあったかと言われたら、私もぼんやりしていたから。
 
 

◼︎「目コピ」でゲーム作りの第一歩を体験させる

 
馬場:きっかけとして、その考えがNGな訳ではないけれど、問題は進学した後で、何を教えてあげれば、作りたい気持ちとアイデアを生みだす、持てる層になるんだろうね?
 
山本:まず、当たり前だけれど、ゲームで遊ぶのが好きだったり得意であったりするのと、ゲームを作るのは別のことで、要求される知識や技術も違う。ゲームをたくさん触っていて詳しいんだけど、いざ企画させてみるとお手上げという学生は少なくない。
 

という前置きをした上でポイントとなるのは、ゲーム制作を学ぶ学校に来たのはよいけれど、実は作りたいものがない、という状態が課題だと思う。これも大変多い。というよりも、私が見てきた範囲では、作りたいアイデアを持って学校に入ってくる人は稀でした。

作り方はなんとでもできるんだけど、「どんなゲームを作りたい?」と問われて、「特にありません」という学生が多いんですね。教え始めた頃は、ちょっと困りました。
 
なんとなく「ゲームを作りたい」と思ってはいるけれど、具体的に作りたいものはない。そういう人たちがいると分かってから、どうしたら彼らを次のステップに進めさせられるだろうかと考えた。

あるとき、音楽でいうカバーをすればいいじゃんと思いつきました。作りたいものがないなら、お手本となるようなゲームを自力で再現してみる。それこそ『ポン』でも『スペースインベーダー』でもいいんだけど、既に完成品としてあるゲームを、自分が作りたいゲームと仮定して模倣するわけです。要するに動機がないなら作ってしまえ、という発想です。『デバッグで始めるCプログラミング』(翔泳社)というプログラム入門書もこの発想で書いてあります。
 
このカバーを繰り返すと、やがて作り方が分かってくる。あるいは今の自分には分からない点が見えたり、これまでは気づかなかったユーザー体験の設計などがちょっとずつ腑に落ちてきたりもする。
 
そういった経験を通じて、やがて自分でも何か作りたいものが出てくるようになれば良いのかなと思います。まずは嘘でも仮でも良いので、動機を外から持ってきて「作る」という経験をする。
 
馬場:型に当てはめるということだね。
 
山本:そう。作りたいものがなくて、動機がないのでみんな困っている。それなら外から持ってこよう。例えば、ギター少年も最初はカバーから始めたりする。
 
馬場:みんなDeep Purpleの『Smoke on the water』のイントロをカバーしてみるような、だね。20代はわかんないかな?(笑)
 

山本:そうそう(笑)。「かっこいい!」と思った曲を自分でやってみる。どうしても弾いてみたいけど、最初はコードもおぼつかない。でも、繰り返しやっていくと、やがてあのイントロを弾けるようになってゆく。
 
馬場:『Smoke on the water』を例に挙げたけど、まず見本として適しているゲームを我々は探さないといけないと思うんだよね。今の学生は、模倣するとなると、自分たちが熱中した経験のある『メタルギアソリッド』や『モンスターハンター』を作りたいと言う。気持ちはわかるけど、でも、これらの作品は要素が複雑で、模倣をするのは無謀だと思うんだよね。
 
山本:さすがに無理だね。
 
馬場:先生が『メタルギアソリッド』の一部分を分解して、「そこから模倣しよう」としないと中々やれないよね。だって、『Smoke on the water』はシンプルなコードだし、これならやれそう、でも、かっこいい!だから、やってみようと思う訳だしね。それと同じように、シンプルだけど満足感を与えられる見本がないといけないと思うわけですよ。
 
山本:それに関して言うと、小さくても良いから全部自分が作ったという経験が大事。そういう関心でゲームの歴史を振り返ってみると、手頃な材料が見つかるんだよね。例えば1980年代のゲームは、ハードスペックが低くて、今の目で見るとシンプルなゲームだけど、同じものをいざ自分で全部作ってみようと思ったら、けっしてたやすくはないはず。
 
馬場:『パックマン』とかが正にそうだ。
 
山本:そうそう。自力で『パックマン』を作ってみるために、オリジナルを隣に置いて、同じ操作で同じ動きをするように作ってみたとする。
 
馬場:ギターのカバーで言う耳コピならぬ、目コピってやつだね。
 
山本:目コピをするには、オリジナルをよく観察しないといけない。例えば、パックマンを邪魔してくる4匹のモンスターは色が違うだけでなく、動きも違う。フルーツはどのタイミングで出るのか、点数はどう違うのか、ゲームプレイから生じる現象をよく観察して要素に分解することが大事。分解したら、いわばゲームを構成している材料が揃う。分解できたらそれを今度は再構築していく。以上をまとめれば、観察、分析、総合。これで初めて『パックマン』をコピーできる。
 
馬場:何事も、模倣から入るのは、シンプルで、結果・ゴールも見えてるから良いと思うんだよね。まずは規模の小さいサンプルを見つけて自分なりに作りきるのが大事だね。そうすることで全体の構造も把握でき、次に何をしないといけないのかがわかる第一歩としての体験が身につく。
 
山本:そうした模倣の試みを通じて、その時の自分にできることとできないことの違いがわかるのも大切。何よりも達成感を得られるのが良い。以後、自分でゲームを作る際の原動力になる。

馬場:モチベーションとしても大事だということだね。一個やりきったことで「もっとこうしたい」「こうするべきだった」みたいに、次が見えてくる。次のステップがあるとなると、ダラダラ長引かせるのもいけないから期限を設けて進めていく訳だけど、できなかった、完成しなかった場合はどうすれば良いと思う?
 

山本:その場合でも、どこまでできたかをきちんと把握すると良いですね。要は、何が足りていないかを理解できれば、対処の仕方や自分の鍛え方も分かるので。
 
馬場:期限内にできなくとも、先生ができなかった点を明確にしてあげて、次のステップを決めてあげる。やりきった子は自分なりの課題を見出すから、放っておいてもやる子にシフトする「きっかけ」になる。何を聞いてよいかわからない状態が解消されると思うんだよね。「できなかったこと」が「わからないこと」になるから。
 
山本:そう。その時注意したいのは、知識を伝えるというよりは、学生と対話する必要がある。先生が答えをさっと教えるのではなくて、対話を通じて学生自身が自分で発見するという感じですね。「このゲーム、どうしてこんなにつまらないんだろうね。最初はどういう面白さになる予定だったの?」と問いかけてゆく。そうそう、答えを伝えるというよりは、適切な問いを投げかけるのがポイント。
 
馬場:きっかけを与えてやることが大事で、その後に対話を繰り返して自分で考えを出すというのも大事になってくるね。「なぜだ」「どうすればよいか」を考え続けてひねり出した答えを否定するのではなくて、対話をしてきちんと引き出してあげるのも成長につながると思う。どれだけ、寄り添ってあげられるか?かもしれないね。学校の先生たちは1人で見なきゃいけない学生数が多いから我々がこう話しても、机上の空論に見えるかもしれないけど…
 
実は、学校の先生にとって必要なマインドは「否定しないこと」かもしれない。否定をせずに、対話を繰り返すことで自分なりの何かをひねり出すことができたら、それはすごい大きな成果だと思う。
 
山本:プロとしてやっていける人は、自分の中でもそうした対話ができて、必要とあらば他人とも対話できる人だよね。
 
 

◼︎体系的に学べる教科書の重要性

 
 
馬場:その対話や模倣の為にも、ゲームの歴史を教えることはすごく大事だと思う。ただ、現象を教えてもしょうがない。例えば、『モンスターストライク』の要素を分解して遡ると、実は80年代のゲームに通じている、というような体系立てて教えないといけない。
 
歴史って、今を紐解いていくと、過去にルーツがある。だから、過去の作品や出来事を模倣してみる価値があるよね、という考えが生まれる。いきなり『メタルギアソリッド』は難しいかもしれないけれど、その中にある原点を辿り、よりプリミティブなゲームから作っていくことが大事、というのを納得するようになれば学生さんはもっと色んなゲームを作ると思うんだよね。今のゲーム教育はまだまだ点になっていて、線として教えられていないのかなと思います。
 
山本:さらに言えば、複数のジャンルについてやっておくと良いですね。多くの場合、みんな好きなジャンルだけを選びがちだからね。もちろん好きなものだけとことん突き詰めるというのもありだけど、長期的にやっていこうと考えている場合は、ジャンルを問わず一通り、作り方や構造を分かっておくのが良いと思います。

いろいろなゲームをカバーしてみると、共通部分や違いもわかってくる。例えば、文学研究の領域には比較文学といって、あれとこれ、それとこれと比べることで色々分かるという手法があるけれど、ゲーム制作についても比較ゲーム学じゃないけれど、そういう視点が有効です。
 
馬場: あとは、歴史を知ることで新しいことも見つけられる。もちろん、全く新しいものは中々生まれないものだけど、苦労して考えて出したものが実は10年前に出ていたものだとしたら徒労だから。ゲーム史を教えることは大事だし、教え方も考えていかないといけない。系譜を体系立てて学べられるように。
 
山本:幸いこのところ、日本語でもゲームの歴史に関する本が何冊か出てきたので、活用しない手はない。
 
馬場:推薦図書とかはある?
 
山本:まず小山友介さんの『日本デジタルゲーム産業史――ファミコン以前からスマホゲームまで』(人文書院、2016)を読むとよいですね。産業としての歴史を捉えていて、現在に至る全体像をつかめます。また、『日本ゲーム産業史――ゲームソフトの巨人たち』(日経BP社、2016)も併せ読むと良いでしょう。中川大地さんの『現代ゲーム全史――文明の遊戯史観』(早川書房、2016)は、産業というよりは、ゲームやハードにフォーカスした批評の労作。このあたりは比較的最近出たので手にも入れやすいですね。専門学校や大学の講義でも、なるべく早いうちに目を通しておくとよいですよとお伝えしています。
 

馬場:こういった書籍が教科書指定になれば良いと思う。ここで、日本ゲーム業界の特徴として、教えるべきベースとなる教科書が充実していないことが挙げられる。整備されていないから、業界経験のある先生が、それぞれの考え、我流を教えてしまっている。これは、「つないでいく」という観点からは、素晴らしいことなんだけど、「教育する」という観点からは、やや無責任とも言えて、学生はそれが全て、と思ってしまう。だから、こういった書籍をきちんと作って更新していく必要もでてくる。
 
山本:教科書ということで言えば、アメリカはどんな分野でも教科書の作り方が上手だなと感心することが多いですね。神経科学にしても経済学にしてもゲームデザインにしても、優れた教科書が見つかります。基礎的なことからきちんと言葉にして読んで考えれば分かるような土台が提供されている。ここは見習いたい点です。
 
馬場:学校は学費を頂いているので、もはや「サービス」なんですね。サービス業なので、提供しないといけないもの、最低限として教えなければいけないものがある。そこを各先生の属人性に委ねるのは適正とは言いづらい。でも、体系立てられていなくて、教科書に相当するものがあまりないので、現状は、「課題感はあるものの、手を打てていない」という状況だろうね。
 
山本:それから、教科書というのは、何かを学んだり研究したりする際の共通言語を手渡すものでもありますね。この領域について議論するなら、お互いに話が通じるように、最低限これだけは把握しておこう、というわけです。特に分業が進むと、自分の専門外のことに関心を持たない人が出てくるので、話が通じづらくなるという側面もある。しっかり作られた教科書があれば、先生ごとの得手不得手や知識の幅の違いといった属人的な要素もある程度カバーできる。
 
馬場用語の統一、共通言語化ってすごく大事だと思うんだよ。例えば、今いろんなとこで企画書や発表を見てると、「コンセプト」って言葉の意味がバラバラで使われているんだよね。ゲーム概要とコンセプトが混ざっていたりする。実は企画書一つとっても、用語の意味はどうなっていて、それをどう呼んでいるかを決めてあげないといけない。
 
山本:特にカタカナ語は危ないですね。例えば、開発現場で使われる言葉で「デザイン」なんてのも紛らわしい。グラフィックのことを指す人もいれば、ゲームの設計のことを思い浮かべる人もいる。デザインという言葉は多義的で、人によって与える意味が違う。もっとも話しあう時、そのつど確認すれば済む問題ではあるけれど。
 
ついでに言えば、「ゲーム性」も混乱の元になることが多いかな。「性」とは性質のことで、「ゲーム性」とはつまり「ゲームらしさ」という意味でしかない。そして、ゲームとはどんなものか、という肝心の点については、人によって考えていることが違うことが多いんだよね。
 
馬場:ニュアンスでしかないよね。
 
山本:そんなふうに、プロの間でも言葉のズレと混乱は起きる。必ずしも言葉を統一すればいいってものでもないけれど、ある言葉をどういう意味で使っているか、お互いに理解するのが大事。そういう意味で、用語について整理して、モノサシとして使えるようにしておくといいよね。
 
馬場:特に企画職って言葉で仕事をしているものだから、実は「ゲーム性」という曖昧な言葉には危機感を覚えないといけない。曖昧な言葉で横着しないのが、大事だね。
 

山本:教科書や辞書があると、よりどころにもなるわけです。
 
馬場:スタートが企業文化という経緯があったからかもしれないね。技術に関しては、タイトルが発売されれば、ある程度公開されていくものだけど、企画やゲームデザインについては、各社の財産でもあるから、あまり流出されるものじゃない。言ってしまえば、各社の中で方言ができているわけだ。
 
でも教育機関では、その状況は避けたい。少なくとものその学校の中では統一されるべき。方法としては二つあって、一つは教える人をたった一人にする。その人からしか教えないから統一される。もう一つは、本を作ること。誰が教えても見ればわかるものを用意する。講師が一人しかいない学校なんて、潰れると思いますから前者は現実的ではない(笑)。そうなると、本気でテキストを作っていくしかないね。
 
ましてや、2018年問題という人口が減る傾向がはじまりつつあり、今まで以上に「うちにきたらちゃんと就職できる」「プロとしてやっていけます」を実現するための手段を数少ない学生に打ち出さないといけない。それが今までは、著名陣講師を揃えている、とか有名企業と産学協同のプロジェクトを行っている、などでした。
 
それがダメな訳ではないですが、これからは学生さんの数が少なくなってくる中で、さらに何かをしないと生き残れなくなります。講師を増やすというのも大事ですが、教科書を作るというのも必要な要素になってくると思いますね。
 

<続きは後編で>

 


■著者 : 馬場保仁
株式会社ファリアー 代表取締役社長。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。その後DeNAにてスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任。現在は、ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。
 
■山本貴光(やまもとたかみつ)
文筆家・ゲーム作家。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、コーエーでのゲーム開発を経てフリーランス。東京工芸大学非常勤講師、モブキャストとプロ契約中。著作に『「百学連環」を読む』(三省堂)、『文体の科学』(新潮社)、『コンピュータのひみつ』(朝日出版社)、共著に『脳がわかれば心がわかるか』(吉川浩満との共著、太田出版)、『ゲームの教科書』(馬場保仁との共著、ちくまプリマ-新書)、翻訳にサレン&ジマーマン『ルールズ・オブ・プレイ』(ソフトバンククリエイティブ)など。
twitter ID:yakumoizuru

■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー


第四十一回「"いま"やるべきこと〜その②〜」

第四十回「"いま"やるべきこと」

第三十九回「ゲームをつくるのは楽しい!」

第三十八回「軸足をもつ」

第三十七回「どんな経験が?」

第三十六回「自分だけの面白いから脱却」

第三十五回「幸せのカタチ、面白さのカタチ」

第三十四回「プロの言葉・責任」

第三十三回「小さな成功、大きな成功」

「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【後編】(第三十二回)

「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【前編】(第三十一回)

第三十回「指導者に問われるもの」

第二十九回「そもそも、企画の仕事って…」

第二十八回「転職〜中級編・自分の価値を知る〜」

第二十七回「転職〜入門編〜」

第二十六回「リーダーシップとは」

第二十五回「思考のスタミナ」

第二十四回「出て行く勇気」

第二十三回「個人でつくる・集団でつくる」

第二十二回「指摘される勇気、指摘する気遣い」

第二十一回「どこを見るか? どう採るか?」

第二十回「100%の力を発揮するために……」

第十九回「まずは、”伝える”ことから始めよう!」

第十八回「カード少なく勝負に挑まない」

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【後編】(第十七回)

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【前編】(第十七回)

第十六回「新人事始」

第十五回「就職活動にみられる地方格差」

第十四回「【思いやり】の向こう側

第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜

第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」

第十一回「ハッカソンの功罪」

第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【前編】(第八回)

第七回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」

第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)

第三回「若手のチャンスとキャリアパス」

第二回「企業×学校×学生」

第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」
株式会社ファリアー
http://farrier.jp/

会社情報

会社名
株式会社ファリアー
設立
2016年7月
代表者
代表取締役社長 馬場 保仁
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