ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に注力していく。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。
今回は趣向を凝らした対談記事として、同氏と共に『ゲームの教科書』(ちくまプリマー新書)を手がけた山本氏との対談が実現。著書を出版して9年が経つ中で感じた、ゲーム教育や業界を志す学生への思いを聞いた。
■ゲームは人の心を動かす科学
文筆家・ゲーム作家
山本貴光氏(写真右)
株式会社ファリアー
代表取締役社長
馬場保仁氏(写真左)
山本 貴光氏(以下、山本):もう一つ、ゲームクリエイターを養成する教育機関が今後目指すべきは、その学校で学ぶと5年後10年後も通用できる人になれるということじゃないかと思います。どうしてもその時々の流行に目が行きがちですが、それは程なく役に立たなくなる可能性もある。
大事なのは、流行も押さえているけど、その流行が終わって廃れても自力でサバイバルできる基礎を作ることです。自分で文献を探して読んで考えたり、考えを説得的、あるいはロジカルに表現、説明できるといった、ゲーム作りの前提となる基礎的な技術ですね。
その学校で学べば、そうした基礎が鍛えられ、5年後も10年後も通用する人物になれる、というのが地味ではあるけれど理想です。学校は、どちらかというと、良い設備や著名な講師、流行りの技術を扱っていますよ、という提示の仕方が多いですね。
馬場 保仁氏(以下、馬場):専門学校はこれまで2年制だったからというのもあるよね。今は3年制4年制の学校も増えてきているから、もう少し腰据えて教えられるようになるかもしれない。だから、2年制での教育方針とは差別化の観点からも変えないといけないでしょうね。4年制となって、大学とは違った良さを出していかないといけなくなる。どうカリキュラムを組むかは大事だと思います。
山本:カリキュラムの課題は、ゲーム以外のことをどう教えるかだと思うんだよね。ゲームに直に関わることはもちろん重要なのだけれど、実はさらに大事なのは「人間」です。なぜなら、ゲーム制作ってゲームを作っているようだけど、実際に目指しているのは、そのゲームで遊んだ人の経験なんですよ。ただし、他人の経験を直接作るわけにはいかないので、ゲームという間接物を作っているわけです。
人の経験を作るには、ゲームで遊ぶ人間の身体や心の仕組みをある程度のレベルで理解する必要があります。学校の講義でもよく話すのですが、例えばゲームの画面を設計するのは、画面のどこに何を配置するかという話でもあるけれど、それ以上に、その画面を見る人の視線や心理をどう動かすかという話でもある。
コントローラーやタッチパネルなどを使った操作を設計するのは、操作と機能の対応をつける話でもあるけれど、それ以上に、その操作をする人の指や手や身体の動きと心理をどう動かすかという話でもある。人間のことを忘れちゃうと、画面や操作を機械的に設計するに留まる。遊ぶ人の身体と気持ちを動かせなければ、遊んでもらえない。
馬場:ゲームのUIとかUXとかよく言われるところでもあるけど、実際にプレイしていたら視線がいかない箇所に情報を置いていることがよくある。ただ、それはイメージする訓練ができてないからであって、教えないと身につかないものだとも思ってるんだよね。そこも雛形というか、第一歩の歯車は教える側から当てはめてあげるしかないよね。
山本:この点についても型にはめるのは有効です。人間は物を見たらどう感じるか、身体はどう動くか。心理学、認知科学、神経科学、生理学を学んでおきたい。先ほど述べたように、ゲームのデザインは、視線のデザインでもあり、手の動きのデザインでもあるから。
馬場:スマートフォンだと、手で隠れて快適に遊べない、っていう学生の作品に出くわすことは多いね(笑)
山本:そうそう、手の動きを考えずに作ると、とんでもない配置になる。ゲーム中、ほんの時々行う操作ならまだしも、ゲームでよく使う操作だと目も当てられない。程なく遊ぶ人も嫌になってしまう。つまり、ゲーム作りというのは、遊ぶ人間の体験を作ることなんだよということをしっかり踏まえないと、形はゲームになっていても、残念なプレイ体験を作ってしまうわけです。とはいえ、これは学校でのゲーム制作なら、失敗を通じて確認したいことでもあります。
馬場: そして、よくここで挙がってくるのが「じゃあマーケティングターゲットを絞ろう」という声なんだけど、意識しないよりはした方がいいけど、学生時代は、まずは「面白いものを作る」が優先で良いと思うんだよね!人間心理を考える上で、ペルソナ設定は行うべきなんだけど、「”子供向け”ゲーム」と曖昧なターゲットが企画書に書かれていることも多々あってね。この”子供向け”は何なのか。識字のレベルが違うから8歳と12歳でもできることが変わってくる。
そこは、マーケティングターゲットというより、遊んでもらえるユーザーに対して必要な機能は何か?そしてその結果、その人たちの心をどう動かすのか?を考えることなんだよね。どういう風にプレイしてもらえるか、どう思ってもらえるかを想像できないと、作れない。例えば、プレイレビューでも、感想を一生懸命聞くんじゃなくて、プレイしている様をしっかり観ることが大事というのも教えないといけない。
山本:その点に関して言えば、ゲームを作る人は、他ならぬ自分がプレイしている時に、自分の心身に何が起きているのかを観察して、捉えられるようにしておきたい。目下、東京工芸大学で担当している「ゲーム学」や「シリアスゲーム論」という講義ではそこを教えているのだけれど、これは結構難しい。普段、ゲームで遊ぶ時は、いちいち自分の心身がどう動いているかを気にしてはいないからね。
馬場:ずっと観察すると疲れちゃうしね。
■業界を志す人がやっておくべきこと
馬場:学生に対して、「これをやっておくと良い」というのはありますか?
山本:いつも言っている事だけれど、まずは「ゲームを分析しろ」ですね。分解と言ってもいいです。そのゲームは何からできているか。料理を食べて、それが何からできているかを見抜くように分解してみるわけです。そのためには知識も必要になるし、料理の場合なら、自分でもいろいろ調理を試してみる経験も必要です。見る目を鍛えるといってもいいですね。
馬場:あまり難しいゲームを分解するのは大変だから、具体的に挙げてみるとどんな作品が良いだろう?『スーパーマリオブラザーズ』のステージ1とかが挙がったりするけど、あの作品は何もしないと死んでしまうから、結構分解は難しい印象だけど。
山本:プレイヤーが「何もしないでいると終わっちゃう」というのはゲームにとって本質的なことでもあるから、『スーパーマリオブラザーズ』でも良いと思います。別の例を出すなら、『テトリス』で分解を試してみてもいいですね。あれもプレイヤーが何もしないと、ブロック(テトリミノ)が積み上がってゲームオーバーになる。それから先ほど挙げた『パックマン』も好例。初歩的なAIが実装されているので、プレイヤーのよき遊び相手としての敵やその他のキャラクターをどう制御したらよいかという勉強にもなります。最近のゲームで挙げるとしたら、何がいいだろうね。
馬場:スマホのゲームで挙げるとしたら何が良いだろう。
山本:一見複雑だけど、『パズル&ドラゴンズ』は分解してみると良いと思う。基本となる遊び(コアメカニクス)は一画面で収まっていて、画面を構成する要素も見てとりやすい。でも、そこで生じるパズルの遊びは、かなり多様な状態をとるように設計されている。というのは、ゲームを構成する各種要素をもとにして、さまざまなスキル(特殊技)を設定しているという点が大きいかな。限られた要素の組み合わせから、多様な状態を生み出せれば、飽きずに遊べるゲームになる可能性も高まる。
ゲームの分解ができたら、今度はそうして洗い出した要素同士がどう関係しているかを全部チェックしてみましょう。講義では、やはり『パックマン』でやってみるように教えています。パックマンとモンスターの関係、パックマンとドットの関係、モンスターとドットの関係……という具合に、ゲームの構成要素同士の関係を一つずつチェックしてみるわけですね。
これをやってみると、要素同士が直接・間接的に関わり合うことで、ゲームにさまざまな状態変化がもたらされている様子もよく見えてきます。そして、その要素の一部をちょっと変化させると、それがどこに影響するかも理解しやすくなる。例えば、ドットを食べた時の得点を倍にしたらどうなるか、とかね。
馬場:パラメータは一緒でも、関係性を変えることで、別のゲームになるからね。ゲーム作りには必要な発想だ。
山本:そんなふうにして、どんなゲームでも、分解した要素の組み合わせをチェックする癖をつけると役に立ちます。
馬場:チェックする癖をつける為に何か良い方法はないかな。概念だけでなく、図でわかるような。自分の中で形にしてみたり、ビジュアル化することが苦手な人も多いから、見てはっきりわかるものがあれば良いよね。
山本:この話をする時は、必ず図を描いて見せています。スケッチブックでも裏紙でもいいんだけど、大きめの紙に要素を描いて、それぞれがどう関係しているかを図にしてみると、いっそうよく分かりますよ。
馬場: あとはやっぱり、制作経験を積むことだね。ゲーム専門学校は経験を積むことが強みになっていて欲しいと思うんだよね。やりっぱなしはダメだけど、年間4~5本、卒業するまでに10本は作るぐらいの経験を積めば、就職にはつながりやすいと思う。もちろん惰性で作らずに、ちゃんとカリキュラムを組んであげることが大事で、なぜ今これを作っているのか?を把握させてあげないといけない。
山本:そうだね。専門学校のカリキュラムは、ともすると科目ごとにバラバラに扱われることが多いよね。できれば、各科目が相互にどう関係しあっているか、さっきの『パックマン』じゃないけれど、科目同士の相互関係をカリキュラムの全体マップとして描いて見せるのが良いと思います。
マップがあれば、目標に行き着くにはこのルートを通らないといけない、と納得もしやすくなる。これから学ぼうという学生の立場からすると、例えば心理学の講義があります、数学の講義があります、と言われても、なぜどのようにそれが必要か、分からないかもしれない。必要が分からないと、自分で勝手に要らないものだと思って受講しないで済ませてしまったりする。最初に学ぶべきことの全体マップを見せることで、そうした不幸な選択を減らす役に立つんじゃないかな。
といっても、これはゲームの教育に限ったことではなくて、小中高の科目にしても、相互の関係を教えてくれたりはしないから、子供としては「そういうもんなのか」と思っちゃうし、「歴史なんか勉強してなんの意味があるの?」とか「数学なんか……」とか、そういう疑問も出てくる。
馬場:図示してあげることが必要だと思うね。頂上からのロードマップをきちんと引いてあげて、どのルートを登るべきかを示してあげる。
もう一つ、学校でもっと力を入れたほうが良いと思うのが「反復」だと思ってるんだよね。とりあえず、型にはめてやりきってみても、人間は一回では中々身につかない。2周3周やってみて初めて身につくものだから、制作経験も一回目は完成しなくともとにかくやりきる、2回目は拙くても良いから完成させる。3回目はある程度狙ったところに完成させる。もちろん、先生の手間が増えるというのはあるけど、この辺りはもっと力を入れて良い部分だと思うね。
山本:そうね。結局、なにかに習熟したかったら、繰り返すしかないんだよね。語学にしても楽器にしてもスポーツにしても、基本は繰り返しやってみること。専門学校だと時間も限られていることもあって、なかなか繰り返しの反復トレーニングにならないかもしれない。もっとも、やり方を教わったら、あとは学生が自分でも反復トレーニングをして欲しいけどね。
馬場:学校教育の売りとして「反復」は地味だから受け入れられづらいという点はあるだろうね。ただ、そこは先ほど挙げたロードマップを引いて、「反復も必要なルートだ」というのを教え、浸透させていくことは大事だと思うんだよね。教育もサービス業なのだから、もっとユーザ=学生に納得してもらう努力は必要だと思う。教育無償化の話も出ている昨今だから、この意識はより重要になってくると思うな。
山本:教える側も提供する教育の質や内容をどのようによくできるか、という課題がありそうだね。ゲームを自分で作れることと、ゲームの作り方を教えることは、別のことで、必要とされるスキルも違うから。
馬場:あとは外部評価を受けること。作ったものを外部の人にフィードバックをもらう経験は必要だと思う。規模が小さいゲームコンテストでもどんどん出すべきだね。学内評価だけだと、井の中の蛙になってしまうし、普段を知っている人に適正な評価を下すのは難しいからね。どうしても愛着が出てしまう。客観的な目で見てもらうことが大事。そして、評価を受けることで自信にもつながっていくから、もっとコンテストは開催されるべきだと思う。
ちなみにファリアーでもゲームコンテストをやっていきたいと思っています。まだ具体的には決まっていないけど、僕自身の「逃げ道」を断つためにここで宣言します(笑)。その時は、山本も、審査員をお願いします!
山本:もちろん。
馬場:開催機会が増えることで、学生のチャンスも増えますからね。今現在でも立派なコンテストはありますが、時期の都合で参加できない学生もまだまだ多い。短期で気軽に出場できるものも必要なんですよ。なので、私はコンテストを行います。みなさん乞うご期待です!
あと、本も書きます!ここまで話したのなら出さないといけないので、やります!「こういう事を書いてくれ」というのがあったら、こちらまでご連絡お願いします。
いや~2つも、大きな公約をしちゃったので、これは相当今年の後半は、頑張らないといけないな…
いや、頑張るのは当たり前だから、やりますよ!今日は、お忙しいところありがとうございました! また、よろしくお願いします!
山本:こちらこそ、ありがとう! ではみなさん、ご機嫌よう。
ご相談、お問い合わせは・・・
■著者 : 馬場保仁
株式会社ファリアー 代表取締役社長。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。その後DeNAにてスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任。現在は、ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。
■山本貴光(やまもとたかみつ)
文筆家・ゲーム作家。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、コーエーでのゲーム開発を経てフリーランス。東京工芸大学非常勤講師、モブキャストとプロ契約中。著作に『「百学連環」を読む』(三省堂)、『文体の科学』(新潮社)、『コンピュータのひみつ』(朝日出版社)、共著に『脳がわかれば心がわかるか』(吉川浩満との共著、太田出版)、『ゲームの教科書』(馬場保仁との共著、ちくまプリマ-新書)、翻訳にサレン&ジマーマン『ルールズ・オブ・プレイ』(ソフトバンククリエイティブ)など。
twitter ID:yakumoizuru
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会社情報
- 会社名
- 株式会社ファリアー
- 設立
- 2016年7月
- 代表者
- 代表取締役社長 馬場 保仁