【連載】ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- 第三十五回「幸せのカタチ、面白さのカタチ」


 
株式会社ファリアー 代表取締役 社長の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。同氏は、セガで家庭用ゲームの開発を、DeNAではスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任していた。ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に注力していく。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。 
 
 

■第三十五回「幸せのカタチ、面白さのカタチ」




 
前回は、プロの言葉の責任と重みに関してお話ししました。
業界を目指すアマチュア、学生にとって経験深いプロの言葉がどれだけ重いのか?ということと、そのフェーズにあった言葉をかけないと、本来論、正論を言ったところで相手には、正しく受け止めきれないこともあることをプロ側が自覚する必要がある、といったものでした。
 
学生に対してだけでなく、これは、主に専門学校で教えておられる講師の方にかける言葉や、その方の講義、授業の流れの中で自身の講義、講演の立ち位置がどういったところにあるのか?も考える必要があるかもしれません。

いえ、本来はそれは、プロを招いて講義をしてもらう学校側が考えることなのです。

ですが、学校で、非常に体系立てて且つ、言葉の定義まで明確にして、どの講師もベースラインは同じことを教え、そのうえに、各個人のナレッジが上積みされる形の講義形態を構築しているところは、なかなかないのではないでしょうか?そもそも、もし、それがしっかりと確立されていれば、
 
・業界就職率(正社員。クリエイターとして採用) は、70%を超える
・ゲストでプロの講師が呼ばれても、現在の業界事情を語るにとどまる
 
となることでしょう。

ですが、残念なことに、正社員でクリエイター採用で70%以上の業界就職率を誇る学校はなかなかないでしょうし、ゲストでプロが来た時には、気を遣うの半分、自信のなさからも、「おまかせ」になっているところが多いのではないでしょうか?

学校にきてくださるプロは、基本、学生が好きで、指導が好きで(これだけだと困りますが)、業界に入ってきてほしいと思っておられる熱心な方が多いと思います。そうでなければ、会社に言われたからと言って、本業をおいておいて一日費やして学校にいくことはないでしょう。だからこそ、彼らも「せっかくならば、実のあるものに、効果のあるものに」と思い、熱心に話してくださると思います。
 
であるがゆえに、どのレベルの何を話すのかをお願いしておかないと、熱は伝わるけど、中身は理解されない、もしくは、誤解、曲解されて、マイナスに向かう、とう事もなきにしもあらずかと思います。学校の皆さんは、せっかくプロが講義にきていただけたのならば、話の内容はお任せするとしても、
 
 

あたりを事前にお話しして、講演のスライドをつくってきていただいたり、当日のうちあわせで、留意点として話しておくとかもありかと思います。ちなみに、上記の①②③の具体例を出すならば、
 
<具体例>
①いまうちのプランナー専攻では何が面白いのか?を徹底して考えることに注力している
②コンセプトをしっかり考えることを教えており、コンセプトとは、
 「このゲームにおいて、もっとも面白いと思えるシーンをピックアップし、そこでどんな
  感情が動いているのか?を言語化して、2センテンスくらいで伝えることを指します」
③今日の学生は、入学後半年後の4年コースの1年生プランナーです
 授業では、アイデアの出し方を学んだところですが、まだチーム制作の経験はありません

 
のような形で伝えることができれば、話していただくことが、相手にもイメージできるかと
思います。
 
前回を受けての話がやや長くなりました(笑)。ですが、これも今回のふりになっています。
 
前回のコラムを掲載後、とある勉強会に参加をしました。
そこでは、ディスカッションを行う場があり、テーマに、
 
「情報技術は、社会を幸せにするのか?」
 
を議論する場でした。わたしは、HEATの時から、「参加者全員が、Happy & Winner!!」であってほしいと思い活動しておりましたし、お世話になったDeNAさんを辞し、Farrierを創業したのも、多くの学生さん(特に東京、大阪以外の方)、企業さんとのマッチングをして、より多くの人がこの業界で仕事ができるように、夢見た夢を実現させてあげたい!と思うところ始めておりますので、この「幸せ」というワードは、非常に大切にしているものです。
ですが、難問だな…と思っていたところ、一番最初にグループの方から出てきた言葉が、
 
「幸せの定義を知らない限り、そもそも、幸せと感じることができないのではないか?」
 
というものでした。これは、私にとって衝撃でした。
コロンブスの卵のように、当たり前のようなことなんですが、確かにそうなんです。それが幸せと知らなければ、人は看過して、不幸だと思い込むかもしれないんです。たとえば、私などは、
 
学生さんから、企画を見てほしい
 
と学校を訪問した時や、Facebookのメッセンジャー経由で依頼されたりすることが多いです。会社を興す前から、私は、これを、
 
「楽しいこと」
「たくさんのクリエイターがいるのに、私なんかに相談してくれて嬉しい」
 
と、それこそ、この事象そのものを「幸せ」ととらえていました。
ですが、人によっては、わたしがそれを本業やりつつ、遅くまで残って対応していたのを見て、
 
「馬場さん大変ですね、良い子ばかりでもないでしょうに」
 
という声をかけてくれる人もいたりしました。ちなみに、この人を蔑みたいわけでも、この人がダメな人だと思っているわけでもありません。採用の観点から、特に即時的な数字を追う観点から見たら、これは、効率がいいことには見えませんからね。

でも、私は、そこだけに価値を求めておらず(この施策のみで、数字をあげようと思っていたのであれば、ちょっとまずい対応してるね、と思いますが笑)、そもそも1人でも多く業界にはいってきてくれたらそれでいい、この子を直で採用できなくても、この子の友達や後輩に、
 
「あの会社の人には、すごくお世話になった、あそこはいい会社だよ、損得抜きでやってくれるから」
 
といわれるようになったら、それはそれで、無形の価値なわけです。
それ以上に、自分のような未熟な人間をも頼ってくれる人がいる、そのこと自体が喜ばしく、且つ、それにこたえて少しでも自分とかかわったことで、成長できたと感じてもらえることが幸せであると、自分に幸せの「カタチ」を持っていたからだと思います。
 
「カタチ」=「価値」
 
この場合は、そうだと思います。と、なると、幸せというのは1つだけじゃないということになると思います。価値は多様ですし、まずは他者を認めるところからスタートしない限り、自身の承認欲求を満たしてくれる人はなかなか現れないことでしょう。以前の活人研でも書きましたが、
 
「まずは、それもあり、と受け止める素直さ」
 
というものがありましたが、この多様性を受け止めるためにもそれは必要です。その中で、多くの感動に出会うことができれば、自身の中になにがしかの「軸となる価値」が芽生えてくるのではないかと思います。つまり、
 
「幸せとは、後天的に、訓練することで価値観やメンタリティに影響を与え、感じることができる」
 
のではないか?ということにつながると思います。これ以上は、学術的に研究されている方がいらっしゃると思いますので、そちらにお任せいたしますが、この話を聞いた時にふと思ったのですが、「面白さ」も実はそうなのではないか?ということです。もちろん、
 
プレイヤーとしての「漠然とした面白さ」を感じる部分
 
は、幸せよりも、よほど直感的に味わうことができていると思います。なぜなら幸せよりも、「ゲームの面白さ」はより具体的で範囲も狭く、且つ、自身でそもそも体験しないことには面白いとは思ってないわけですから。そして、このゲームをプレイして面白い!という体験がない限りは、まず九分九厘ゲームクリエイターを目指さないと思うのです。(70年代ならいざしらず、今くらいにゲームが身近にあふれていれば)
 
ですが、あくまでも、それは、「幸せ」と同じかそれに近いくらいに「あいまいな、雰囲気での面白さ」だと思います。つまりは、面白いとは、なんぞや?面白いを構成する要素はなんぞや? その要素があると、なぜ、面白いと感じるのか?あたりを掘り下げて、学生に教えていかないと、叩き込んでいかないと、わからないのではないでしょうか?
 
なので、結構学生さんの企画書やゲームのプロトを見せていただくと、仏作って魂入れず、ではないですが、
 
制作をやらせてもらえる項目は、それなりにあるけれど、
何が面白いのか?何にこだわっているのか?がまったくわからない
 
というものが散見されると思います。
それは、この「そもそも、なにが面白いのか?」をユーザとしての体験から、現象的にしか知っておらず、そのもの自体が何なのか?を考えた経験が少ないからではないでしょうか?と、なると、今一番大事なのは、職種問わず、
 
このゲームの面白さは何か?
 
を真剣に考え、分析すること。そして、それを応用してアイデア、企画を考えること、ではないでしょうか? まさに、ゲームデザインをする、ということなのですが…

そして、それをプロも講師も目にして、
 
1つめの「面白い」の歯車をその人に叩き込む責任
 
を受け止めたうえで、言葉をかけていく、指導していく、をすることが非常に大切なのではないか?と思い至りました。まあ、4年コースの学生さんであれば、1,2年生のうちは、あちこち揺れてもいいかもしれません。その中から自分なりの面白さを言語化、形にすることができるようになるかもしれませんので。(でも、それができるならば、4年コースの学生さんも、もっと、業界に入って来ていると思うので、簡単ではないのでしょうね)

でも、2年コースの学生さんは、寄り道をしている余裕がありません。なんせ、1年生の2月3月あたりから就職活動を始めないといけないのですから。と、なるとそれまでに就活の武器となる「制作物」を作っていなくてはいけません。そうなると、入学してから早いうちに、この、
 
面白さの「カタチ」
 
を体験させて、言語化、ビジュアル化して1つでいいので理解をしてもらう必要があります。そのために何をすればいいのか?それは、学校さんによって方針があっていいと思います。ただ、言えることは、1年生で入ってきたばかりの学生さんは、
 
「よーし、面白いことやるぞ!ゲームクリエイターになってやるぞ!!」
 
と一番「あつい」時期のはずです。この熱い時に、できるだけ面白いことを、早く体験させてあげて、且つ、
 
・否定ばかりをしない
・承認する部分も必ずつくる
・知識詰め込みも大事だけれども、面白い体験をさせる時間を重視する
 
ことを忘れないでいただきたいと思います。せっかくキラキラしている時に、その光が鈍るようなことや、ただただ、締め付けることで管理・支配をしやすくする方向のみで行動をしないでいただきたい、ということですね。ただ、管理で忙殺される先生方が多いことも理解しております。(1人の先生が面倒を見るには多すぎる場合も、まま、ありますので!)

そういう時こそ、プロや非常勤の講師の方と役割分担して技術的なところ、面白さのところに関しては、「君臨すれども統治せず」ではないですが、把握はしていても任せておくことが大事かもしれません。もちろん、おかしなところは言って是正しなくてはいけないので、放置や任せっきりはいけませんけどねこの役割分担も難しかったり、悩んでおられる方は、わたしにまでご相談ください(笑)。
 
それでは、今回はこれまで!
 
 


■著者 : 馬場保仁
株式会社ファリアー 代表取締役社長。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。その後DeNAにてスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任。現在は、ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。
 



■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー

第三十四回「プロの言葉・責任」

第三十三回「小さな成功、大きな成功」

「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【後編】(第三十二回)

「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【前編】(第三十一回)

第三十回「指導者に問われるもの」

第二十九回「そもそも、企画の仕事って…」

第二十八回「転職〜中級編・自分の価値を知る〜」

第二十七回「転職〜入門編〜」

第二十六回「リーダーシップとは」

第二十五回「思考のスタミナ」

第二十四回「出て行く勇気」

第二十三回「個人でつくる・集団でつくる」

第二十二回「指摘される勇気、指摘する気遣い」

第二十一回「どこを見るか? どう採るか?」

第二十回「100%の力を発揮するために……」

第十九回「まずは、”伝える”ことから始めよう!」

第十八回「カード少なく勝負に挑まない」

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【後編】(第十七回)

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【前編】(第十七回)

第十六回「新人事始」

第十五回「就職活動にみられる地方格差」

第十四回「【思いやり】の向こう側

第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜

第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」

第十一回「ハッカソンの功罪」

第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【前編】(第八回)

第七回「学生さんにやっていただきたいこと~後編~」

第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)

第三回「若手のチャンスとキャリアパス」

第二回「企業×学校×学生」

第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」