■第三十九回「ゲームをつくるのは楽しい!」
これまで、いろいろな観点から話してきましたが、ゲームクリエイターの資質として大切なのは、
であるとお話ししてきました。1,2はさておき、3があるからこそ、ゲームを仕事にすることを志すのだと思います。ただ、最初は、誰しもが、
「遊ぶ楽しさ」
を体験することで「ゲームっていいなぁ」と思うわけです。最初が「つくる」からスタートする方は、ほぼほぼいないと思いますしね(笑)。
(例えばTRPGで、プレイヤーをやらずに、いきなりマスターをやるというようなものかと…でも、かくいうわたしは、TRPGを2回目にプレイしたときにマスターをやらせてもらいました(笑)。さぞや、友人たちのプレイヤーに助けられていたことでしょう!)
いまどきのゲームクリエイターを目指す学生さんは、幼少期から、『ポケモン』や、『マリオカート』、『スマッシュブラザーズ』などにふれてきているでしょうし、中高生になっても、『メタルギア』などを遊んできていることでしょう。そう、いまの学生さんのゲーム経験は子供のころから含めると非常に多くのものにふれられるチャンスのある環境だったのだ、ということができます。
だからこそ、中学生が将来なりたい職業の第二位に、「ゲームクリエイター」がランクインするのでしょう!
しかし、ゲーム黎明期から、ハードの成長と共に、ファミコン、スーパーファミコン、メガドライブ、PlayStation、SEGAサターンなどのゲーム機と向き合ってきた40代以上のクリエイターたちは、遊んできているゲームの幅も深さも、タイミングと合計時間も相まって、非常に多くの経験をしてきています。そして、その「経験豊富」な人たちに、ゲームの企画を見てもらったり、作品を選考時にみてもらうと、
「これって、◎◎ってゲームみたいだよ」
「目新しさがないね」
のような、一瞬心が凍るようなコメントをもらった経験ってありませんか?
おそらく、それは、そうなのかもしれませんが、そんなの、
「生まれる前のゲームなんて、知らねーよ!」
と思うこともあることでしょう。教える側の方にお願いしたいのは、似ていたとして自分で考え付いたのであるならば、一刀両断せず、
「なぜ、こう考えたのか?」
「どこにこだわりもって考えたら、この形になったのか?」
などをきいていくことで、「自分でひねり出したものに対する敬意」というのは払った方がいいように思います。ましてや、生まれる前のものなんか知らなくて当然なところもありますし、エンタメというのは、何年かの周期でトレンドが繰り返されたりするところもありますので。
褒めて伸ばすとまでは言いませんが、人間承認欲求の塊なところはありますので、必要以上に褒めてはいけませんが、考えてきたものは尊重し、議論する、というスタンスは大切だと思います。
ここで、叱り飛ばしたり、注意することで、「締め」にいったり「コントロール」にいっているのであれば、それは、教える側の技量不足のところもあると思います。もちろん、いろいろな学生さんがいるので、講師をされている皆さんも大変だと思います。
が!一番最初くらいは、前向きに検討していくこと、そして、「ゲームをつくる楽しさ」を体験してほしいですね。それが夢の実現につながる、エネルギーを生むと思います。(あくまでも、最初のうちですよ笑。実際にゲーム開発は大変なこともたくさんあるので、そこはある程度、しっかり指導をしていかなくてはいけないところがあるのも、事実ですので)
また、模倣から入ることは、ものごとを新しく始める際に、一番てっとりばやく、且つ効果もでることだと思います。だから、真似て、そこを乗り越えることで、自分に取り入れて前に進むことができることもあります。それを一番最初の、熱意燃やして入学してきた1年生や、制作始まって、企画だしまくっていくぞ!と思っている学生を、自分の経験、知識からのみでスパッとだめだししてしまうのは、やや気持ちを削いでしまう可能性があります。せっかく、「楽しいこと」をやりにきてるのに、いきなり、ダメだしから入られると、心折れてしまう子もでることでしょう。
もちろん、プロになるうえで、そんな脆弱なメンタリティでどうするんだ!?とおっしゃる方がいると思います。それには、わたしはアグリーです。
ただ、それは、就活が始まるころまでになっていたら十分ではないでしょうか?未成熟な学生たちが、人間として成長するために必要なモラトリアムな期間でもあると同時に、自分のやっていることを腹落ちし、且つ、自信がつくくらいにまで、やれるようになれば、自然と議論にもちこんでも回答できる子は増えていることでしょう。
つまり、「タイミング」が大事だということですね。
でも、わたしは、ダメ出しは、
コンテンツ、アイデアに対して行われるべきものではなく
約束を守らない、チームに迷惑をかけた など
の時に行われたほうがいいのではないか?と思います。指導をする立ち位置の人間は、相手が学生だろうが、親であろうが、
・相手の人格を否定してはいけない
・ルールと約束が守られなかった時に注意したい
・コンテンツやアイデアが全力のもとあきらめずにやりきられたものならば、
何人たりともそれを否定する権利をもたない
だと思います。
たとえプロであっても、アイデアの段階では、そもそも穴だらけであることが多いです。また、言葉、字面で発想したものは、その人の人生やイメージにより補完されていることもあり、他者がみるとそれだけでは、伝わらないことはたくさんあります。
が、他者がそれを聞く、見るすることで、別のベクトルにアイデアが発火することはあります。であるからこそ、1人で考えられることは、たかだか知れていて、チームで開発するから、アイデアを出し合うから、議論をしあうからこそ、自分だけのときの発想から、何レベルも上にジャンプすることが可能になるわけです。
そのためには、第一原理じゃないですけど、
まず、素直に受け入れ
次に、自分で発想をひろげ
そして、発案者に疑問点を質問する
疑問の回答をもらうと同時に、議論が進み、1人では考え付かないところにたどり着く
と、諦めずに、情熱もっていけば、可能になると思います。
なので、
楽しいことをやっているのだから、否定しない、ポジティヴに進める!
ということは、非常に大切なことだと思います。
特に、新しくゲームの専門学校にはいってこられた学生さんにむけては、
・ゲームをつくるのは楽しい!
・楽しいことをやるんだから、否定しない!
・面白いところ、可能性を感じるところをふくらませる
・ましてや、わからないことは放置しないで確認する!!
とかを、講師自身もテンションあげて、楽しく取り組むことが大切だと思います。
でも、やはり、いろいろなゲームを知っていてほしい!というところは、実際問題あると思います。なので、ゲーム史の勉強なども初年度のカリキュラムにはあるといいのではないでしょうか?
故きを温ねて新しきを知る、というのは、何事においても大切な部分があります。たとえ生まれていなかった時のゲームであったとしても、そのエッセンスが今のスマホゲームに活かされているものもあると思います。それを、学ぶ側も、「生まれてない」「知らない」で切り捨てていては、時間がもったいないのと自身で可能性を狭めていると思います。
自身で考えてたどり着くことは、確かに美しいですが、それだけで完結するのは、こと、エンタメでものを生み出していくときには困難ですし、且つ、時間を多く使ってしまいます。で、あるならば、自身で過去のものを学ぶことも取り入れ、且つ、ひとりでなくチームで議論することで、アイデアを生みだす、広げる、整理する、目的にたどりつく!の道を最短で進めていく方法ではないでしょうか?
もちろん、チームでの制作、議論には、それはそれで難しさがあります。
それは、またの機会に話をしたいと思います。
それでは、今回は以上で!
■著者 : 馬場保仁
株式会社ファリアー 代表取締役社長。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。その後DeNAにてスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任。現在は、ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。
■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー
■第三十八回「軸足をもつ」
■第三十七回「どんな経験が?」
■第三十六回「自分だけの面白いから脱却」
■第三十五回「幸せのカタチ、面白さのカタチ」
■第三十四回「プロの言葉・責任」
■第三十三回「小さな成功、大きな成功」
■「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【後編】(第三十二回)
■「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【前編】(第三十一回)
■第三十回「指導者に問われるもの」
■第二十九回「そもそも、企画の仕事って…」
■第二十八回「転職〜中級編・自分の価値を知る〜」
■第二十七回「転職〜入門編〜」
■第二十六回「リーダーシップとは」
■第二十五回「思考のスタミナ」
■第二十四回「出て行く勇気」
■第二十三回「個人でつくる・集団でつくる」
■第二十二回「指摘される勇気、指摘する気遣い」
■第二十一回「どこを見るか? どう採るか?」
■第二十回「100%の力を発揮するために……」
■第十九回「まずは、”伝える”ことから始めよう!」
■第十八回「カード少なく勝負に挑まない」
■第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【後編】(第十七回)
■第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【前編】(第十七回)
■第十六回「新人事始」
■第十五回「就職活動にみられる地方格差」
■第十四回「【思いやり】の向こう側」
■第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜」
■第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」
■第十一回「ハッカソンの功罪」
■第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」
■「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)
■「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【前編】(第八回)
■第七回「学生さんにやっていただきたいこと~後編~」
■第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」
■「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)
■「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)
■第三回「若手のチャンスとキャリアパス」
■第二回「企業×学校×学生」
■第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」
会社情報
- 会社名
- 株式会社ファリアー
- 設立
- 2016年7月
- 代表者
- 代表取締役社長 馬場 保仁