■第五十一回「キャップは、誰が決める?」
ちょっと最近、イベントにおされて連載遅れている、馬場です
今日は、新たな新卒採用シーズン始まり、いろんな学生さん、企業さん、学校の先生と
お話しする機会があらためて増えてきたことで、思ったことを書きたいと思います
まずは、学生さんから。
学生さんと話をすると、自分を過大評価している子もいれば、自分のことを必要以上に卑下して過小評価している子もいます。これは、
①自身が何ができるか知らない
②自身が他者と比較してどこにいるか知らない
③自身が企業の求める、プロ目線から見てどういう評価か知らない
など
自分の能力を把握しきれていないことが多いです。
●能力の限界?
この①の場合、評価と実力の乖離は、プラスの方向の場合も、マイナスの方向の場合も、
いずれにしても、「自身の能力」を把握できてないことから起こります
どちらも、「なにもしてない」もしくは、「絶対量が不足している」場合に起きます
何をしてないといけないのか?
何の絶対量が不足しているのか?
これは、これまでの活人研でも何回か言ってまいりましたが、
専門学校生ならば、ゲームの制作
⇒絶対的なプロトタイピングや短期制作含めた「制作経験」数
⇒制作経験の更に上をいく「制作完成」数
⇒これは、できれば、個人制作、チーム制作、両方あることが望ましいです
大学生ならば、研究や制作
⇒PDCAをしっかりとまわしての仮説設定~改善までの流れと構造をはっきりさせていること
⇒上記の経験回数
⇒美大生であれば、ポートフォリオに収録できる制作物の絶対数
あたりが、不足なくできているか?です。
人によっては、専門学校に行っていても、就活始まるタイミングで、ゼロ!なんてこともよく目にいたします。確かに2年制の学校は厳しい側面があることもわかります。
が!で、あるがゆえに、就活開始タイミングを学校と学生で腹くくって遅めに設定してしまい、そのうえで、全力でモノづくりにまい進する!という選択肢もなくはないです。
実際にそれで、結果をだしておられる専門学校さんもあります。
というか、制作と就活を並行してやること自体が、相当に難しいということです。やれる子もいるかもしれませんが、それは、本当に、ホンの一握りの人だけのことでしょう。ですが、誰かが活動開始して、選考が進んでいるときくと、心穏やかでなくなるのは間違いありません。
そうなると、例えば、日本で一番大きく権威のあるアマチュアコンテスト、日本ゲーム大賞アマチュア部門も、エントリーは、2月中旬にはじまり6月末日までなわけです。この制作に集中して、つくりあげることができれば、いいのですが、就職活動の繁忙期に丸かぶりでもあるのです。3年制、4年制の学校であれば、2年生、3年生のこの時期に制作に励むことができるのであまり支障はきたさないでしょうが、2年制の2年生には、正直ちょっと厳しいでしょう…
であるからこそ、腹くくって、この時期は制作に励み、1年~2年の夏までで、何本ゲーム制作できるか?かもしれません。ゲーム企業は、一括採用のタイミングでスタートはきりますが、比較的、通年採用の傾向が高まってきています。この学校の事情を鑑みて、学生の成長や経験をおもんぱかれば、おのずと企業側も通年採用にシフトしていき、しっかりと制作している学生に目を向けていくことだと思います。
3カ月もあれば、1,2本はつくれますし、3カ月もあれば別人のように成長を遂げるのも、学生ですので…
もちろん、コンテストに出すことは目的ではなく、手段でしかありません。
学校は、コンテストで賞をとることが営業数値にかかわるので、そこが大きな目的の1つになるかもしれませんが
学生にとっては、あくまでも、通過点でしかなく、コンテストというタイミングと外部の他者評価を経てどんな成長をするか?が大切な経験となります。
「コンテストの対策」を学生自身がすることは、本来は、本末転倒になりかねません。
ただ、学校側での努力として、本来の目的を見失わない範囲で、本人に自信と勲章をつけてあげよう!と思って努力されることは、なんら問題がないと思います。要するに、
本質の優先度を間違えない
ことが大切だということですね。
ただ、目標や期限が設定されたほうが、人間はそこを目指して頑張ることができます。
そういう意味での手段としてコンテストを活用されるのは、アリだと思います。
なので、コンテストはどんどんだしていきましょう!
これは、次にお話しすることにも関わってきます。
やってないから、自信がない
やってないから、怖いもの知らずで過大評価
このどちらもが、「やっていないから」⇒「振り返ってないから」自身を測る物差しをもてずにいるということだと思います。やれば、うまくいかないことなんて、たくさんあります。
だけど、「次おなじ失敗をしないためにはどうしたらいいか?」を人間は自分で考えて、新たな一歩を踏み出すわけです。
だけど、
・失敗したくないから、やらない
⇒失敗は、確かに楽しいことではないので、辛いことはしたくないけど…
・何かやってもやりっぱなし
⇒やることも大変だけど、実はうまくいかなかった振り返りも結構つらい…
・やっている絶対量が少ないから、成功事例、失敗事例を比較検討できない
⇒サンプル数 n=1 では、それをエビデンスとするのは、かなり危険です。
たまたま、その1件がそうなっただけかもしれないからです。
だとすると有意な差を確認できる!とまではいいませんが、せめて3~5ケースくらいは
経験して、そこを比較検証することが大事なのだと思います。
と、自身を振り返るための材料を、そもそも「やってない」「振り返ってない」「比較検証してない」とせっかくの時間を、有意義なものにしていない可能性が高いです
で、あるがゆえに、自己評価が他者評価から乖離してしまうことが多くなるわけです。
そもそも評価基準を自分が「”なんとなく”な想い」でしかもっていない、ところに課題があり、そのせいで、自分ができるかもしれないのに、いたづらに限界=キャップを設定してしまったり、逆に、無駄にすごくできると勘違いして、2,3度酷評されると、心折れて耐えられなくなってしまうのです。
●実は、先生がキャップを決めてしまっている?
いろんな学校で話を聞くと、学生のことを卑下して話をされる先生がいらっしゃいます
謙遜しておっしゃっているのだとは思います
もちろん、逆に、ガンガン前に出てこられて、「うちの子はすごい!」とアピールされる学校の方もいらっしゃいます
いずれも、「ものを見せてください」とお願いすることにしています
これは、大学でも専門学校でも同じです
結局、その子の人間性はすごく大事ですが、エンタテインメントの世界をめざそう!という時、ましてや今のように自分でその気にさえなれば、いくらでもネットで調べて、且つ、つくることもできる時代ですからね。
そんな中で、制作や研究に打ち込んでいない子は、いったい、いつになれば、それができるメンタリティになるのか?モノがあれば、それは雄弁に物語ります
言葉でどれだけ取り繕おうと、百聞は一見に如かずだからです
ただ、逆に作品がすべてを物語るのですが、学生作品のアッパーを決めているのは、実は、先生ではないか?と思うときが、たまにあります。なぜならば、その方の想像できる範囲のものでないと、作り切らせることができないからです。もちろん、制作をして、完成させられていない、は論外です。というか、時間を使ってもったいないです。
もちろん、チーム制作の管理は難しく、なかなかゴールできないこともあると思います
ですが、特にこれは専門学校において言えることですが、
絶対的な作品数を就活開始までにいくつもたせてやれるか?
→自信と実績をつくらせてやれるか?
は、非常に大切な命題であるということです。
この大目的をないがしろにしての、「学生の自由度」や、「好きなことやらせないとモチベーションが保てない」とかは、言い訳でしかないのではないでしょうか?
九九を知らない人間に、いきなり、立方体の体積の公式を教えることはできません。考え方や作り方の「基礎」に当たる部分は、なんとしても、叩き込んであげる必要があるのです。ただし、それは、彼らの才能をつぶすことにつながってはいけません。
たしかに、「面白いことをつくりたくてきた!」と思っている最初に、
プログラミングの基礎にあたるから、数学をやろう!
と言われても、詰込み型学習が苦手だったので、大学受験しなかった子たちが多いわけですから、いきなり、テンションが下がると思います(苦笑)。
ですが、九九にあるこの数学は教えなくてはいけません。で、あれば、どういう教え方をすれば、彼らが「数学を学ぶことの意義」を腹落ちして学び、未来の制作につないでいけるか?を全力で考えるしかないのです。
これこそが、実は、今、現場で一番欠けていることかもしれません。もちろん、学生数も多く、一方的に座学で教えるしかない学校も多いと思います。
その際に、どういうやり方をすれば???と、日々、頭を悩ませておられる先生方も多いのではないかと思います。それこそ、教えている内容は別にしても、教授法、などは、情報公開して、互いに共有し、試行錯誤して、よりよきものを教えていけたらいいのではないでしょうか?
その競い合う場所として、学生だけでなく、教える側も、コンテストを活用されるのはいかがでしょうか?そのうえで、終わった後で、また先生方で集まって、今年はどうだった、来年にむけてこういうチャレンジをしてみたい…というような、
自身のキャップをあげていく行為
→それを1人で戦わず、ライバルであると同時に全国の同志と共に!
を繰り返し、切磋琢磨していくことが、結果多くの学生や企業にとって有意義な学校、先生への存在へと昇華していくのはないか?と思います。
まとめとしては…
学生は、「行動する=制作する」ことで、自身の限界を超える!
→そもそも、やりもしないで、限界を定めたり、勘違いをしないこと!
先生は、学生を自分の知見、常識内だけにおさめて蓋をしない!
→ひとりだけでなく、全国の同じ悩みを抱える先生と切磋琢磨しましょう!
ということかと思います。
学生の皆さんも、先生方ももし、思い悩まれることございましたら、わたくしまで、ご連絡いただけましたら、お時間ある限り、ご相談に乗りたいと思います。
info@farrier.jp
今回はこれまで!
ご相談、お問い合わせは…
■著者 : 馬場保仁
株式会社ファリアー 代表取締役社長。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。その後DeNAにてスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任。現在は、ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。
■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー
■第四十九回「出口に対する意識〜前編〜」
■第四十八回「ゲーム業界に就職すること」
■第四十七回「お金の話」
■第四十六回「伝える姿勢」
■第四十五回「どこをみるか?いつをみるか?」
■第四十四回「体験する重要性」
■「ゲーム教育トーク」【前編】(第四十三回)
■「ゲーム教育トーク」【前編】(第四十二回)
■第四十一回「"いま"やるべきこと〜その②〜」
■第四十回「"いま"やるべきこと」
■第三十九回「ゲームをつくるのは楽しい!」
■第三十八回「軸足をもつ」
■第三十七回「どんな経験が?」
■第三十六回「自分だけの面白いから脱却」
■第三十五回「幸せのカタチ、面白さのカタチ」
■第三十四回「プロの言葉・責任」
■第三十三回「小さな成功、大きな成功」
■「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【後編】(第三十二回)
■「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【前編】(第三十一回)
■第三十回「指導者に問われるもの」
■第二十九回「そもそも、企画の仕事って…」
■第二十八回「転職〜中級編・自分の価値を知る〜」
■第二十七回「転職〜入門編〜」
■第二十六回「リーダーシップとは」
■第二十五回「思考のスタミナ」
■第二十四回「出て行く勇気」
■第二十三回「個人でつくる・集団でつくる」
■第二十二回「指摘される勇気、指摘する気遣い」
■第二十一回「どこを見るか? どう採るか?」
■第二十回「100%の力を発揮するために……」
■第十九回「まずは、”伝える”ことから始めよう!」
■第十八回「カード少なく勝負に挑まない」
■第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【後編】(第十七回)
■第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【前編】(第十七回)
■第十六回「新人事始」
■第十五回「就職活動にみられる地方格差」
■第十四回「【思いやり】の向こう側」
■第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜」
■第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」
■第十一回「ハッカソンの功罪」
■第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」
■「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)
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■第七回「学生さんにやっていただきたいこと~後編~」
■第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」
■「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)
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■第三回「若手のチャンスとキャリアパス」
■第二回「企業×学校×学生」
■第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」
会社情報
- 会社名
- 株式会社ファリアー
- 設立
- 2016年7月
- 代表者
- 代表取締役社長 馬場 保仁