■第四十八回「ゲーム業界に就職すること」
前回は、少し生々しい話でしたが、お金について話しました。
身につまされることだったからか、多くの質問やご意見をいただきました。
身につまされることだったからか、多くの質問やご意見をいただきました。
◆あらためて、親御さんに感謝を!
私も、すぐにお金を出してあげる!ということは簡単にはできないので(でも、遠くない未来に、何か取り組みはしたいと思っています。賛同いただける方を募りたいと思っていますので、その時は、皆さま、よろしくお願いいたします)「なにかできることはないか?」を考えてみました。
前回のおさらいですが、東京のゲーム会社に就職して、親元離れると、
・家賃
・光熱費+水道代
・通信費
・食費
・税金(所得税、復興特別所得税、住民税など)
・保険、年金(実は、これが前回抜けていたので、総額、もう少しかかる)
を払ったうえで、毎月、奨学金という名前の借金を返済していかなくてはいけないわけです!
少なくとも、地方から親元離れて東京、大阪にでてくる学生さんと話す時は、
・通勤時間
・家賃
・住民税
の話をして、「生活するため」の知識のサポートもしよう!と動き出しました。
たとえば、家賃6万で…という例を前回しましたが、山手線内から出て、1時間弱で、乗り換え1回くらいで収まるところでも、探せば実は、家賃6万のところは、まずまず見つかることもわかりました!
もちろん、各種条件を欲張っていくと、どんどん収まらなくなりますけれど…
・築年数(新築?10年以内?それ以上?)
・マンション?アパート?シェアハウス?
・最寄駅からの時間
・風呂トイレ(別?ユニットバス?)
・冷暖房完備
・宅配ロッカー有無
・2F以上
・インターネット回線有無(料金も)
などなど
考えてあげていくときりがありません。
自身にとって本当に大事な条件をピックアップして、考えることでしょう…
女性であれば、セキュリティ面は大切な条件になると思いますし…
そして、実家から通えて、奨学金で就学しなくとも親御さんが全額負担してもらえた皆さん!決して、それは、当たり前のことではないので、親御さんに感謝だと思います。
私も、学生時代は「そんなの親の義務だ」くらいに思ってましたが、ここ何年かでいろいろなデータ見たり、状況がわかってくると、全然当たり前のことではないことを両親がしてくれていたんだ、ということがわかるようになり、改めて感謝の気持ちを大きくしています。
そして、具体的に感謝を口にして行動できるようになりました。40歳過ぎてようやくというのもどうかと思いますが…(苦笑)
でも、だからこそ、この連載を読んでいただいている学生さんの中に当てはまる方がいらっしゃると思いますので、今から感謝を言葉にしていきましょう!
◆奨学金の存在
大学でも半数近くが、専門学校では半数以上が、
奨学金を使って就学して、夢に向かって勉強をしているという実情があります。
そして、学費も決して安くはありません!
私が知る限りでも、東京、名古屋、大阪といった大都市に存在する専門学校で、年間100~150万円くらい必要です。ちなみに、私が各企業の皆さんに、
「専門学校にいくために、学生が負担している金額っていくらくらいかわかります?」
と聞くとたいていが、国立大学の60万前後くらいを言ってくる方が多いです。
でも現実は、私立大学文系~理系の間くらいは必要になるわけです。企業側が、その現実を知らないために、初任給や、各種手当に反映しきれていないところもあると思います。
ですが、先日行われたCESAのU18コンテストのシンポジウムでも、専修大学の藤原先生がデータを発表されていましたが、ゲーム業界の平均年収は、日本全体の平均に比べると高いものとなっています。2016年データで、
全産業給与平均年収 422万円
ゲーム業界平均年収 538万円
と100万近く高い年収となっています。
ですが、ゲーム業界(ゲームに限らずエンタテインメント産業は)は、他の産業よりも、専門学校からの就職の割合が高い業界だと思います。高学歴化が進んでいるとはいえ、大学でゲームの作り方を学べる学校は少ないですから、専門学校で制作の体験をして…と考える学生が多いのも事実です。
最近では、大学を卒業後、2年制の専門学校に入りなおして、就職活動に臨んでくる学生もいるくらいですからね!で、専門学校は奨学金を借りている割合が高い…と。なので、業界的に入社してくる新卒の子の半数近く、もしくはそれ以上が、奨学金を利用して卒業してきた学生であるという、やや特殊な産業でもあると思います。
専門学校が高すぎる!という感じで、専門学校を否定する意見を言いたいわけではありません。実際問題、ゲームを開発するための環境や、ネットワーク環境を構築したり、講師を雇用したりすれば、私立大学なみにお金がかかるのも、不思議ではありません。あとは、それに見合った講義の内容や就職指導、実績があればいいだけだと思います。
実績作りのために、精力的に、日本ゲーム大賞アマチュア部門や、GFFなど外部のコンテストにエントリーして、プロの目に留まるよう努力をされている学校は多々あります。あとは、学生と親御さんが学校を選ぶ際にそれらの情報をどれだけ吟味しているか?ということも大きなファクターになってくると思います。
また、ゲームにおいては、大学生よりも制作することを授業で学べるので、実際に制作力がつく学生もいますし、チーム制作の経験はさらに専門学校でないと難しいと思います。もちろん、大学生にもゲーム開発サークルや、既に自分たちで創業してやっていこう!という学生たちもいるので、大学生が別段厳しいというわけではありません。どちらも、学生本人に、
「自分はゲームをつくることを生業としていくのだ!」
という意思があるか?そして、その意思に向かって努力や行動をしているか?というところがポイントになります。そして、半数近くの人は、「未来の自分からお金を借りているのだ」ということを自覚しなくてはいけないわけです。
◆残業があるのは事実だが…
一昔前は、ゲームも残業が多く、私も若かりし頃は、月100時間以上の残業をしていました(笑)。 まったく、威張れることでもなんでもないんですが、好きなことに向かって邁進していたので、気にしてなかったというのが実情です。でも、自分がチームスタッフを管理するようになり、「自分と同じ感覚やペースで働かせてはいけないんだ」と気づいてからは、できる限り、スタッフは早く帰らせる代わりに、朝からちゃんときてもらうという生活をルーティンにしてもらうことをお願いしてました。
ただ、残業すれば、残業代が出るのも事実で、これが、所定の給与と賞与に加算されると、
「忙しくて使う時がない」 のに 「お金は入る」
で、良かったというところもありました(苦笑)。
でも、心身ともに健やかでないと、ミスが増えるだけですし、いまでは、月45時間以下、年間360時間以下の残業までしか基本的には、してはいけないことになっています(36協定結んでいる場合)。また、月100時間残業がつづいて、もし亡くなるなんてことになったら、過労死認定されかねません。なので、企業側も、この4,5年で相当に気を付けて労働環境や労働時間に関しては、是正をしてきています。
私が、全国の学校をまわって、ゲーム業界で働くことをレクチャーしている時も、学生本人からもそうですが、同行されてきた親御さんから質問されることもあります。
ゲーム業界はブラックですか?
と、ですね。「好きでやってる限りはブラックじゃない」とはいいません。好きでも体や心には限界があるからです。我々がプロでやる以上は、面白いものをお客様に提供することが目的です。なので、繰りかえしになりますが、心身ともに健やかな状態で仕事に向き合わないと、
・良いアイデア
・素晴らしい技術
・高いクオリティのデザイン
など
は、うまれづらいと思います。ましてや病気になったりしたら、元も子もありません。また、企業側が、「お前、この仕事好きで入ってきたのに、長時間働きたくないとはどういうことだ?」と、学生の「好き」「想い」を逆手によるような、利用するような発言をするのであれば、それは、やや芳しくない企業といえるかもしれません。
なので、「ブラックですか?」の質問には、、、
・昔に比べれば、間違いなくいまは、労働時間も制限され、実情も伴っている企業がほとんど
・ただ、納期間近、などで年に1,2回は繁忙期があるのも事実
→ここは、月45時間をこえても、年間360時間を守れる範囲で、
100時間を超過しないくらいで目指しているはず
・ただ、学生の「好き」を利用するような発言がでる企業があるとしたら、そこは該当するかもしれないが、それは、ゲームに限ったことではないはず
というお話をしています。
このあたりも、各企業の人事の方や経営者の方々は強く意識して説明をされるとよいと思いますし、CESAはじめ業界団体が率先してアピールしていっていただけると、特に、目指す学生さんとその親御さんに届くようなメッセージを継続的に出していっていただくと、何年後かには聞かれなくなる質問になると思います。(そういう意味でも先日のCESAのU18コンテストの告知シンポジウムで学生さん、親御さんに説明がなされ、且つ、それがメディアに掲載されていたことは非常に良い第一歩だと思います)
◆残業代を前提とした給与体系からの昇華
20年ほど前は、私もそうでしたが、黎明期~中間期のゲーム業界に入ってきて、だれもがガムシャラに働いて、自分の魂込めて、お客様に面白いものを伝えていたと思います。でも、そのモーレツも、安定期の今となっては、ゲーム開発の規模も大きくなってきましたし、ゲーム以外の産業に目をむける学生も増えてきました。
面白いから、好きだからが根っこにあるのは、今も、20年前もかわらないと思います。「好きだから」に関しては、昔よりも今の学生の方が強いかもしれません。それは、小学生のころから、携帯ゲーム機などで友達とゲームを遊んで成長してきた世代だからです。私の小学生の頃は、ファミコンが1983年発売なので、まだありませんでしたから…(なので、PC6001を使ってBASICでプログラムを書いていたりしたわけですね笑。売ってるゲームがなかったからつくろうと思った)
好きなのは間違いない、でも、取り巻く生活の環境が大きく変わったのも事実なので、好きなだけ、思う存分仕事をするという状況から変わっていっているわけですね。そうなると、残業代というものである程度まかなわれていたものが上限が設定されたので、毎月みなし残業代を残業しようがしまいが、いただけることになったりと企業側も社員が働きやすい環境をつくってきています。
前回のコラムで書きましたが、月の収入が22万強あれば、月15000円の奨学金を返済してもなんとかギリギリ生活をしていくことができるわけです。各企業、基本給以外に、様々な手当てやみなし残業代、賞与などで、年の収入を提供しているので、上述したような全体平均比べてゲーム業界は高くなっていると思います(上記のデータは、初任給データではないですけどね)。
ただ、まだ意識のシフトチェンジが難しいと考える経営者の皆さんは、出来るだけ早く、この残業時間が短くなったけど、生活はかわらないで済む状況で、少なくとも華美な生活をしているわけでもないのに、奨学金返済が、月15000円でも苦しいという生活をおくる新人がでてこないような体系を考慮いただけますと、更に多くの学生が夢をみて、この業界を目指してくれると思います!
そして、ゲーム業界に足を踏み入れる皆さんは、全力で、自分のつくる面白いゲームを安心してお客様に遊んでいただけるように、最大限の努力をし、且つ、日々勉強していってほしいと思います
今回はこれまで!
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■著者 : 馬場保仁
株式会社ファリアー 代表取締役社長。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。その後DeNAにてスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任。現在は、ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。
■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー
■第四十七回「お金の話」
■第四十六回「伝える姿勢」
■第四十五回「どこをみるか?いつをみるか?」
■第四十四回「体験する重要性」
■「ゲーム教育トーク」【前編】(第四十三回)
■「ゲーム教育トーク」【前編】(第四十二回)
■第四十一回「"いま"やるべきこと〜その②〜」
■第四十回「"いま"やるべきこと」
■第三十九回「ゲームをつくるのは楽しい!」
■第三十八回「軸足をもつ」
■第三十七回「どんな経験が?」
■第三十六回「自分だけの面白いから脱却」
■第三十五回「幸せのカタチ、面白さのカタチ」
■第三十四回「プロの言葉・責任」
■第三十三回「小さな成功、大きな成功」
■「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【後編】(第三十二回)
■「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【前編】(第三十一回)
■第三十回「指導者に問われるもの」
■第二十九回「そもそも、企画の仕事って…」
■第二十八回「転職〜中級編・自分の価値を知る〜」
■第二十七回「転職〜入門編〜」
■第二十六回「リーダーシップとは」
■第二十五回「思考のスタミナ」
■第二十四回「出て行く勇気」
■第二十三回「個人でつくる・集団でつくる」
■第二十二回「指摘される勇気、指摘する気遣い」
■第二十一回「どこを見るか? どう採るか?」
■第二十回「100%の力を発揮するために……」
■第十九回「まずは、”伝える”ことから始めよう!」
■第十八回「カード少なく勝負に挑まない」
■第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【後編】(第十七回)
■第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【前編】(第十七回)
■第十六回「新人事始」
■第十五回「就職活動にみられる地方格差」
■第十四回「【思いやり】の向こう側」
■第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜」
■第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」
■第十一回「ハッカソンの功罪」
■第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」
■「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)
■「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【前編】(第八回)
■第七回「学生さんにやっていただきたいこと~後編~」
■第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」
■「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)
■「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)
■第三回「若手のチャンスとキャリアパス」
■第二回「企業×学校×学生」
■第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」
会社情報
- 会社名
- 株式会社ファリアー
- 設立
- 2016年7月
- 代表者
- 代表取締役社長 馬場 保仁