【連載】ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- 第五十五回「削りだし、肉付けする」


株式会社ファリアー 代表取締役 社長の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。同氏は、セガで家庭用ゲームの開発を、DeNAではスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任していた。ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に注力していく。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。
 

■第55回「削りだし、肉付けする」





酷暑!とまさに文字で書くくらいにひどい、暑い日々が続いています。

そして、各種コンテストの締め切りも終わり、ひと段落学生の皆さんはついているころでしょう。でも、就活年の人たちは、ホッとしていられるのは「内定をもっている」学生であり、まだまだ、多くのゲーム業界志望の学生さん達は、必死に食らいついていっていることでしょう!
 
そして、就活年の1、2年前の学生さん達にとっては、夏の「インターン」の季節が近づいてきています。本番は、8月、9月に行われますが、エントリー、選考はすでに多くの企業さんで実施されており、これまた決して、ホッと一息ついている場合ではありません…学生さんとお会いすると、
 
「どこか、いいインターンありませんか?」
 
と質問されることがあります。

いやいやいや、学生にとって、悪いインターンなんて、1つもないと思いますよ!あ、でも、インターンの定義をはっきりさせないといけませんね。大きく分けると…
 
①企業体験インターン
②選考インターン
③内定者・就労前インターン

 
の3つくらいでしょうか? 今回、この記事の中で書いているインターンは、①のことをさします。
 
②の選考インターンは、実際に就活年の学生さんに対して実施されます。書類や面接をクリアして、最終の前に、1週間~2か月ほど仕事をしてもらって、決めるためです。デベロッパーさんで多い選考です。毎年大勢を採用するわけではないので、慎重になられるのは当たり前です。
 
・うちの会社にあうか?
・そもそも、週5通うことが安定してできるか?
・社内コミュニケーションできるか?
など

 
とにかくリスク少なく採用をするために、考えて実施されているわけです。この選考自体はわたしは問題ないと思っています。ただ、時に、この選考インターンが2か月を超える会社さんがでてくるようです。
 
・アルバイト代がでているわけでないなら、厳しい
・学校としても、カリキュラムを履修させられないので、まずい
・一番は、他社を受けることが拘束されていてできないのが、まずい

 
と、課題が非常に多くあります。

人間の見極めは、よほどの特殊な技術を見極めるでもない限り、1か月もみれば、わかるのではないでしょうか? 各社さんの方針にケチをつけるわけではありません。ただ、学校と学生は、自分の身は自分で守らないといけないということです。つまり、時期によっては、企業さんに対して、お断りをいれないといけないかもしれないということです。それは、就活ができなくなってしまうからですね…もちろん、9月を過ぎてとかであれば、その1社に賭けてでも、やる方がいいかもしれません…時期なども踏まえて、判断する必要があるでしょう。
 
③の内定者・就労前インターンは、文字通り、内定者に対して、入社前に会社に慣れてもらう、仕事に慣れてもらう、と4月に入社後スタートダッシュしてもらうために、アルバイトかねて指導をしているというものかと思います。学校の単位が足りていて、卒業できるならば、ぜひ、体験しておくといいのではないでしょうか?

もちろん、首都圏の学生でないと、なかなか難しいかもしれません…
 
 
■エントリーするだけで練習になる!
 
さて、では①の企業体験インターンについてです。

これは、
 
・1日 のもの
・3~5日 のもの
・1か月くらい のもの
など

 
実施期間がバラエティに富んでいるものがあると思います。

これは、いくつもの企業を覗いてみたい学生は、1日のような短期のものをいくつもエントリーすることだと思いますし、がっつりプロからの教えや制作をやりたい学生は、1週間とか1か月の長いものにエントリーするといいのではないでしょうか?
 
ただ、ここで、気を付けたいことがあります。
 
よく学生から、
 
「その会社、本選考の時は受けないつもりだし…」
「自分の本命の会社じゃないし…」
「自分にとって、ちょっと希望の業種と違うし…」
など

 
自身で幅を狭くするような発言を聞きます。そもそも、エントリーする前から、なぜ、選考を通過できると思っているのでしょうか?

エントリーしたら絶対にいれてもらえるわけではありません。

企業の皆さんもいろいろな思惑でインターンを実施されていますが、共通しているのは、「良き子と出会いたい」というもので、現場の社員も起用して、工数をかなりかけて実施されます。そのため、参加できたらどんな企業さんのインターンであっても、学生にとっては非常に貴重な経験になります。どれだけ学校でいいことを学んでいても、プロの現場に勝るものはないからです。
 
選考も、
 
・WEBでのエントリーシートorフォームに記入 → 書類選考
・グループor個人での面接
→遠方の場合は、Skype面接などもいれて実施されています
など
 
全入でないのはもちろん、規模に応じて選考をされています。

交通費が支給されるものも増えてきたので、地方の学生さんにとってもチャンスが広がってきています。また、企業によっては、日当が支給されるものもあります。拘束する以上は、中身のプログラムにはもちろん自信がありつつ、対価も支払おうということですね。もちろん、日当支給がなくても、プロからの言葉や、一緒に過ごせる時間、それまでに自分が作ってきた作品を見てもらってのコメントをもらえる、というだけでも、学びは非常に大きいです。

あ、1dayインターンシップといいながら、単に企業説明をして懇親会だけをするものもあったりしますので、そういうのがダメだとはいいませんが、できることならば、座学や演習がある学びの多いものをお薦めします。
 
で、「エントリーすることも勉強」というのは、大前提として、インターンは本選考ではない、ということです。なので、このエントリーで落ちても、本番ではないので、リスクがありません。また、本番になって初めて、企業のサイトを見て、エントリーシートに記入をする、履歴書を準備するというような就活では普通にやる行為を事前に半年から1年前に体験することができます。

どんなことが企業から聞かれるのか?もですし、履歴書の各項目に書かねばならないことも、事前に考えることができます。
 
たかだかこれだけのことですが、本選考の時期になり、必死に情報収集し、合同説明会に出かけていくような時に初めてやるよりは、事前に経験しておくことができれば…そして、面接まであるようなインターンならば、企業の人事の方とのやりとりをすることもできますし、企業の建物にいくこともできます。

もちろん、面接を受けることも、です。

面接は、あきらかに、場慣れ、回数慣れがあります。誰しも、最初からうまく話せるわけではありませんし、緊張しないわけがありません。そのためにも、事前に経験しておけば、少しは落ち着いてスタートできるでしょう。
 
また、極論、落ちる経験すらできます。本選考でいきなり「お祈り」されて、心折れる人も少なからずいるでしょう。落ち慣れしてはいけませんが、落ちたところからの立ち直り方も経験ができることは大きなことだと思います。
 
あとは、学生さん達本人だけでなく、学校の先生方も、「インターンうけろよー」と一方的に呼びかけるだけでなく今回わたしが書いているように、インターンは、
 
・就活本選考前の練習にもすごくいい!
・エントリーだけでも意味がある
・もちろん、実際にインターンにいけたら、プロからの学びは大きい!
 
ということをこんこんと説いてあげる必要があると思います。腹落ちすれば、今の学生は動ける子が多いです。
 
 
●問い続けないといけない本質
 
そして、本選考の学生を見ていても一番の山場は、実は、本質中の本質であることに気づきます。
 
「キミはどうしてゲーム開発を仕事にしようと思ったの?」
「キミがゲームをつくってどうなりたいの?」
「キミがつくりたいゲームはどんなゲームなの?」

 
といったような、クリエイターを志す学生たちが、その「志望動機」がなんなのか?を言語化して他者に伝えないといけないのですが、これがなかなかうまくいかない…

極論これさえしっかりしていれば、採ってから技術は育てよう!でも、マインドは教えられないから…と思われている企業さんも少なくないと思います。
 
・クリエイターとして成功して、一攫千金したい!
 
とかでも、いいと思います。

ただ、その際に「クリエイターとしての成功」ってなんなのか?を定義できないといけません。あと、インディークリエイターになるのでなければ、サラリーマンクリエイターになるので、給料をもらって、ゲームをつくるっていうことはどういうことなのか?も意識した言葉にならないといけません。

で、これ最近思うことなんですが、一朝一夕では出てこないと思うんです。少なくともわたしに相談してくれる学生さんにおいては、彼らが無能なのではなく!誰であっても非常にここが難しいことに気づかされます。
 
で、あるれば、これどうしたら解決できるんだろう?と考えました! これまた、答えはシンプルかつ、本質的でした。
 
上記で、インターンは本選考の練習にすごくいい!と書きました。これと同じく、基本的に、人間は、何度も反復しないと身につかないですし、曖昧なものを定義する時こそ、繰りかえし繰りかえし考えて、トライして、振り返り、再度考えて…としていかないといけません。
 
なので、わたしの思う解とは、
 
就職活動が始まってから、ではなく、1年生のうちから、大学生だろうと、専門学校生であろうと、四半期に一回、月に一回、とか間隔を決めて、
 
志望動機を…
 →考える
 →書き出す
 →他者に見せて、話してみる
  (できればこれは先生がやってあげてほしいですが、難しければ、わたしに連絡ください!)

 
やることかと思います。

自身の中に漠然としてあるものを、削りだしてこないといけないんですよね。そして、繰り返していくことで、削りだした骨に肉をつけていき、自分の考える志望動機をつくりあげないといけない、ということです。それができていれば、履歴書書く時も、これを考える時にへたプロセスのおかげで、面接になっても答えられることが多くなっているでしょう!
 
ただ、あまりにも本質的なことなので、何度も何度もやるには、かなり修行っぽくて苦しいです。ここになにがしかの遊びであったり、成長を実感できるものを入れていく必要があるでしょう!そここそが、先生方が考えて、工夫しなくてはいけないことだと思います
 
素振りしなきゃいけない
でも、素振りだけじゃ野球じゃない
野球やる=本番に近い感じでインターンにエントリーさせる
その結果、振り返って、再度素振りする!

 
というような流れにもっていけるといいですね!

繰りかえしになりますが、学生の皆さん、身近に見てくれる人いなかった場合は、遠慮なく弊社までご連絡ください!
Mail to: info@farrier.jp
 
 
それでは、今回は以上で!

 
ご相談、お問い合わせは…

 

株式会社ファリアー

 


■著者 : 馬場保仁
株式会社ファリアー 代表取締役社長。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。その後DeNAにてスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任。現在は、ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。



■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー

第五十四回「最新を知らずして…

第五十三回「ヒトがひとを採る

第五十二回「誇り、やりがい、お金」

第五十一回「キャップは、誰が決める?」

第五十回「出口に対する意識〜後編〜」

第四十九回「出口に対する意識〜前編〜」​

第四十八回「ゲーム業界に就職すること」​

第四十七回「お金の話」​

第四十六回「伝える姿勢」​

第四十五回「どこをみるか?いつをみるか?」​

第四十四回「体験する重要性」​

「ゲーム教育トーク」【前編】(第四十三回)​

「ゲーム教育トーク」【前編】(第四十二回)​

第四十一回「"いま"やるべきこと〜その②〜」

第四十回「"いま"やるべきこと」

第三十九回「ゲームをつくるのは楽しい!」

第三十八回「軸足をもつ」

第三十七回「どんな経験が?」

第三十六回「自分だけの面白いから脱却」

第三十五回「幸せのカタチ、面白さのカタチ」

第三十四回「プロの言葉・責任」

第三十三回「小さな成功、大きな成功」

「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【後編】(第三十二回)

「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【前編】(第三十一回)

第三十回「指導者に問われるもの」

第二十九回「そもそも、企画の仕事って…」

第二十八回「転職〜中級編・自分の価値を知る〜」

第二十七回「転職〜入門編〜」

第二十六回「リーダーシップとは」

第二十五回「思考のスタミナ」

第二十四回「出て行く勇気」

第二十三回「個人でつくる・集団でつくる」

第二十二回「指摘される勇気、指摘する気遣い」

第二十一回「どこを見るか? どう採るか?」

第二十回「100%の力を発揮するために……」

第十九回「まずは、”伝える”ことから始めよう!」

第十八回「カード少なく勝負に挑まない」

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【後編】(第十七回)

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【前編】(第十七回)

第十六回「新人事始」

第十五回「就職活動にみられる地方格差」

第十四回「【思いやり】の向こう側

第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜

第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」

第十一回「ハッカソンの功罪」

第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【前編】(第八回)

第七回「学生さんにやっていただきたいこと~後編~」

第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)

第三回「若手のチャンスとキャリアパス」

第二回「企業×学校×学生」

第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」
株式会社ファリアー
http://farrier.jp/

会社情報

会社名
株式会社ファリアー
設立
2016年7月
代表者
代表取締役社長 馬場 保仁
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