株式会社ファリアー 代表取締役 社長の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。同氏は、セガで家庭用ゲームの開発を、DeNAではスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任していた。ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に注力していく。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。
■第六十二回「行動・体験に勝る師なし」
わたしのライフワークでもある、
首都圏・関西圏 以外 の 学生にチャンスを!
で、毎月、全国各地を飛び回っているわけですが…
3年目に入る取り組みも(おかげさまで、毎月1回以上どこかで開催して、先日の札幌で26回目を迎えました。もう2年以上全国を駆け回らせていただいています。全国各地の行政の皆さま、学校の先生方、本当にご協力感謝いたします)やれば、やるだけ、ゲーム企業が多く存在しない地域、いな、正確には、
A:ゲームを学んでいる学生の数
B:年間の新卒採用数のその地域の合計
この2つの値が、
A > B の地域
で、且つ、首都圏や関西圏への「移動」が多く必要な地域の学生は大変だということをあらためて思い知らされます。
また、Bは、必ずしも企業数とは一致しません。1社で100人を超える採用をされる企業さんもありますので(残念ながら首都圏、関西圏以外のところでは、ゲームでは1社ではわたしが知る限り、ないとは思いますが(2019年4月現在))企業数の多さだけでは解決しません。
企業数が多くても新卒採用はあまりされていない地域もありますし、新卒採用される企業数は多くても、それ以上にその地域のゲーム系学校の1学年の合計数がかなり多い地域もあります。
政令指定都市で、人口が50万人超える地域であれば、やはり学校数は多いですし、ゲームを志す学生さんも多く見受けられます。が、必ずしも、50万人以上都市、20都市ありますが、
首都圏:さいたま市、千葉市、横浜市、川崎市、相模原市
関西圏:京都市、大阪市、堺市、神戸市
その他:札幌市、仙台市、新潟市、静岡市、浜松市、名古屋市、岡山市、広島市、北九州市、福岡市、熊本市
と、首都圏、関西圏から離れたところに、11都市も存在します。もちろん、名古屋、岡山あたりは、関西圏に出やすいとはいえますが…
そして、札幌、福岡には、ゲーム企業も数多く存在しますので、まだ、比較的活動しやすいことでしょう(北九州や、熊本も、福岡には比較的でやすいでしょう)
そして、そうでない土地に生まれ落ちた人は、どうすればいいのか?
そう、「移動」するしかないんです
もちろん、地元に残り、フリーランスでやる!ことも不可能ではないと思います。ただし、その場合は、
①営業力 → 仕事をとってこれる力
②独創性 → 遠く離れていても、その人だからこそ、仕事したいと思わせる価値
が必要となります。
極論、②が素晴らしく、大勢の共感を生むくらいのレベルであれば、インディクリエイターとしてやっていくこともこのご時世、不可能ではないかもしれません…圧倒的な孤独に耐えないといけないとは思いますが(ただし、これは地方だろうが、首都圏だろうが同じことです)
そして、①をみにつけるには、なんらかのコネクションがないと難しいと思います。
何も縁故の無い人がいきなり、メールでアポ取りをしても、相手にしてもらえないでしょうから…
わたしのところにも、時折、飛び込みやメール一本で飛び込み相談にこられる、学生さんも、大人の方も、行政の方も、いろいろいらっしゃいます。
大きな会社ではないですし、そもそも、
・地方からゲームクリエイターを夢見る人を支援すること
・地方創生(ゲームで)
など
は、弊社の理念にそうところであるので、時間のある限り、お会いして、ご縁があればいろいろ相談にのらせていただいてはいます。ただ、そうやって自身で「行動」して結果にむけて動こうとする人は、まだそんなに多くないでしょうし、実際問題、学生には「交通費」という大きな問題があります。
最近でこそ、企業さんがそのあたりをおもんぱかって、本選考どころか、夏のインターンシップ、1dayインターンシップででも交通費を上限はありますが、出してくださるところが増えてきました。
もちろん、首都圏や関西圏の学生さんとも、出会いたい!というのは大前提としてあるでしょうが、地方にも眠っている優秀な、熱意ある人材がいないか?とどん欲に考えていただける企業さんが増えてきた、ということだと思います。
また、SNSなどを拝見していると、本当に多くの企業さんが、地方をまわり、説明会を実施されていることに気づかされます。
もちろん、企業さんは自社の利益追求のために、投資として実施されていると思いますが、その額面通りのことだけで、あれだけ精力的に活動することは難しいと思います。つまりは、そこには、やはり「想い」があるということです。
特に、デベロッパーさんで元々開発やられていたり、今も現役の方々が開発のかたわら、地方を回っておられます。それは、善意なくしてはできませんし、会社の利益のためだけでも、なかなかできないことです(いくつかの企業さんの採用担当の方の行脚をSNSからトレースしてみると、頭がさがる、しかでてきません)
つまり、企業の皆さんは「覚悟をもって、行動されている」わけです。
もちろん、プロ野球のスカウト同様に、「いちはやく、優秀な学生を発掘したい!」という願いもあるとは思います。でも、出会って、よいな…と思った学生全員を採用できる会社は、1つもないわけです。でも、採用担当の皆さんは、
「かかわった以上は、少しでもプラスになれば」
と、作品をみて、ポートフォリオをみて、コメントを返して指導をしてくださっていると思います。わたしも、DeNA時代に数多くの学校さんをまわらせていただきましたが、
「ああ、ポテンシャルを感じる…でも、いまうちの会社のターゲットじゃない」
「うーん、この子は、必ず成長しそうだけど、即戦力性がやや低い…」
「ああ、このタイプの子は既に今年内定出しちゃったからな…いい子なんだけど…」
と、出会って、業界に来てほしい!でも、うちではもう…ということも、まま、遭遇されていると思うのです。
なので、わたしは、思い切って、独立して、中立の立場になり、数多くの企業さんに学生さん、特に地方の熱意ある、ポテンシャル高い学生さんをご紹介して、就職活動・採用活動を支援することをしているわけです…なかなか、学生をでなく、取り組み自体をご理解いただけないこともありますが、こればかりは、ご縁とタイミングなので、信念もって継続していくしかない…そのためにサラリーマンでなく、自分の道を歩みだしたのだから、行動したのだから、と、心折れかけるたびに自分に言い聞かせていますw
ただ、ここで次なる課題となってくるのが、学生たち自身です。
・先生たちに、手取り足取り、教えてもらうのは当たり前
・すべてが与えられると思っている
・きてくれるなら、行くけど、そうでないなら…
と、とにかく、主体的に行動しない学生が多いのです。
たしかに、1つには、資金不足で、行動しづらいのはあるでしょう。でも、毎年、北は北海道から、南は沖縄まで、全国津々浦々から、首都圏や関西圏の数多くの企業に内定とり、入社していきます。とにかく、「行動」しないと、話が始まらないのです。
そこを、選考やインターンで、交通費を一部負担してくださる企業さんがでてきている、これを活用しない手はありません!!
そして、まもなく今年も、インターンのエントリーが始まります。この連載でも繰り返し申しておりますが、
・エントリーだけでも勉強になる!
→選考でおちても、本選考じゃない!
→企業の求めるエントリーフォーマットを体験できる
・企業の建物に入ることができる
→完全AWAY空間に入るだけで、最初は力が出せません!慣れましょう
・企業の方と話すことができる
→「おとな」と話すだけでも、簡単じゃありません、それが、企業の方ならなおさらです
・グループワークなどで他の学生と接することができる
→これまたAWAY空間での体験
→本選考で、いきなり、グループディスカッションだった時など、なかなか力を発揮できません
→他校の学生と触れること
→選考を潜り抜けてくるような学生たちの実力を知る
など、良いことばかりです! もちろん、その企業さんを知ることができますし、企業の方から考え方や技術を教えていただけるのは、言うまでもありません!
そして、その「体験」はネットで見たり、先生や友人にきいただけでは足りません! なぜなら、自分がいずれその場に飛び込まないといけないのですから、自身の体験以上の情報は存在しないからです。また、体験しないことには、本選考前のレベルアップ、慣れることはできません。
どこまでいっても、自分がまずは、前にでないと、一歩を踏み出さないと、いけないということです。
企業さんは門を開けて待っていてくれています! ですが、そこの続く道に一歩を踏み出すのは、どこまでいっても自分でないといけない、ということです!
そして、それは、まだ1年生だ、2年生だ、だから自分たちに関係ないということもありません。早い学年から挑むことで、ふりかえり、課題も見えてきますので…
すべては体験しないと始まらない
そして、やりっぱなしでもいけない!
ゲームの制作もつくりっぱなしでなく、必ず振り返りをしましょう!
同じミスを2度繰り返してはいけません。
今回はこれまで。
■著者 : 馬場保仁
株式会社ファリアー 代表取締役社長。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。その後DeNAにてスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任。現在は、ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。
■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー
■第六十一回「人をみきわめる…」
■第六十回「按図索駿(あんずさくしゅん)」
■第五十九回「”敬意” と “覚悟” ~採用チームと選考項目~」
■第五十八回「学生から学ぶこと」
■第五十七回「なにごとにも、準備が大切」
■第五十六回「"When the student is ready, the teacher appears."」
■第五十五回「削りだし、肉付けする」
■第五十四回「最新を知らずして…」
■第五十三回「ヒトがひとを採る」
■第五十二回「誇り、やりがい、お金」
■第五十一回「キャップは、誰が決める?」
■第五十回「出口に対する意識〜後編〜」
■第四十九回「出口に対する意識〜前編〜」
■第四十八回「ゲーム業界に就職すること」
■第四十七回「お金の話」
■第四十六回「伝える姿勢」
■第四十五回「どこをみるか?いつをみるか?」
■第四十四回「体験する重要性」
■「ゲーム教育トーク」【前編】(第四十三回)
■「ゲーム教育トーク」【前編】(第四十二回)
■第四十一回「"いま"やるべきこと〜その②〜」
■第四十回「"いま"やるべきこと」
■第三十九回「ゲームをつくるのは楽しい!」
■第三十八回「軸足をもつ」
■第三十七回「どんな経験が?」
■第三十六回「自分だけの面白いから脱却」
■第三十五回「幸せのカタチ、面白さのカタチ」
■第三十四回「プロの言葉・責任」
■第三十三回「小さな成功、大きな成功」
■「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【後編】(第三十二回)
■「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【前編】(第三十一回)
■第三十回「指導者に問われるもの」
■第二十九回「そもそも、企画の仕事って…」
■第二十八回「転職〜中級編・自分の価値を知る〜」
■第二十七回「転職〜入門編〜」
■第二十六回「リーダーシップとは」
■第二十五回「思考のスタミナ」
■第二十四回「出て行く勇気」
■第二十三回「個人でつくる・集団でつくる」
■第二十二回「指摘される勇気、指摘する気遣い」
■第二十一回「どこを見るか? どう採るか?」
■第二十回「100%の力を発揮するために……」
■第十九回「まずは、”伝える”ことから始めよう!」
■第十八回「カード少なく勝負に挑まない」
■第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【後編】(第十七回)
■第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【前編】(第十七回)
■第十六回「新人事始」
■第十五回「就職活動にみられる地方格差」
■第十四回「【思いやり】の向こう側」
■第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜」
■第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」
■第十一回「ハッカソンの功罪」
■第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」
■「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)
■「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【前編】(第八回)
■第七回「学生さんにやっていただきたいこと~後編~」
■第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」
■「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)
■「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)
■第三回「若手のチャンスとキャリアパス」
■第二回「企業×学校×学生」
■第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」
会社情報
- 会社名
- 株式会社ファリアー
- 設立
- 2016年7月
- 代表者
- 代表取締役社長 馬場 保仁