【連載】ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- 第六十三回「志望動機とは何か?」


株式会社ファリアー 代表取締役 社長の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。同氏は、セガで家庭用ゲームの開発を、DeNAではスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任していた。ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に注力していく。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。
 

■第六十三回「志望動機とは何か?」

 

ラグビーワールドカップの日本代表選手の活躍に胸を熱くしながら、原稿書いてます!

と、いいますか、本当に間をあけすぎですね…すみません

60回以上も書いてくると、課題や理不尽、怒りのようなものに出会い、私自身がこのコラムを書く「動機」がないと、なかなか筆が進みませんでした…

ですが、この夏から秋にかけて、全国をとびまわり様々な方とお話しをさせていただき、ふつふつと湧き上がるものがでてきましたので、ここから連続でまた何回か、お送りしようと思います。東京にいるだけでは気づくことのできないことが、全国をまわりますと沢山出会うことができます。

学生の課題、企業の課題、学校の課題、あげればキリがありませんがどれも悪意がないものほど、実は深刻だったりもするという厄介な悲しい事情もあったりします。微力ではありますが、気づいたものは、警鐘を促し、自分自身のACTIONで少しでも良き方向にかわるきっかけとなれば、と思い活動を継続していきたいと思っています。

わたし一人で変えられることは少なく、一緒に本気になってくださる方がどれだけいるか?そのためには、わたしが真摯に向き合い、全力で愚直にぶつかっていくしかないと思っています。

ラグビー日本代表選手の皆さんは、日の丸を背負い、「自分のため」もありますが、周囲の皆さんや感謝する対象の皆さんのためにも、頑張ってきてこられたと思います。
もちろん、最初の動機は、

・憧れの選手を見て
・ドラマ「スクールウォーズ」を見て
・たまたま、見に行った試合を見て…
とか


あったと思います。「きっかけ」という奴ですね。

これは、ゲーム業界、エンタメ業界を目指す学生さんにとっても同じことだと思います。

・昔遊んだゲームが面白くて
・兄弟でプレイしてたゲームが忘れられなくて
・学校で憧れのクリエイターに会って話をして
とかとか


やはり、「きっかけ」は似たような感じのことが「過去に」あったのだと思います
そして、就職活動の際に、エントリーシートや、履歴書でも、

「あなたが、この業界を目指した(クリエイターになろうと思った)動機を書いてください」

というものや、面接でも、たいていの企業では真っ先に、

「あなたが、この業界を目指す、志望動機を教えてください」

と聞かれると思います。

●「動機」を確認するのは、学生だけではない…
業界でなく、「その会社」を志望する動機を聞くのみで面接が始まる企業さんもあるとは思います。

ただ、ぶっちゃけその1社しか受けないはずはありませんし、その企業への忠誠心を確認するために、企業に対する志望動機を聞いてるのであれば、ナンセンスだと思います(ただ、学生の皆さん、誤解しないでください。その企業さんを受ける際は、その会社のゲームや作品を少なくとも1つは触れて、自分なりの理解や分析、感想を持っておくことは絶対に必要です。それは、選考をしてくださる方への礼儀ですし、それなくして、なにを面接で言ったところで、「好きと言ってくれなくてもいいけど、興味関心ゼロなら、受けてくるなよ」と思われても仕方のないことだからです)。

これからは、18歳人口の減少が始まっているので、受けてくれる学生さんの数も年々、減少していくのですから…

採ってやる から、 仲間としてJoinしてもらう 時代へ

の動きは既に始まっていると思います!ちょっと横道にそれますが、この時代の変化の動きは、各企業とも、

「人事」の方は理解されていることが多いが、
面接や選考している「開発」の方が、気づかれていないことが多い…


というのも、よく見かけます。それは…

①人事の方が、開発の方に遠慮なさっている
→ゲーム開発に関して、現場に対してリスペクトがあるため
②人事の方が、開発の方に言っても聞かない(苦笑)
→これは現場の方が、人事の方の話に耳を傾けないためにおこります
③「俺たちのころは●●だった」という話…
→これは、選考にでてこられる方が40代以上の場合に、起きえます

「ものづくりの本質」は私もかわってないと思っていますが、業界の人気や、働き方の考えなどはあきらかに時代によってかわっていくものですので、過去の善し悪しでなく、「いま」を見つめないと、誰も受けてくれない企業になりかねません…

いずれにしても、多くの課題は、人事の方よりも、開発の方にあることがよく見受けられます。でも、開発の方も決して、頭が硬いわけではありません。

ただ、単に、開発という仕事は、中にこもってやることが多く、会うとしても外の協力会社さんの方と会うのが関の山で、一部の「学校周り」をしているような方を除けば、NOWの学生さんに会って、話をする機会はそれほど多く持ちようがないからです。

開発に真摯に向き合っている方ほど、そうだと思います。そもそも、わたしも開発者なので、よっくそこは理解しているつもりです。でも、環境起因にしていても、問題は解決しない…そこに目を向けてほしいのです!

あ!でも1つだけ、開発の方に苦言を呈させてください。それは…

「採用は、我々開発の【本業】じゃないので…
人事が、もっといい学生を集めてきて、我々が面接する意味があるようにしてほしい」


などと、「本業ではない」という言葉をおっしゃる方がいらっしゃいます。

こう考えられる方は、採用から距離をおかれたほうがいいかもしれません。本業でない と思っておられるということは、「本気ではない」ということになります。何事も「わがこと感」をもって、自分の属する会社を少しでもよくしよう!という気概の溢れる方こそが採用に関わった方がいいのです。

なぜなら、この手の「気持ち」「気概」にあたるものは、うまく言語化できませんが、学生と対峙する際に学生は気づいてしまいます。雰囲気に現れるのです。ここも、人事の方や上長の方が、選考・採用に関わっていただく開発の方の「動機」を明確にしなくてはいけない、ということだと思います。わたしの考えでは、

給料をいただいて仕事をしている以上、「本業でない仕事」など存在しない

と思っています。「得手・不得手」「餅は餅屋」という話であればわかります。

人事の方に、ひとりで美大に行って、ライブペインティングをして、学生の心をひきつけてこい!などというのは、おかしな話なわけです。でも、その方の得意とする業をもちいて、学生の心を掴んでくるのは立派な本業だと思います。

その方のスキルに企業は給料を払っています。それが、開発であろうが、採用であろうが、そのスキルを使っての行為であるならば、なんであれ本業なのですw

もちろん、近視眼的に考えれば、直近でお金を生み出すのは、開発の人材ならば、ゲームをつくったほうがいいとは思いますが、リソースを確保し、会社を強くしていくこと、これも、大事な仕事です。兵站を確保することなく、戦える戦場がどこにあるでしょうか?

●伝えなくてはいけない「動機の構造」
さて、本題に戻ります。

「業界への志望動機」ですが、わたしも年間1000人をこえる学生さんとお会いするので、毎度のようにお聞きしますが、たいていの場合が、この「きっかけ」のエピソードを聞かせてもらえるのが関の山です。

でも、これ「過去」の話なんですよね…もしくは、「思い出」でしかない…友達との間での話であればいいと思いますけど、

就職活動の採用の場

で聞かれて、果たして、必要十分条件を満たしているでしょうか?

「きっかけ」「起こり」は、要素の1つではあると思います。

他人に共感を与えるためには、何らかのエピソードを魅力的なシナリオにして伝える必要がありますので。そうなった時に、「起承転結」で初見のものは受け入れることになれている我々は、「起こり」から話を始めてくれることは、別段問題はないのです。

でも、結果、最終的に、「で、いまはどうなの?」「この先どうしたいの?」がないと、働くということに関しての動機には、たくさん欠けていると言わざるを得ません。つまり、聞き手に伝わるには「きっかけ」「思い出」だけでは不足ということです。

何が正解とは一概にはいえませんが、過去だけでなく、現在、未来も含めての動機があると、なおのこと相手には伝わりやすくなるのではないでしょうか?

過去:きっかけ

は、いいとして、現在、未来とはいったいなんでしょうか? ここは唯一解ではないので、あくまでもわたしの見解を述べさせていただきます。

きっかけは。あくまでも「志すためのきっかけ」に過ぎず、たいていの学生さんは小学生時代くらいの話をされます。それはそれでいいと思うのです。無理やり、今に近い高校卒業したあとの話をされても、いきなりそれを一生の仕事にしようと思ったのか?と、やや、いぶかしげに思われかねないので…(もちろん、目覚めるのは、いつ目覚めるかわからないので、大学生になってから志した!というのがNGではありません)

きっかけは、過去なわけです。では、現在になってもこの道を志す理由はなんなのでしょう?子供のころは、いろんな職業に憧れます。それこそ今であれば、youtuberなども子供たちのあこがれる職業であるというデータもあったりします。

でも、だんだん、成長するにつれ、世の中のことがみえてきたり、お金の事情などもあり、趣味ですませて仕事は別にするという選択肢もあると思いますし、仕事が決して人生のすべてではありませんからね。

それでもなお、この業界に足を踏み入れようとしている、ということは、今になっても、志す理由があるはずです。それは、何なのか?エピソードを込みにして語れる必要があります。そして、それは、できれば、過去の「きっかけ」にもつながるストーリーだと、聞き手には自然に受け入れられるでしょう。

もちろん、真逆に理由になっていて、ギャップから興味をもってもらえるというのもあるかもしれません。いずれにせよ、「今も志望する理由」が必要だということです。

そして、理想はそこに更に「未来」を見据えた野望や成長イメージをともなう動機があるとGOODだということです。
 

過去「●●というきっかけで、業界を志し」
現在「きっかけで、思ってはいたけど、■■という技術にふれたら、楽しすぎてこれを仕事にしたいと思い…」
未来「1つの技術だけでなく、新たな技術に関心を持ち続け、先端技術で人々を笑顔にできるのはゲームが一番だと思った」

だから、今もなおゲーム業界を志望する気持ちは冷めやらず、こうして就職活動をしています! みたいなことを語ることができたら、聞き手は、時系列にのっとり、そして未来もみすえた考えに、共感を示すところまではいかないまでも、興味を示さないということはないのではないでしょうか?

わたしは全国で「駿馬 ~ゲームクリエイター育成講座」などの勉強会をしても、常に「伝えること こそがゲームにおいては一番大事なことである」ということを学生諸君に話しています。伝えなければ、始まりませんし、伝わらない限り、独りよがりの物をつくっても商品であるゲームの必要条件を満たせないからです。

そして、案外自分のことはわかっていないことが多いので、書き出して、このあたりは整理してまとめるといいのではないでしょうか?

では最後に…

・動機を明確にする
・過去→現在→未来 とつなぐ時系列にのっとた動機を可視化しよう
・伝えるための工夫をしよう


これが今回のポイントとなります。

来年は、東京五輪があるおかげで、採用活動、夏季インターンに大きな影響が出ます。速い動き出しと、動機の整理をできた人間が「負けない」戦いをすることができます。ぜひ、迅速な行動開始をしてください!そのためにも、必要に応じて、弊社の勉強会も活用くださいw

今回はこれまで!


第32回 駿馬 KANSAI 京都
11月24日(日) 京都コンピュータ学院

https://shunme-32.peatix.com/

 
ご相談、お問い合わせは…

 

株式会社ファリアー

 


■著者 : 馬場保仁
株式会社ファリアー 代表取締役社長。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。その後DeNAにてスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任。現在は、ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。


■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー

第六十二回「行動・体験に勝る師なし」

第六十一回「人をみきわめる…」

第六十回「按図索駿(あんずさくしゅん)」

第五十九回「”敬意” と “覚悟” ~採用チームと選考項目~」

第五十八回「学生から学ぶこと」

第五十七回「なにごとにも、準備が大切」

第五十六回「"When the student is ready, the teacher appears."」

第五十五回「削りだし、肉付けする」

第五十四回「最新を知らずして…

第五十三回「ヒトがひとを採る

第五十二回「誇り、やりがい、お金」

第五十一回「キャップは、誰が決める?」

第五十回「出口に対する意識〜後編〜」

第四十九回「出口に対する意識〜前編〜」​

第四十八回「ゲーム業界に就職すること」​

第四十七回「お金の話」​

第四十六回「伝える姿勢」​

第四十五回「どこをみるか?いつをみるか?」​

第四十四回「体験する重要性」​

「ゲーム教育トーク」【前編】(第四十三回)​

「ゲーム教育トーク」【前編】(第四十二回)​

第四十一回「"いま"やるべきこと〜その②〜」

第四十回「"いま"やるべきこと」

第三十九回「ゲームをつくるのは楽しい!」

第三十八回「軸足をもつ」

第三十七回「どんな経験が?」

第三十六回「自分だけの面白いから脱却」

第三十五回「幸せのカタチ、面白さのカタチ」

第三十四回「プロの言葉・責任」

第三十三回「小さな成功、大きな成功」

「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【後編】(第三十二回)

「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【前編】(第三十一回)

第三十回「指導者に問われるもの」

第二十九回「そもそも、企画の仕事って…」

第二十八回「転職〜中級編・自分の価値を知る〜」

第二十七回「転職〜入門編〜」

第二十六回「リーダーシップとは」

第二十五回「思考のスタミナ」

第二十四回「出て行く勇気」

第二十三回「個人でつくる・集団でつくる」

第二十二回「指摘される勇気、指摘する気遣い」

第二十一回「どこを見るか? どう採るか?」

第二十回「100%の力を発揮するために……」

第十九回「まずは、”伝える”ことから始めよう!」

第十八回「カード少なく勝負に挑まない」

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【後編】(第十七回)

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【前編】(第十七回)

第十六回「新人事始」

第十五回「就職活動にみられる地方格差」

第十四回「【思いやり】の向こう側

第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜

第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」

第十一回「ハッカソンの功罪」

第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【前編】(第八回)

第七回「学生さんにやっていただきたいこと~後編~」

第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)

第三回「若手のチャンスとキャリアパス」

第二回「企業×学校×学生」

第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」
株式会社ファリアー
http://farrier.jp/

会社情報

会社名
株式会社ファリアー
設立
2016年7月
代表者
代表取締役社長 馬場 保仁
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