株式会社ファリアー 代表取締役 社長の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。同氏は、セガで家庭用ゲームの開発を、DeNAではスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任していた。ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に注力していく。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。
■第六十四回「”スタイルな”●●(前編)」
ほんとにサボり気味なこの連載(もはや、連載ですらないw)
今年も、さっそく、いろいろな学生さん、学校さん、企業さんと関わらせていただかせていただいています。その中で感じた…正確にはこの1,2年、もやもやと自分の中にあったものが1つのモデル化できたので、ここでお話ししようと思います。
まず、ゲームやエンタテインメントの業界は、常に「人不足」です。これは、この10年以上、ずーっとかわりません。毎年、100名以上採用される会社も、まだまだ多くありますし、デベロッパーさんにおかれましても、毎年若干名でも、新卒採用を継続されています。
中途採用に関しては、それ以上に、ニーズがあります。(もちろん、新卒に比べて、Joinしてすぐ活躍が見込まれる「即戦力」人材を求めておられますが)
もちろん、必要とされる職種は、そのとき、そのときに応じて異なるところがあります。「優秀な人材」という曖昧な基準を除けば、「〇〇のタイミングには戦力になりうる人材」を欲しておられるわけです。
●「スタイルな」転職者
この〇〇のタイミングが、中途転職であれば、「なじんで、その後」という定義をされていることが、求人者、求職者、ともにあると思います。ただ、この「なじむまでの時間」が、求人側と求職側でイメージ(もしくは、選考中に話されていた言葉から求職者が勝手にイメージしていたもの)から乖離していると悲劇がおこります。
わたしも転職エージェントとしての顔もありますので、転職相談や求職者の方に話をするときに言っているのは、
「転職先が何と言おうと、Joinした1日目から、
期待以上の力、もしくは、その片鱗を感じさせないといけない」
というものです。特に10年以上、新卒で入られた会社に在籍し、初の転職をされる35歳以上の方などですと、「自分は業界も長いので、3カ月以内くらいに慣れていけば、おのずとできるようになっているだろう…」とたかをくくっておられる方がいます。
はっきり言います、それは間違っています!
中途転職組は、育成の対象ではないからです。
もちろん第二新卒のような感じで、25歳以下で転職をされる方もいらっしゃいます。その方々は、まだ採用側もポテンシャル採用、ジュニア枠で採用と考えてくれるところもあるでしょうから、育成期間、馴致期間もあるかもしれません。
でも、基本、中途採用で企業が、特にその現場が求めているのは、
プロ野球でいうならば、外国人助っ人orFA選手
である、ということです。もっと極論いえば、スマホ系の若い会社であれば、
救世主(メシア)
を求めているところもあると思います。なので、Join初日からそのすごさの片鱗を感じさせて採用がまちがっていなかった、今年はいけそうだ!みたいに感じさせないといけないわけです。プロ野球も今ちょうどキャンプの季節ですが、
新助っ人■■ フリー打撃で柵越え××本連発!
FA加入△△ キャンプ初日からブルペン入り!気合を見せる
とかとか、メディアが注目して記事になりますよね? あれと同じことが社内でおきているということです。だけど、10年以上会社つとめしているとそこに「平和ボケ」を発生している方がたまにいらっしゃるのです。繰り返します。Join初日から、Valueをだしましょう!(もしくは、その片鱗を感じさせましょう)
なので、逆に言えば、内定~入社までの時間を有効に使いましょう!勉強や研究、こういった時が一番テンションも高くできるはずですので!
●「スタイルな」先生
求人が減っているわけではない、という話をしました。
ですが、新卒の就職活動において、学生数が減り始めているのに、就活が楽になったというのを学生からきいたことはありませんし、企業さんから、とりやすくなったわーというのをきいたこともありません。依然として、難しい、という状態が継続していると言っても過言ではないでしょう。
学生においては、「つくること」が、誰でも容易にできる環境がある状況になってきたので、作品をもって就職活動に臨みやすくなってきた「はず」です。
ですが、環境が整ってきたことによって、とりあえず、動くものができて、わーい!で終わってしまっている学生も多いかもしれません。もしくは、たとえばエンジニアであれば、ゲームエンジン偏重学習で、CやC++で必死につくってきていた学生に比べ、本人は頑張ってきたつもりでも、企業ニーズからずれている、といった不幸があるのかもしれません。
たしかに、この1、2年で、企業さんにおいては、ゲームエンジンでの制作だけでは不足とし(エンジニア選考で)プログラムの国家試験の合否や資格を重視するわけではありませんが、基本情報技術者試験の午前にあたる部分くらいは、やはり必須だろう?という考えを示されるところも増えてきました。当たり前と言えば当たり前なのです。
・コンピュータが何で動いているのか?
・プログラムとは、なんなのか?
・メモリやポインタとは?
・アルゴリズムとは?
など
自身が技術として、腕として使うものの基本を知らないのは非常に恐ろしいことですし、基本や土台をしらない人間が「作る側の人間」「プロ」として応用や自分ならではの技を構築できるとは、考えづらいですしね。
ただ、時折、わたしが全国回っていると、学生引き連れて相談にいらっしゃり、「馬場さん、基本情報技術者の資格試験って意味ありますか?」と聞かれ、わたしが「資格の合否自体が採用に大きく寄与することはないと思いますが、資格試験の範囲の勉強をすること自体はプログラマにとって大事なことだと思いますよ」と答えると、学生にむきかえり、「な?馬場さんもおっしゃってるだろ?資格試験に意味なんてないから、もっとゲームつくらないと」とおっしゃる先生がいらっしゃいます…
繰り返しますが、わたしは、基本情報の出題範囲を知識、勉強して網羅すること自体は意味があると言っています。ただ、業界が合格していれば、いれてくれるわけでも、有利にはたらくわけでもない、と言っているだけなのです。(もちろん、不利にはたらくことはない!)
自分の指導に寄せた情報操作にわたしのコメントを使われるのは甚だ心外ですが、わたしが目の前にいてもそういわれる方がいらっしゃるので、こういう場であらためてお話ししておこうと思いまして…。
もちろん、学校のカリキュラムから2年コース、3年コースの専門学校さんは、スケジュールの関係上、
・ゲーム制作
・基本情報技術者試験(国家試験)
のどちらをとるか?で泣く泣く片方を諦めるor薄くしておられる学校もあるでしょうし、前者は独学でしづらく、学校であるメリットだと考え、後者をサークルや独学+フォローで補っておられる先生もいらっしゃいます。
どっちかは、不要、というような極端な考えをされて、学生の努力しないといけない方向性を狭めている先生は、やはりあまり結果にもつなげておられないと思います…でも、「先生」という肩書は学生には重い存在です。その重い存在の方が、
「自分が生き残るために、学生を抑え込むためのスタイル」
に、こういった選択が使われていると厄介です。
なぜ、保身につなげられるか? ゲーム制作は明確な成功失敗を判断できる人が各学校にいる確率が低いですし、コンテストも受賞できる人は一握りで、且つ、常連校に持っていかれることが多いです(常連校はそこへの対策をしっかりして、カリキュラムも構築されているからですね)でも、資格試験は明確に合格者数も、合格者率もでてしまうので、KPI設定されてしまうと、その先生自体の成果が明確にとわれてしまうからですね…
もちろん、そういった保身のためだけに、こういったいやらしい選択をしている先生ばかりではありません。
繰り返しますが、スケジュールの観点から、「個人、チームで就活までに何本ゲームをつくらせるか?」に向け必死に腐心されている学校の先生もちゃんといらっしゃいます。玉石混交なんですが、厄介なことに専門学校は首都圏、関西圏、札幌、福岡、名古屋といった地域を除くと、それほど選択肢が多くありません…地元に残らないといけない学生…は慎重に選ばないといけない、といっても…なのです。
地方が全部だめなのではありません! ちゃんとやられている学校さんも多くありますので、そういった学校や学生さんのいらっしゃるところを目指して、駿馬や駿馬とねっこを開催させていただております!来年には、そういった
地方の学校さんだけを集めた企業向け作品展も首都圏で実施!
したいと思っています。「うちもそんなのあるなら参加したい!」と思われる学校さん、いらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください!
話し戻しますw
昨今の採用基準では、チーム制作だけでなく、個人制作のものも、ちゃんと見せてほしいという企業さんも増えています。
つまりゲーム系のプログラマめざすには、
①個人制作のC,C++作品
②チーム制作のC,C++作品
③個人制作のゲームエンジン作品
④チーム制作のゲームエンジン作品
で、①>②>③、④のような優先度になりつつあるということです。ただし!いずれにしても「完成」して、「第三者に遊んでもらい」「振り返り」「改修されていること」が大事になります。つくりっぱなし、思い出つくりだけのゲームは、他人に見てもらうものでないからですね。
ポイントは、学校でこういった意識の上で、カリキュラムが構築され、指導ができているか?ということです。学生が自主的に勉強、制作して、企業の選考を通っていくのであれば、学校にいかなくてもいいわけです。日本では「新卒という身分」が、一括採用制度であるがゆえに大きく左右するために、学生は、この「新卒という身分を買う」ために学校に所属するという手段を講じています。
が、それだけに学生はそのためだけに、学校に所属しているわけではありません。そのためだけであれば奨学金を借りてまでいくのは、ややしんどいです。
やはり、学校に来たからこその学びや、仲間が得られないと厳しいと思います。これまで学校というビジネスは、子供が増え続けていたので、卒業してくれればOKというような甘い考えのところもあったと思います。ですが、18歳人口は既に横這い~減少を始めているわけで…卒業したらどうなるか?の「出口」が保証されないと(もちろん、学生本人の努力が必要なのは間違いありません)「入学してもらえない学校」になりかねません。
ゲーム専門学校であるようなスタイル
の学校の善し悪しを見極め、自身の学習スタイルとあった学校選び、厳しくも導いてくれる先生のいる(スタイルでない先生のいる学校)学校を体験授業から見極める…など必要かと思います。
いまは、
・ネットにある公式サイト(学校) →知る
・ネット上にある評価情報(これは玉石混交なので、うのみしない)→調べる
・オープンキャンパス、体験授業 →体験する
をしたうえで、判断する!があると入口の段階では間違いは減るでしょう。あとは、自分が必死に学び、つくり、評価をうけるをやるしかありません!
さて、今回は「スタイルな」●●という話題で書いてきました。ただ、まだ書きたいことの半分しか書けていないので、前編とさせていただき、次回後編で、他の「スタイルな●●」を語らせていただきたいと思います。
今回は以上!
■著者 : 馬場保仁
株式会社ファリアー 代表取締役社長。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。その後DeNAにてスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任。現在は、ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。
■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー
■第六十三回「志望動機とは何か?」
■第六十二回「行動・体験に勝る師なし」
■第六十一回「人をみきわめる…」
■第六十回「按図索駿(あんずさくしゅん)」
■第五十九回「”敬意” と “覚悟” ~採用チームと選考項目~」
■第五十八回「学生から学ぶこと」
■第五十七回「なにごとにも、準備が大切」
■第五十六回「"When the student is ready, the teacher appears."」
■第五十五回「削りだし、肉付けする」
■第五十四回「最新を知らずして…」
■第五十三回「ヒトがひとを採る」
■第五十二回「誇り、やりがい、お金」
■第五十一回「キャップは、誰が決める?」
■第五十回「出口に対する意識〜後編〜」
■第四十九回「出口に対する意識〜前編〜」
■第四十八回「ゲーム業界に就職すること」
■第四十七回「お金の話」
■第四十六回「伝える姿勢」
■第四十五回「どこをみるか?いつをみるか?」
■第四十四回「体験する重要性」
■「ゲーム教育トーク」【前編】(第四十三回)
■「ゲーム教育トーク」【前編】(第四十二回)
■第四十一回「"いま"やるべきこと〜その②〜」
■第四十回「"いま"やるべきこと」
■第三十九回「ゲームをつくるのは楽しい!」
■第三十八回「軸足をもつ」
■第三十七回「どんな経験が?」
■第三十六回「自分だけの面白いから脱却」
■第三十五回「幸せのカタチ、面白さのカタチ」
■第三十四回「プロの言葉・責任」
■第三十三回「小さな成功、大きな成功」
■「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【後編】(第三十二回)
■「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【前編】(第三十一回)
■第三十回「指導者に問われるもの」
■第二十九回「そもそも、企画の仕事って…」
■第二十八回「転職〜中級編・自分の価値を知る〜」
■第二十七回「転職〜入門編〜」
■第二十六回「リーダーシップとは」
■第二十五回「思考のスタミナ」
■第二十四回「出て行く勇気」
■第二十三回「個人でつくる・集団でつくる」
■第二十二回「指摘される勇気、指摘する気遣い」
■第二十一回「どこを見るか? どう採るか?」
■第二十回「100%の力を発揮するために……」
■第十九回「まずは、”伝える”ことから始めよう!」
■第十八回「カード少なく勝負に挑まない」
■第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【後編】(第十七回)
■第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【前編】(第十七回)
■第十六回「新人事始」
■第十五回「就職活動にみられる地方格差」
■第十四回「【思いやり】の向こう側」
■第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜」
■第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」
■第十一回「ハッカソンの功罪」
■第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」
■「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)
■「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【前編】(第八回)
■第七回「学生さんにやっていただきたいこと~後編~」
■第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」
■「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)
■「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)
■第三回「若手のチャンスとキャリアパス」
■第二回「企業×学校×学生」
■第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」
会社情報
- 会社名
- 株式会社ファリアー
- 設立
- 2016年7月
- 代表者
- 代表取締役社長 馬場 保仁