【連載】ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- 第五十回「出口に対する意識」〜後編〜


 
株式会社ファリアー 代表取締役 社長の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。同氏は、セガで家庭用ゲームの開発を、DeNAではスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任していた。ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に注力していく。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。 
 
 

■第五十回「出口に対する意識」〜後編〜



 
 
皆さん、新年あけましておめでとうございます!
この連載も拙い文章でありながら、記念すべき50回目を迎えました。第1回を開始したのが、2015年8月ですから、あしかけ2年半もの間、続いていることになります。
ありがたいことです。

業界の就活事情や、各企業さん、各学校さんの悩みや課題を「書ける範囲」でつまびらかにしていくこと、今後も継続していきたいと思います。
 
さて、今回は、学校さんの「出口に対する意識」の後編です。実は、前回、前編といっておきながらパーツパーツを語ったのみで、肝心の「出口」についてたどり着く前におわってしまいました(笑)。
 
1、学費
2、環境(ハードウェア)
3、講師
4、カリキュラム
5、実績
6、出口
7、ブランド

 
のうち、1~4については、語ってきましたので、今回は5~7について語ろうと思います。
結局は、すべて7のブランドにつながっていくことではあるのですが…
 
◇実績
 
学校とのしての実績、これはなんでしょうか?これ、各々の立場において異なると思います。実は、ここがあまり明瞭ではないので、学校の評価が難しいのだと思います。各々の立場というのは…
 
①学生の立場から 
学生の立場から、大学・専門学校の価値は、「何が学べるか?」だと思います。少なくとも、そう学生は思っているはずです。そして、それは「サービス」であるということです。なんせ、彼らは学費を払って学校にいっていますからね。おまけに、半数近く、いや半数以上の学生は「奨学金」という名の「借金」を、未来の自分からして、学びに行っています。確かに、借金という意識がやや希薄なところに問題はあると思いますけどね。話がややそれますが「奨学金」という名称を再考してはいかがでしょうか?
いわゆる、
 
もらえる奨学金=給付型
 
のもののみを「奨学金」と名乗り、それ以外の
 
返さないといけない奨学金=貸与型
 
有利子、無利子問わず返済を必要とする貸与型のものは「学費ローン」と名乗れば安直に、無知に、借りてしまう学生も減るのではないでしょうか?
 
さて、話は戻ります。学生が学校を選ぶとき、大学と専門学校では、やや様相を異にします。大学は学部、学科名で考え、更によく調べる人でどんな先生がいて、どんな学会や学問領域で活躍されているか?を見ていると思います。つまり、誰のもとで何を学びたいと思うか?粒度は異なれど、ある程度考えるわけですね。そして、そのうえで、試験を突破できるか?で最終的な志望校を確定していると思います。

いかに、全入の時代とはいえ、皆がいきたい!と思う学校さんは今でも、定員を余裕でこえてきますし、簡単に受かることはありません。ただ、AO入試などが増えて、1つの学校を何度も受けることができるようにもなってきていますし、いわゆる詰め込み型の勉強の成果発現の場である入試とな異なる面で評価をされることも増えてきています。チャンスは広がっているかもしれません(少なくとも私大は)。
 
それに比べ、専門学校は、ほぼほぼ全入なので「どこに入るか?」を良く調べたら、あとは、入試手続きをして試験(ほぼ面接)を受ければいいだけのことだと思います。
ですが、今はインターネットで情報を容易に入手できる時代になりましたので、専門学校を目指す学生たちも、
 
 ・単に家から近いから
 ・なんとなく
 
で、選ぶことは減ってきました。それこそ、学校に選ばれる入試ではなく、自分たちが学校を選ぶための情報入手の手段として「オープンキャンパス」「体験入学」に積極的に参加する子たちが増えています。

また、大学入試の勉強を直接手伝えない親御さんたちも、この専門学校選びの「体験入学」には同行されることも多く、わたしがお手伝いしている時も、学生さん自身よりも親御さんからの質問が飛ぶことの方が多かったりもします。
 
 ・現在のゲーム業界の状況
 ・将来性
 ・ブラックかどうか?
 ・手当や福利厚生など
 
などなど社会人経験があるからこそ、の質問がなされます。
やはり、専門学校は、大学とは違い、就職する業界に比較的直結するために、気になさるのだと思います。もちろん、これまで前編で語ってきた、「環境(ハードウェア)」「学費」「講師」などのことも気にされますが、いま、学校で学ぶ内容よりも、学校を出た結果どうなるか?の「出口」をより気にされるということですね(学生は、出口も気にしますが、やはり、どんな楽しいことがまっているか?ためになるか?あたりを重視しますので)生活がかかっているわけですから、当たり前といえば当たり前です(笑)。

なので、どの専門学校のホームページも大学のそれと比べると、
 
 ・就職実績
 
 というのが比較的大きく掲載されています。わかりやすいアピールポイントだからですね。
 
 ・就職率 ○○%!
 ・就職企業 ■■社、△△、…
 
 といったような感じです。あとは、この就職率が、
 
 ・ゲーム業界就職実績 なのか?
 ・業界問わずの就職実績 なのか?
 ・雇用形態は何をさすものなのか?(正社員のみ?契約社員もあわせて?アルバイトも含んで?)
 ・分母は、「入学者」をさすのか?「卒業者」をさすのか?「就職希望者」をさすのか?
 などなど
 
 どういった数値で構成されているのか?を気にされることをお薦めしますし、学校さんは、胸をはれる数値にされることが「生き残り」のために重要な「実績」かと思います。
 
 結論としては…
 
 学生(+その親御さん)の気にする実績は…
 
 ★ゲーム業界に就職できるか?
 
 ということです
 
 
②学校の立場
もちろん、学校さんも、学生さん(+親御さん)というユーザのニーズに応える実績を持ったうえで、アピールしたいのは間違いありません。ですが、この活人研で何度も書いてきてますように、ゲーム会社は、東京、大阪に偏在し、地方では札幌、福岡、名古屋、沖縄などにも比較的あれどもそれ以外の地域においては、そもそも少ないという事実があります
 これは、就職先という観点でも厳しさは確かにありますが、それ以上に「講師の確保」が難しくなります。常勤とは言わず、非常勤で一部の曜日だけであれば、可能な方があるでしょうし、昨今の時流では副業を許す企業もでてきています。

 そうなれば、さらに非常勤であれば平日昼の講義を手伝ってもらえるクリエイターも増えるかもしれません。が、これは、あくまでも、ゲーム会社がある地方の話です。と、なると業界経験ある講師が多い!をアピールすることが難しくなるわけです。ですが、現状どんな環境であろうとも、「客観的な結果」がでていれば、それは業界は知らずとも講師の熱量や学校のもつカリキュラムやシステムが優れている!ということがアピールできますからね。
 
 その1つの手段が、「外部コンテスト」の結果でしょう
 業界団体であるCESAが実施する、日本ゲーム大賞アマチュア部門、そのU18部門をはじめ、各地方にも、
 
 北海道 HOKKAIDO アプリコンテスト
 東北  DA・TE・APPS
 東海  GAIRA コンテスト
 九州  GFF AWARD
 
などなどあります。GFFはオープンコンテスト、つまりは、どの地域からのエントリーも受け付けるものです。それ以外のものは、その地域で居住、就学などが条件になっています。オープンであることも素晴らしいですし、その地域のみでしかエントリーを許さないのも、その地域の学生や産業を育成・促進するための行政の施策としては、ありだとおもいます。あとは、これら以外にも、
 
 全日本専門学校企画コンペティション
 
のような、専門学校の皆さんが自分たちでコンテストを立ち上げて、実施しているものもあります。目標をもって、スケジュール組んで動く、そして、評価を受ける(結果の出る、出ない問わず、ですね)というのは非常に大事なことです。

プロになっても、大切なのは締め切り守って面白いものをつくることですからね!!自分たちで主催はされていても、審査員は企業の方を入れられるなど、工夫されています。

やはり、就職につながることが目標ですからね。
あとは、企業が主催して、コンテストが増えていくといいと思います。弊社も、昨年新たな形のコンテストをトライアル的に実施しました。
 
 駿馬 Dev Battle
 
です。団体対抗戦のカタチをとった新たなタイプのコンテストです。
 
エンジニアがいない、少ない
デザイナーがいない、少ない
 
いろんな学校があると思います。学校の状況でコンテストにエントリーできない、というのは残念です。そこをなんとか救えないか? 且つ、超優秀な個人のみで成り立つのではない、コンテストを設立したかったからです。今年は第二回を実施したいと思っています。協力、スポンサードしていただける、目標、理念に共感をもっていただける方、企業さんはご連絡ください!
 
info@farrier.jp
 
 
業界を夢見る学生たちが、未来からの借金をしてまでその実現に頑張るわけです。そこを支えて、手を引き、実現に近づけてやることは先達たちの責務だと思います。
もちろん、本人があやふやな覚悟できていては、それも難しいでしょうが、学生というのはそもそも、まだ人生の先を確実に決めていることは少ないでしょう。わたしもそうでした。

で、あるならば、大切なのは、きっかけを与えて、興味を喚起し、それを継続して繰り返してやっていても、その楽しさが一過性のものではなく、人生の一部をかけてもいいものだな、と思えるだけのものにすることだと思います。
 
そしてそのうえで、それが夢でなく目標としてイメージできるためにも、業界、学校は「実績」を出し続けて、アピールしていかないと、この業界を目指すはずだった学生を逃すことにもなりかねないでしょう!
 
年初ということで、やや、抹香臭い話になってしまったところもありますが、今年も業界にある問題を提起して、それにむけての解決施策を提案したり、学生と企業を結び付ける一助となるような情報をご提供していきたいと思います!

 
今回は以上です!
 
 

 
ご相談、お問い合わせは…

株式会社ファリアー

 
 


■著者 : 馬場保仁
株式会社ファリアー 代表取締役社長。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。その後DeNAにてスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任。現在は、ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。



■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー

第四十九回「出口に対する意識〜前編〜」​

第四十八回「ゲーム業界に就職すること」​

第四十七回「お金の話」​

第四十六回「伝える姿勢」​

第四十五回「どこをみるか?いつをみるか?」​

第四十四回「体験する重要性」​

「ゲーム教育トーク」【前編】(第四十三回)​

「ゲーム教育トーク」【前編】(第四十二回)​

第四十一回「"いま"やるべきこと〜その②〜」

第四十回「"いま"やるべきこと」

第三十九回「ゲームをつくるのは楽しい!」

第三十八回「軸足をもつ」

第三十七回「どんな経験が?」

第三十六回「自分だけの面白いから脱却」

第三十五回「幸せのカタチ、面白さのカタチ」

第三十四回「プロの言葉・責任」

第三十三回「小さな成功、大きな成功」

「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【後編】(第三十二回)

「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【前編】(第三十一回)

第三十回「指導者に問われるもの」

第二十九回「そもそも、企画の仕事って…」

第二十八回「転職〜中級編・自分の価値を知る〜」

第二十七回「転職〜入門編〜」

第二十六回「リーダーシップとは」

第二十五回「思考のスタミナ」

第二十四回「出て行く勇気」

第二十三回「個人でつくる・集団でつくる」

第二十二回「指摘される勇気、指摘する気遣い」

第二十一回「どこを見るか? どう採るか?」

第二十回「100%の力を発揮するために……」

第十九回「まずは、”伝える”ことから始めよう!」

第十八回「カード少なく勝負に挑まない」

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【後編】(第十七回)

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【前編】(第十七回)

第十六回「新人事始」

第十五回「就職活動にみられる地方格差」

第十四回「【思いやり】の向こう側

第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜

第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」

第十一回「ハッカソンの功罪」

第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【前編】(第八回)

第七回「学生さんにやっていただきたいこと~後編~」

第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)

第三回「若手のチャンスとキャリアパス」

第二回「企業×学校×学生」

第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」
株式会社ファリアー
http://farrier.jp/

会社情報

会社名
株式会社ファリアー
設立
2016年7月
代表者
代表取締役社長 馬場 保仁
企業データを見る