【連載】ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- 第六十一回「人をみきわめる…」


株式会社ファリアー 代表取締役 社長の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。同氏は、セガで家庭用ゲームの開発を、DeNAではスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任していた。ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に注力していく。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。
 

■第六十一回「人をみきわめる…」



 


新卒採用、中途採用、ともに、人を採用する際には、なんらかの「みきわめ」をすることになります。「裁く」わけではないですが、人が人をみきわめる、ということは、その人の人生になんらかの「関与」をすることになります。

採用は、本当に「ご縁とタイミング」だなと思います。

企業で面接官をしていた時にも感じましたし、採用計画たてて採用全般を考えていた時もそれを感じていました。いまは、それプラス、学校で学生たちを指導して就職活動にむけてお世話をしていたり、エージェントとして、職業紹介をしてもいますが、立場を変えても、それは強く感じます。

と、いいますが、1社の採用のみを考えていた時に比べて、いまは、候補者もバラエティに富んでいますし、紹介する立場としては、多くの企業さんのニーズや評価基準に接することになります。

また、面接官との相性というのもあります。

会社によっては、明らかに、人事の方と、開発から面接にでてきておられる方の間で、イメージや採用基準のすり合わせがなされていないのだろうな…と感じる企業さんもあります。

面接に入る前に、アイスブレイク的に人事の方が話されて、実際の現場の方につないでみたら、かなり違うことを言われた…というのを学生さんたちから耳にすることもありますので…デベロッパーさんは、人事として専任の方をおいておられないこともありますし、人事専任の方がいらっしゃっても開発を経て、マネジメントなどを経験されたうえで、今人事という方が多いですので、比較的この齟齬は発生していないように感じます。

逆に、ベテラン開発⇒人事も兼任という方が多いので、やや基準が「古い」「その会社独自になりすぎている」ことがまれに発生しています。もちろん、古いからダメ、とか、独自だからダメなのではありません。ただ、意図してそれをやっているのならば、何の問題もないのですが、同じ方が継続しているから、外を他を知らないから、そうなっているのである場合は、一度、振り返られたほうがいいかもしれません。

企業の皆さんが意図するしないに関わらず、学生の間で評判だけは独り歩きしていきますので!


○伝えなければ、伝わらない…

ただ、「役割の異なる人間の間」で、ポテンヒット的に情報のうけわたしがうまくいっていない組織は、採用に限らずまま、見受けられます。ゲーム開発などではディレクターやリーダー層が進捗やタスクの管理をしたり、規模や速度が間に合わなくなるとPMや制作進行といった立場の人をおいて管理を強化したりしています。

採用においても、実は同じようなことをおこなっていかないと、繁忙期は間に合わないのかもしれません…

特に、開発と人事は、どちらかと言えば人事側が遠慮をして、円滑なパートナーシップを構築できていないことがあるように思います。会社のために兵站を確保するという意味でも、採用は大切な業務で、遠慮などをしている場合では無いと思います。開発側が変に「自分たちは売り上げをあげているのだから」「本業じゃないのだから」といって、忙しさを理由に、人事の方々を粗雑に扱っていることはないでしょうか?

まあ、粗雑は言い過ぎにしてもw そこに敬意や謝意は、ちゃんとあるでしょうか?あるならば、それを言葉や態度にしてあらわしているでしょうか? 家庭の話でも、男女の話でもないですが、基本的に人間と人間は、ツーカーになる、つまり「いわなくてもわかる」関係には、残念ながら簡単にはなりえません。

同じ会社の人間で、かつ、目的も同じくする者同士でもこんな感じですw これは、採用する側とされる側と立場を異にした場合、どの程度、言わなくても伝わるでしょう?これは、採用する側であるならば、

・どんな人間が必要か?
・自社において、あなたがどう必要か?
・社風
・労働条件、キャリアパス

など

を伝えないと中途採用の社会人ですら、情報不足や早合点で誤認することもありますし、学生にいたっては、なおのことそうです。学生に関しては「業界にはいれるならば」「あこがれ」などである程度、盲目になっているところがあるので、結果がでるまでは問題ないかもしれません。が、中途採用は、すでに仕事をしていた経験もあるので、比較対象もありますし、新たな環境で働く場合、「満たしたい基準・項目」は、ある程度、もっておられることが多いでしょう。

だとすると、そことの差やイメージの違いは、なんらかの方法で埋めないといけません…相手に本当に姿を知ってもらう前に「お断り」をされる、これほど悲しいことはありませんので…

あと、最近、新卒・中途ともによく聞くのが、

「入る前までと、入ってからのイメージが大きく違う」

というものです。もちろん、これは、入社する側の「勘違い」や「見込みの甘さ」という場合も、ままあります。わたしが、紹介する際には、これができるだけおきないように、

・入社前に、いろいろな年齢や立場の方に会っていただく
⇒中途であれば、自身の年齢やキャリアに近い方にお願いする
⇒新卒であれば、入社3年目未満の若手にあっていただく

など

をしていただいています。口酸っぱく、その会社の懸念事項もお話しします。あ、どんな会社でも100点満点ではないので、なんらかの懸念はあるものです。でも、話半分くらいに聞いてらっしゃる方がたまにいらっしゃいますけどね(苦笑)そこは、入社後も、しつこくフォローをすることで、なんとか折り合えるようにしていますが…

ただ、いかに入社する会社の方に会っていただいても、その方々が、必要以上に「良く見せよう!」「アトラクトしよう!」と良い話をしすぎると、「嘘ではないものの…」になってしまいかねないので、気を付けたいところです。

その方を必要としている、ぜひ、Joinしてほしい! その熱意がなせるわざなので、責めることはできません。ただ、ポイントを、目的を再度確認して、この面談に送り出したいですね! ポイントは、

・入社いただくこと!ではなく、入社して、一定期間以上活躍していただくこと

だということですね。

人間は、経済事情だけで動くわけではありませんし、人とのつながりや、やりがいなども大きな働く上での「こだわり」になります。また、価値観のようなものが異なると、どんどん、ストレスが溜まっていきます。ただ、折り合えなくはないですし、フォローがはいれば、解消できるものもたくさんあります。

あとは、下手にポストや役目を約束しない、つまりは、空手形をきらないことです。これは、気を付けないと、

話し手と聞き手

で、認識の違いがうまれることがあります。よくあるのが、退職理由に、

「入社時に、ディレクターにさせてくれると言われたのに、まったくその気配がない」

などがよくきかれます。人事や面接官に、こんなこといったのか?と確認すると、

「いや、そうは言ってない。いずれは、ディレクターとなって活躍してほしい! とはいったけれど…」

みたいな話になっていること多いんです。これ、たしかに、各々の立場で見れば、まさに、

話し手「コミットはしてない。どちらかといえば、期待と述べてハッパをかけただけ」
聞き手「ディレクターになれるんだ!」


というようなとり方の違いがうまれそうです。

もちろん、期待はかけたいし、ハッパもかけたい。でも、誤解されては元も子もないです。

本当にその立場で入社してもらうならばいいですが、そうでないなら、肩書については、ほぼほぼ話題にものせない、ということが大事かと思います。質問された時は、

「肩書は約束できません。それは、ご自身で成果を出し、信頼を勝ち取り、そのうえでつかんでください!」

みたいに話すといいのではないでしょうか? 新卒も似たようなことがあります。期待を言語化する時は、慎重にならないといけないということですね。


○新卒には、肩書よりも、成長像を共有する

新卒採用時には、ポストや肩書を話しても、あまりイメージが伝わらないことが多いです。

過大にその肩書に関してイメージしていることもありますし、各社において、役割が違うことも、ままあるからです。なので、

現在のきみは、これができる!
そして、こんなポテンシャルを持っている!

1年後のきみに期待するのは、こういったスキルを身につけている
3年後のきみに期待するのは、こういったスキルを更に身につけている!

そんな成長を期待するし、促すように仕事と環境で育成していく計画です!
のような…

そもそも、学生はポテンシャルのかたまりです。

本当に必要なのは、情熱や諦めない気持ちだと思います。そこに、その会社にあわせた、最低限のスキルをもっている必要があるということでしょう!

冒頭のレーダーチャートのように、「情熱」は突き抜けているけど、他は、まだまだこれからの子を好む企業もあれば、全体的に、平均的に、一定値できないといけない、とする企業もあります。ちなみに、どちらの数値の合計も同じ数字になります。どちらが、正しい採用か?は、その企業の考え方を尊重しますし、そもそも、レーダーチャートの

・項目数 が 6どころではなく、もっと多い!
・項目が、「情熱」「素直さ」「諦めない」「技術」「論理性」「教養」などとは異なる評価項目


などなどあると思います。あくまでも一例ですしね。

ただ、このレーダーチャートでもすべてが10点なんている学生は1000人に1人もいないと思いますし、いたとしても、その学生が、その企業に、もしくは、ゲーム業界に就職しなければいけない理由もないのです。そこまでできる学生ならば、どの業界でも欲しいでしょうし、どの業界でも、ある程度成功するでしょうから…

だからこそ、企業がもっと学生と接触し、教え、伝え、体感させる機会を増やさないといけないと思います。なぜなら、ゲーム開発は、なかなか学校でも学ぶことは難しいですし、プロの世界で実施されていることを学べる機会はプロからしかないところもありますので。(学校の否定ではありません。学校は学校でないとできないこともあります)

なので、説明会もどきのインターンは…という指摘もされてきていますが、プロから学べることは多いですし、

・大人から学ぶ、話す
・AWAY環境にでかける
・同世代の他校のライバルと接する


は、非常に成長を促すことができるので、学生もプロも学校も、お互いが何かをもちより、勉強するコミュニティをつくることができるといいですね!

わたくしは、毎月全国何処かで、「駿馬 ゲームクリエイター育成講座」を実施して、少しずつ種まきをしています。今月も、横浜で開催です。ぜひ、日程の都合のあう方は!

第24回 駿馬 KAIKOU 横浜
https://shunme-24.peatix.com/
 

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株式会社ファリアー

 


■著者 : 馬場保仁
株式会社ファリアー 代表取締役社長。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。その後DeNAにてスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任。現在は、ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。



■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー

第六十回「按図索駿(あんずさくしゅん)」

第五十九回「”敬意” と “覚悟” ~採用チームと選考項目~」

第五十八回「学生から学ぶこと」

第五十七回「なにごとにも、準備が大切」

第五十六回「"When the student is ready, the teacher appears."」

第五十五回「削りだし、肉付けする」

第五十四回「最新を知らずして…

第五十三回「ヒトがひとを採る

第五十二回「誇り、やりがい、お金」

第五十一回「キャップは、誰が決める?」

第五十回「出口に対する意識〜後編〜」

第四十九回「出口に対する意識〜前編〜」​

第四十八回「ゲーム業界に就職すること」​

第四十七回「お金の話」​

第四十六回「伝える姿勢」​

第四十五回「どこをみるか?いつをみるか?」​

第四十四回「体験する重要性」​

「ゲーム教育トーク」【前編】(第四十三回)​

「ゲーム教育トーク」【前編】(第四十二回)​

第四十一回「"いま"やるべきこと〜その②〜」

第四十回「"いま"やるべきこと」

第三十九回「ゲームをつくるのは楽しい!」

第三十八回「軸足をもつ」

第三十七回「どんな経験が?」

第三十六回「自分だけの面白いから脱却」

第三十五回「幸せのカタチ、面白さのカタチ」

第三十四回「プロの言葉・責任」

第三十三回「小さな成功、大きな成功」

「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【後編】(第三十二回)

「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【前編】(第三十一回)

第三十回「指導者に問われるもの」

第二十九回「そもそも、企画の仕事って…」

第二十八回「転職〜中級編・自分の価値を知る〜」

第二十七回「転職〜入門編〜」

第二十六回「リーダーシップとは」

第二十五回「思考のスタミナ」

第二十四回「出て行く勇気」

第二十三回「個人でつくる・集団でつくる」

第二十二回「指摘される勇気、指摘する気遣い」

第二十一回「どこを見るか? どう採るか?」

第二十回「100%の力を発揮するために……」

第十九回「まずは、”伝える”ことから始めよう!」

第十八回「カード少なく勝負に挑まない」

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【後編】(第十七回)

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【前編】(第十七回)

第十六回「新人事始」

第十五回「就職活動にみられる地方格差」

第十四回「【思いやり】の向こう側

第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜

第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」

第十一回「ハッカソンの功罪」

第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【前編】(第八回)

第七回「学生さんにやっていただきたいこと~後編~」

第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)

第三回「若手のチャンスとキャリアパス」

第二回「企業×学校×学生」

第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」
株式会社ファリアー
http://farrier.jp/

会社情報

会社名
株式会社ファリアー
設立
2016年7月
代表者
代表取締役社長 馬場 保仁
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